プロフィール
佐野 秀太郎さん
現職:日本大学国際関係学部・教授
自衛隊退職時役職:陸上自衛隊1等陸佐

キャリアインタビュー第5弾

 元自衛官キャリアインタビュー、ライターの太田です(私の経歴は以前の記事をご覧ください)。

 いつもご覧いただきありがとうございます。今回は、陸上自衛隊を1佐で定年退官され、民間企業へ再就職された佐野さんにインタビューをお受けいただきました。幹部自衛官を定年退職され、2021年4月より日本大学国際関係学部教授に就任されています。

 佐野さんは在職中米国ハーバード大学の留学経験もあり、防衛大学校の教授を歴任されていることから、今回自衛隊内でのキャリアアップ、再就職先企業の決め方やセカンドキャリアへのマインドセットについてお伺いしました。

【経歴】

ーーこの度はお時間をいただきありがとうございます。まず佐野さんのご経歴についてお伺いできますか。

 佐野さん:防衛大学校で国際関係論を専攻し、陸上自衛隊に入隊しました。陸上自衛隊では、最初に普通科教導連隊に配属されたのですが、すぐ米国留学の声が掛かり、2年ほどその準備をした後に、ハーバード大学ケネディ行政大学院に合格し留学しました。

 そこで、2年公共政策の勉強をした後、日本に帰ってきてからは富士学校勤務や指揮幕僚課程に進み、その後幹部候補生学校で戦術教官として勤務。そして、安全保障に関してより学びを深めるために防衛大学校で修士課程、博士課程を修了してから、研究本部に勤務し、その後防衛大学校では教授・国際交流企画官として学生教育や国際交流の業務に携わりました。

 定年退職後は、自衛隊援護業務課から紹介を受けて、民間の研究機関である国家戦略研究所に再就職をしましたが、新型コロナウイルスの影響を受けて閉鎖されるため、2021年4月から日本大学の国際関係学部の教授に就任します。

ーー自衛隊キャリアでもかなり特異なキャリアコースだと思いますが、そうしたコースがあるのでしょうか。

 佐野さん:防衛大学校在学時は、アメリカに留学するコースがあることすらも知りませんでしたが、ただ将来的には国際的なことをしたいとは考えていました。

 最初の部隊配置先であった普通科教導連隊に行って一年くらい経った時に、なぜかロシア・中国・ハングル語のいずれかの語学課程に行かないかと打診があり、その時は、全然米国留学の話は出ていなかったんですね。それが、急遽米国留学を打診されて、もともと国際関係で仕事をしたいと考えていたため、挑戦させていただきました。

 試験対策等準備が必要なため、陸幕の指示で慶応義塾外国語学校の夜間英語コースに通いました。当時小平にあった調査学校に配置されましたが、そこから慶應大学に通う傍ら、小平学校では幹部初級課程の学生たちに対して英語を教えていました。

 その後、久里浜にある通信学校に配置換えをしてもらい、そこから防衛大学校に通いながら留学準備を本格的に進めていきました。猛勉強していましたね。

ーー抜擢された背景では、防衛大学校の頃から英語ができたのでしょうか。

 佐野さん:防衛大学校時は、同期の中でも英語ができた方だったと思います。父の仕事の関係で、幼少期は7年間海外にいたんです。カナダ4年とイギリス3年ですね。幼少期に過ごしたこともあり、会話力、リスニング能力はもともと持っていました。

 防衛大学校でも英語の成績は高い方でしたし、「佐野は英語ができる」という認識はされていたと思います。ただ、英語だけではないですよ。学生時代は、専門科目の国際関係論や訓練科目についても、一生懸命勉強しました。

画像: 【経歴】

ーーそうした背景がある訳ですね。そしてハーバード大学のケネディスクールへ留学されるわけですが、当然入試も難関ですよね。

 佐野さん:かなり難しいですね。世界中から優秀な学生が集まってくる訳ですから。そのため、対策や勉強はしっかり行いました。願書出願のためのエッセイや試験たくさんがありますし、面接も当然受けます。

 4つの学校に願書を出しました。ハーバード大学のほか、ジョージタウン大学の外交政策大学院、ジョンズ・ホプキンズ大学の高等国際関係大学院(SAIS)、タフツ大学のフレッチャー・スクールに受かりましたが、当時自衛隊からハーバード大学に留学した人があまりいなかったことからハーバード大学を選択しました。

 ハーバード大学は、面接官がわざわざ来日して、日本人の候補者たちを個別に面接していったことが印象的でしたね。品川の高輪ホテルで面接を受けた記憶があります。

ーー自衛隊からハーバード大学へ留学されるケースもあるんですね。

 佐野さん:少ないですが。ハーバード大学へ行ったのは、私の上の期に航空自衛官がひとりキャリアのコースに合格し、留学したことを聞いています。ただ、陸上自衛隊からは私が初めてで、MPPプログラムに関しては、自衛隊で初ですね。

