自衛隊の新時代を切り開く「女性自衛官たち」の活躍に、67年の歴史を持つ自衛隊専門紙「防衛日報」が独自取材で迫ります
キラリ☆輝く女性自衛官 ~ 蛯原寛子准陸尉(陸自15旅団)編
現在、防衛省・自衛隊では、女性の活躍推進のための改革に取り組んでいる。活躍する女性自衛官の代表である蛯原准陸尉に、変わりつつある自衛隊について伺ってみた。
――女性自衛官が増えてきていると思いますが、それに伴い昔と比べてこんなところが変わってきたなと感じるところはありますか?
蛯原 自分より少し上の先輩方は、8割ほどが任期満了もしくは結婚・出産のタイミングで退職されて、ほとんど残りませんでした。当時は女性が結婚し、子育てをしながら勤務できる職場環境や男性隊員の理解、制度などもなく、仕事を続けることが厳しかったと思います。
今は、制度なども改善が進み、社会環境も変わってきており、女性自衛官が働き続けることができるようになってきたと感じます。
――現在、自衛隊は女性の活躍推進を進めていますが、まだまだ体制面や施設・設備面ほかで課題も多いと思います。問題意識を持たれている点や、「こうなっていけばいいな」というイメージがあれば教えてください。
蛯原 30年前に比べれば格段に進化し、環境も変化していますが、まだまだ現場の中には産休や育休で休む(職場にいない期間が発生する)ことへの偏見、子供の面倒は母親任せにする風習、妊婦隊員へのハラスメントなどもあります。
また、女性隊員は増えるがトイレはない、受け入れる部屋がない、などと設備面も深刻です。我々のような立場の者が事あるごとに声に出し、理解を進める努力は必要と思います。そして、「女性だから」とか「女性初!」などと言われない時代が来ればよいと思っています。
実は、防衛日報デジタルが今回、このように大々的に女性自衛官にスポットをあてる企画を立ち上げたのも、「女性初」という取り上げ方はこの2~3年がピークで、あと5年も経てばそんな括り方も意味を持たなくなってくるのでは、という思いがあったためだった。
15旅団長の佐藤陸将補は、最先任上級曹長の交代式で蛯原准尉を「親しみやすい性格の(最先任上級曹長に)最適な人物」と評した。蛯原准尉は、自らを「性格はポジティブ。(キャラクター的には)エースになれないキャプテンタイプ」と分析している。
普段の生活の中で大事にしていることを伺うと、「気になっていることを放置しない」「気になるなら自分で動く」「ありがとうと伝える」「感謝する心を忘れない」の4つを挙げた。いずれも部隊をまとめる上でも大切なことばかりである。こうした心構えを伺った上で佐藤旅団長の人物評を聞けば、それは男女の区別は関係なく最適という意味なのだろうと思う。
さて、5回にわたってお届けしてきた「旅団初の女性最先任上級曹長」のインタビューもいよいよ最終盤となった。蛯原准尉が勤務する15旅団の現況についても聞いておかねばならない。
――沖縄は地政学的にも国防上ますます重要になっていますが、現場では有事に備えた緊張感は高まっているでしょうか?「美(ちゅ)ら島の護り」を掲げる15旅団を代表して、現在の国防に対する思いなどを読者に伝えてください。
蛯原 私たち第15旅団隊員は、旅団長の指揮の下、命令のままに行動できるよう訓練を重ねています。南西防衛について日々緊張状態が続いていることも、それぞれの立場で理解しています。訓練の中で危険な行動を伴うこともありますが、 だからこそ安全に安全を重ね、間違いのない動作を繰り返し行います。
旅団長が着任時に要望されたのが、「誇りを持て」「和を大切に」「県民と共に」です。その言葉通り、私たちが「沖縄の護り」のためにここにいると誇りを持っています。危険な任務に向かえるよう、仲間との和を大切にしています。そして、県民と共にこの沖縄を大切に思っています。
尖閣諸島沖では中国海警局の船舶が領海侵犯を繰り返し、台湾有事への懸念も深まるなど、南西防衛の第1線守備部隊である15旅団には、これまで以上の「備え」が求められている。
蛯原准尉が束ねる15旅団の准曹士たちは、沖縄の空の下、今日も厳しい訓練に耐え、在沖米軍部隊と連携しつつ、事態発生時に即応できるよう準備を重ねている。
プロフィール
准陸尉 蛯原寛子(えびはら・ひろこ)
陸上自衛隊15旅団最先任上級曹長
昭和43年生まれ
【主な経歴】
平成元年 3月 | 入 隊 |
平成元年 9月 | 東部方面通信群(富士) |
平成11年 3月 | 東部方面通信群 信電陸曹(朝霞) |
平成12年 3月 | 陸上幕僚監部人事部(檜町) |
平成13年 3月 | 中央基地通信隊電話中隊 有線通信陸曹(市ヶ谷) |
平成17年 8月 | 第1混成団本部付隊 第1科総務陸曹(那覇) |
平成22年 3月 | 那覇駐屯地業務隊 司令職務室総務陸曹(那覇) |
令和 2年 3月 | 第15旅団司令部付隊 総務総括准尉(那覇) |
令和 3年 3月 | 現 職 |
次回の「キラリ☆輝く女性自衛官」は、女性で初めて陸自の離島防衛専門部隊「水陸機動団」の基本訓練課程を終えた二人の隊員の「その後」を紹介します。
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