自衛隊の新時代を切り開く女性自衛官たちの活躍に、67年の歴史を持つ自衛隊広報紙「防衛日報」が独自取材で迫ります

キラリ☆輝く女性自衛官 ~ 並木月海3陸曹(自衛隊体育学校)編

 東京2020オリンピック、ボクシング女子フライ級準決勝。ブルガリアのクラステバ選手に判定で敗れ、決勝進出を逃した並木月海3陸曹(自衛隊体育学校所属)は、悔し涙を抑えることができなかった。ボクシングは3位決定戦がないため、この試合が始まる時点ですでにメダルの獲得は決定していたが、頂点だけを目指していた並木3曹にとっては、銅メダル獲得の喜びより、金メダルに届かなかった悔しさの方が大きかったのだ。

 オリンピックの激闘から1カ月ほど経った9月中旬、「やっと落ち着き、今はホッとしています」という並木3曹に、現在の心境を語ってもらった。

 負けた直後はすごく悔しい銅メダルという気持ちでしたが、応援してくださった周りの方々から「感動したよ」「おめでとう」とたくさんのお言葉をいただき、私自身、今は銅メダルを誇りに思うし、負けた直後に悔し涙を流せる自分でよかったと思っています。(並木3曹)

画像: 東京オリンピックの表彰式でメダルを掲げる並木3曹(左から2人目) (日本ボクシング連盟提供)

東京オリンピックの表彰式でメダルを掲げる並木3曹(左から2人目)

(日本ボクシング連盟提供)

 金メダルには手が届かなかったが、日本ボクシング界初の五輪女子代表選手としてメダルを獲得したのは、まぎれもなく「快挙」である。ともに出場した女子フェザー級の入江聖奈選手(日体大)が金メダルを獲得したインパクトが大きかったため、並木3曹のメダルの重みがやや伝わりにくくなっているが、入江選手の金メダルは「偉業」といっていいレベル。それは、日本の女子ボクシングの歴史を見ればご理解いただけるはずである。

画像1: 女子ボクシング初の五輪代表(1/4話)

 男子は野球、女子はソフトボールというように、男女で種目が分かれている競技を除くと、2012年のロンドン五輪以降、全ての競技で女性の参加が可能になったが、実はボクシングは、女性の参加が認められたのが最も遅かった競技なのである(新採用の競技は除く)。

 ボクシングは、ギリシアで行われていた古代オリンピックから続く伝統ある競技であり、格闘技の中ではレスリングと並ぶ最古の種目である。記録によると、紀元前668年の第23回大会から、レスリングとともに競技種目になっている。

 日本オリンピック委員会(JOC)のホームページによれば、当時はレスリングと同様に時間制限もインターバルもなく、たとえ倒されても敗北を認めない限り相手の攻撃は止まらないというルールだった。体重別の階級もなく、グローブの代わりに敵へのダメージを大きくするための革ひも(のちに金属の鋲まで埋め込まれた)を拳に巻いて殴り合った。現代の感覚で言えば、スポーツというより、「命懸けの決闘」だったようだ。

 そうした歴史や、顔を殴り合うという競技の特性からなのか、ボクシングには長く女性の参加が認められてこなかった。そして、ロンドン五輪で女子の参加種目に加えられてからも、なおこうした見方が根強く残っているのも事実である。東京五輪でも、有名な野球解説者が「女性でも殴り合いが好きな人がいるんだね。見ててどうするのかな? 嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね。こんな競技好きな人がいるんだ」と発言し、物議を醸したことは記憶に新しいところだ。

画像: 練習中の並木月海選手 (自衛隊体育学校提供)

練習中の並木月海選手

(自衛隊体育学校提供)

 並木選手が生まれたころ(1998年)、女子ボクシングにはまだ世界大会すらなかった。国際アマチュアボクシング協会が初めて世界女子ボクシング選手権大会を開催したのは、21世紀に突入してから(2001年)のことである。

 ロンドン五輪で女子ボクシングの採用が決定してからも、日本女子ボクシングの苦闘は続いた。ロンドン五輪の予選では、人気芸人のしずちゃん(南海キャンディーズ)らが出場を目指し注目を集めたが、結局、日本の選手は出場枠を獲得できなかった。まだまだ選手層も、実力も、世界の水準には達していなかったのだ。

 続く2016年のリオデジャネイロ五輪でも、日本選手は出場権を得ることができず、夢は東京五輪に持ち越された。柔道やレスリングでは多くのメダルを獲得している「格闘技大国」の日本だが、ボクシングにおいては、世界の壁はとてつもなく高く、ぶ厚かったのである。

現在、日本ボクシング連盟の女子強化、普及委員を務める「しずちゃん」こと山崎静代さん

(日本ボクシング連盟提供)

 そんな歴史を打ち破ったのが、今回日本女子選手として初めて出場し、ともにメダルを獲得した22歳の並木3曹と20歳の入江聖奈選手(日体大)だった(年齢はともに出場時)。若い二人が大舞台で揃って躍動し、メダルを獲得したことで、やっと日本人に「女子ボクシング」という競技が広く認識されたのである。

東京オリンピックでメダルを獲得した並木3曹

日本ボクシング連盟ツイッターより
画像2: 女子ボクシング初の五輪代表(1/4話)

 並木3曹は、東京オリンピック前の弊社の取材で、オリンピックへの意気込みとして、「アマチュアボクシングの魅力、面白さを伝え、女子ボクシングに興味を持ってもらいたい」と語っていた。入江、並木両選手の試合を見て、初めてアマチュアボクシングに興味を抱いた人は少なくないだろう。今回、改めてその点について伺うと、「今はたまたま注目してもらえているだけだと思っています。これを続けるには、結果を出し続けるしかない」と、冷静に状況を分析してみせた。

 日本の女子ボクシングの歴史は始まったばかり。次回は、東京オリンピックでその先陣役を見事に果たした並木3曹がボクシングと出会い、自衛隊体育学校に入校するまでの歩みを紹介する。

▷▷ 次回は、ボクシングでオリンピックを目指し、自衛隊体育学校に入校するまでを振り返ります。

▷第1話 第2話 第3話 第4話

プロフィール

3陸曹 並木月海(なみき・つきみ)
自衛隊体育学校
平成10年生まれ

【主な経歴】

平成29年 4月自衛隊体育学校入校
平成30年11月世界女子ボクシング選手権 銅メダル
令和 3年 8月東京2020オリンピック ボクシング女子フライ級 銅メダル

This article is a sponsored article by
''.