ーーまさしくパイオニアですね。留学に際しての準備がかなり大変そうです。

 佐野さん:多面的な評価で合否が決まります。要点は下記です。

・学位成績:防衛大学校の成績がベースになります。願書を出す学生はみんな優秀なので、そこで不合格にならないくらいの成績であることは必須。
・TOEFL:ネイティブでは無い人は、TOEFLを受けました。出願当時は、677点が満点で、合格点は600点以上。ただ、600点をクリアしたからといって、合格するとは限りません。600点はいわばボーダーラインでしかありません。

・GREテスト:アメリカの大学生が大学院に入る時に受ける、日本でいうところのセンター試験のような位置付けで、これも高い点数が求められます。
・エッセイ:求められるエッセイ数は学校によりましたが、ハーバード大学の場合、公共政策を中心にエッセイを5本書きました。
・推薦状:アメリカの大学では非常に重視されます。私は、当時の陸上自衛隊幕僚長と防衛大学校の教授に書いていただきました。

ーー推薦者がすごいですね。卒業も大変そうですが、どのような勉強をしたのですか。

 佐野さん:MPPでは2年間、公共政策を必須として、その他選択科目として国際関係を学びました。通常の授業ではディスカッションが重視され、長々数十ページのレポート書くとは稀で、ほとんどは3枚から5枚もしくは1枚のレポート提出が中心でしたね。

 実践的なんだと思います。実社会でも、長々書かれても上司は読まないですから、端的にまとめる能力や問題点を明確にして検討すべきポイントを見出す能力を鍛えられます。

 卒業論文は、一般的な学術的な論文ではなく、PAE(Polcy Analysis Excersise)という政策提言レポートを書いて評価を受けます。PAEが実に面白かったのは、各学生が実在する組織とコンタクトをとり、その組織が抱えている喫緊の課題に対して、学生が実際に対策案を提示すること
にありました。

 私の場合、国際連合日本政府代表部を選び、日本よる国連安全保障理事会・常任理事国入りの可能性について研究しました。結論は、常任理事国入りは困難であり、日本だけが目指してもうまくいかなく、常任理事国を目指す志を持つ他国とともに合従連衡で、加入を目指すべきと提言しました。

 この結論は当時の日本政府の方針と異なっていたため、担当教官からは大変評価されました。

ーーなるほど、日本に帰ってからは基本的に研究や教育のキャリアを進まれていますね。

 佐野さん:そうですね、指揮幕僚課程に進んだ後に、幹部候補生学校の戦術教官をして、その後、研究本部で本部直轄研究員として研究業務に携わりました。そして、防衛大学校に在籍した際には、戦略国際問題研究所(CSIS)の客員研究員や、政策大学院大学の非常勤講師など自衛隊外でも仕事をしてきました。

【世界各国から注目される防衛大学校】

ーー研究や教育での勤務で得られた知見、思い出やエピソードを教えていただけますか。

 佐野さん:防衛大学校勤務時は、教えるだけじゃなく、国際交流業務にも携わっていました。
赴任してから間もなく国際交流センターが発足したのですが、私は、センター長を支える国際交流企画官という立場から、学生を海外の士官学校に送り出したり、逆に海外の士官候補生を迎えたり、また新規に交換留学するルートを検討・構築しました。また、諸外国の政府・軍の要人たちが防衛大学校を視察する際の調整・進行も行っていました。

 ちなみに、国際交流自体は、もともと各学部ごとに担当していたのですが、これらを一元的に管理してその業務の強化を図るために国際交流センターが立ち上がりました。ただ、発足当初は、かなり混乱状態でしたね。

 国際交流センターができたことで、英語や海外との折衝は全てこちらに来たんです。本来学部や各課がやるべき仕事でも、英語になった瞬間にこちらに丸投げされてしまったりと。しかも、実質増員なしで。

 その業務は違うんじゃないかと言っても、たらい回しにされて、何から何まで仕事が回ってきたりとその調整や仕組みを作り上げるまでは大変でしたが、非常に良い経験になりました。

 ただ、私の部下たちは皆細部のことまできめ細やかに仕事をして、本当にたいへんな思いをしていました。部下たちにはただただ感謝です。

 国際交流という業務に携わって最も強く感じたことと言えば、それは防衛大学校で勤務している教職員が想像している以上に、大学校が世界各国から大変注目されているということです。

