【2022年1月11日(火)2面】 自国が持つ能力を活用し、他国の能力の構築を支援する防衛省の「能力構築支援事業」。平成24年から始まった事業は、その後、東南アジア諸国を中心に応援要請などが多く寄せられ、昨年11月までに自衛隊などが派遣されたり、現地から日本に研修員として受け入れた国や団体は16カ所に達している(防衛省まとめ)。国の軍や軍関係機関などに対して行う範囲は広く、対象国などから大きな評価を受けている。応援要請はさらに続き、今年も防衛協力と交流に向け、事業の強化が図られるだろう。
能力構築支援事業は、「アジア太平洋地域の安定化」を目的に、平成22年12月に閣議決定された防衛大綱に初めて記され、2年後に始まった。
また、25年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」では、(1)能力構築支援のさらなる戦略的活用(2)安全保障関連分野でのシームレスな支援―などが盛り込まれ、同時に閣議決定された防衛計画の大綱(防衛大綱)や中期防衛力整備計画(中期防)でも、能力構築支援を推進し、対象国と支援内容を拡充していく方針などが掲げられた。
支援する内容も幅広い。人道支援・災害救援や地雷・不発弾処理、防衛医学、海上安全保障、国連平和維持活動のほか、軍楽隊への支援などさまざまで、実施方法は現地への派遣や日本への招へい、現地セミナー、オンラインなどがある。
防衛省は「安全保障・防衛分野でも、その重要性が認識されている」としており、東南アジア諸国をはじめとする国々の防衛当局からは、同省に対し、国際会議や二国間会議などの機会を捉え、支援要請が寄せられている。
支援先は特に、途上国が多い=表参照。防衛省のホームページによると、2012年(平成24年)10月17日にモンゴルへの「衛生」支援から始まり、件数は12年=3件▽13年=10件▽14年=14件▽15年=20件と増え続け、16年は年間で26件、18年には同32件となっている。
防衛省によると、事業は「国家安全保障環境の安定化や改善に貢献する」ため、(1)支援対象国が自ら貢献できる(2)対象国や米国、豪州をはじめとするほかの支援国との関係強化などの意義・目的があるという。また、自衛隊の能力の向上を図るねらいもある。
陸自中央音楽隊は平成27年からパプアニューギニアの軍楽隊に対し、演奏技術や楽器整備などの指導を行うなど、支援を続けている。
国連アビエ暫定治安部隊への参加準備に協力
防衛省は12月21日、11月の日越防衛相会談の結果を踏まえ、ベトナム人民軍による「国連アビエ暫定治安部隊(UNISFA)」への参加準備に協力するため、陸上自衛官をベトナムに派遣し、能力構築支援事業を実施すると発表した。
事業内容は、各種物品の梱包に関する知見共有、実技支援。ベトナム人民軍UNISFA参加部隊がPKO活動に使用する多量の物品を計画的に長距離輸送するために必要となるものという。
期間は12月23日から約1カ月。場所はベトナム社会主義共和国のハノイ市と近郊地域で、防衛政策局参事官付、陸自中央輸送隊、同陸上総隊中央即応連隊、同陸上総隊国際活動教育隊から計27人が派遣される。
21日に記者会見した岸信夫防衛大臣は、「この協力を日本の知見とベトナムのリソースを活用し、ともに国際社会の平和と安定に貢献するとの『新たな段階に入った日越防衛協力』のモデルケースとして位置づけている」と述べた。
防衛省は12月28日、公式ツイッターで同省・自衛隊が同25日にベトナム軍の国連アビエ暫定治安部隊(UNISFA)参加準備への協力を開始したことを紹介した。
ツイッターによると、ベトナム軍がUNISFAで使用する物品の梱包について、陸自中央輸送隊、陸上総隊中央即応連隊、国際活動教育隊などの隊員計27人が、知見の共有や実技の支援を行った。
フィリピンに10人派遣 捜索救助活動の識能を付与|都城駐43普連
昨年11月中旬、フィリピンで能力構築支援活動を行った都城駐43普連(連隊長・中尾1陸佐)から、現地での活動と帰国行事の様子の投稿が寄せられましたので、紹介します。
◇
都城駐43普連は11月15日から19日の間、フィリピン共和国陸軍に対し、人命救助システムを活用したHA/DR分野に係る能力構築支援を実施した。支援は、捜索救助活動に係る識能を付与し、同国陸軍の災害対処能力向上に寄与するのが目的で、重迫撃砲中隊長の廣瀬1陸尉を隊長として10人の隊員を派遣した。
10月31日の入国から2週間の停留を終え、訓練初日にはマニラを拠点に活動する第525戦闘工兵大隊の熱烈な歓迎を受けた後、開講式を行い派遣活動が開始された。
陸自の災害派遣活動などの実績や人命救助システムの器材の運用、維持整備要領について展示教育を行うとともに、工兵大隊による人命救助を想定したデモンストレーションが実施された。
協同訓練では、フィリピンに供与した人命救助システムの器材を協同で使用した人命救助訓練の反復訓練を行い、両国間の相互理解と信頼関係を構築することができた。
帰国後の2週間の停留を終えた12月6日、都城駐で帰国行事を行い、堀井師団長から「コロナ禍で状況が不安定な中でも、しっかりと任務を果たしてくれた」などの訓示があった。
廣瀬隊長は、「フィリピン軍は陸自に対する尊敬の念が強く、訓練に臨む姿勢も熱がこもっており、われわれ派遣隊員もその期待に応えるため、一生懸命頑張りました。今回の経験を基に、教育訓練や災害派遣活動に一層生かしていきたい」と述べた。
43普連は「国内外の多様な任務にも即応できる、さらに精強な連隊を目指して、日々努力する」としている。
UNTPPでも派遣
防衛省は12月24日、国連三角パートナーシップ・プログラム(UNTPP)の一環として、1月19日から、ケニアで実施されるアフリカ地域の工兵要員を対象とした重機の操作訓練に、陸上自衛官20人を派遣すると発表した。
訓練期間は、1月19日から3月15日。ケニア・ナイロビ市内の人道平和支援学校(HPSS)で、野上2陸佐以下20人がアフリカ地域の工兵要員に対する重機の操作や整備の教育などの事業にあたる。
防衛省によると、PKOの円滑化に欠かせない施設や輸送の分野で確かな信頼を得てきており、PKOの早期展開を支援し、質の高い活動を実現するため、平成26年9月の第1回PKOサミットで安倍首相(当時)が、重機などの装備品供与と各国要員への機材操作教育をパッケージで行っていくという貢献策を表明した。
平成27年以降、自衛隊は、アフリカとアジアで試行訓練を含めた計12回の重機操作教育訓練に延べ230人の陸上自衛官を派遣。アフリカ、アジアとその周辺地域の工兵要員333人に対し、訓練を実施している。