 日本だとあまり気づきませんが、海外では士官学校は各国のエリートの集合体ですし、どこもそういう目で見てくるんですね。海外からの要人の多くが防衛大学校の視察を希望します。また、海外の研究員も彼らのキャリアにプラスになるため、防衛大学校で教育や研究に携わりたいという要望も多々ありました。

 これだけ注目されているため、注目されている以上パフォーマンスを発揮しなきゃいけないんですが、まだまだ防衛大学校も改革が必要と感じています。

ーーそれはどのような点でしょうか。

 佐野さん:まず、教育で今最も必要だと感じるのが、英語教育です。もちろん英語という語学の授業はある訳ですが、語学以外の一般教養科目や専門科目についても英語で進めていく必要があると強く感じます。英語で学ぶことが全てとは言いませんが世界を取り巻く情報の多くは英語です。

 そのため、最新の議論や専門用語の理解をすすめる上では、英語による授業が必要だと感じます。私の場合、それができる教育環境であったため、ラッキーであったと思います。なぜなら、私が担当した科目の1つ「国際情勢と安全保障」は、同じ時間帯に数人の教官たちが担当できたんです。

 よって、英語による授業と日本語による授業を使い分けることができ、私は英語で授業を実施できたんです。「国際情勢と安全保障」以外にも、私は、「アジア安全保障協力」という科目を英語で教えましたが、これができたのは、選択科目であったからです。

 ただ、普通の国際関係学部で教鞭をとる教官たちは原則一人で科目を担当しなければならないことから、なかなかこのようにはいかないというのが現状です。

 さらにカリキュラムに柔軟性を持たせることで、より現状に即した授業が組めるのではないでしょうか。これによって、一般教養科目や専門科目の内容など、学生たちがさまざまなことを英語で考え、理解することができると思っています。

 そして、このことは、卒業後、外国の軍人と意見交換や信頼関係を構築する際にも非常に役立つと思っています。もちろん、課題はカリキュラムの柔軟性だけの問題ではありません。いうまでもありませんが、授業を英語で実施できる能力を持った教官たちも必要です。

 また、国際交流面では、諸外国留学生の受け入れ体制を拡充していくことも、今後検討していかなければならない課題として認識しています。

 防衛大学校に来ている海外留学生は、基本的に5年間在校します。まず最初の1年目は、日本語教育を中心とした、語学の特別クラスですね。いわば、「ゼロ学年」です。そして次年度から日本人学生と同じように防衛大学校の1年生になって、その後4年間学んで卒業していきます。

 海外留学生は、防衛大学校の日本人学生と共通の授業を受けます。5年プログラムに従事している海外留学生は、ゼロ学年から4学年まで、各学年約25人、計約125人が防大に在校しています。留学生は11カ国から来ています。

 防衛大学校は、諸外国、特にアジア圏から大変人気で、多くの国から留学したいというオファーがあります。2015年からは、ミャンマーからも留学生を受け入れています。アメリカはミャンマーから留学生を受入しておらず、先進国で受け入れているのは、日本だけです。

 ミャンマーのみならず、日本にとって戦略的に重要な国から留学生を受け入れることは、日本のソフトパワー引き上げのためにも良いと考えております。

 ただ、各学年25人から留学生の数を増やすには、日本語教育の教員数や教場数が足りないんですね。これを拡大できれば、25人から増やすことも可能です。教官人数、教場、宿泊場所、礼拝所、食事とさまざまな見直しが必要になると考えますが、国際化の流れに対応するためには検討が必要
だと思います。

ーーなるほど、防衛大学校の変革についてもお話しいただきました。では、現在の仕事に必要なスキルで、とくに在職中に企業でも活かせる普遍的なスキルがありましたら教えていただけますでしょうか。

 佐野さん:これからは、今まで以上に語学力が必要不可欠です。最近の現役自衛官の方々は、昔に比べれば英語を話す能力に長けた人が非常に増えており、コミュニケーション能力が向上していると思います。

 それは大変良い事です。ただ、課題は英語で書けないことです。現在、論考や論文を英語で書ける自衛官は、まだまだ少ないと思います。しかし、この能力をつけていかなければならないです。

 自衛隊OBの方々も昔に比べれば、だいぶテレビや雑誌に出るようになり、勉強になる情報発信をされています。でもほとんどが日本語なんです。日本語だけで書いたところで、世界中でいったいどれくらいの人が読んでくれるのかという話ですし、これはつまるところ、国家としての「情報発信力」、日本のソフトパワーにも直結していきます。

 英語能力はもちろん再就職へも最終的には役立ちますが、国の情報発信力ひいては防衛力の底上げという観点でも、論考や論文を英語で書ける能力を備えて欲しいと思います。

 また、再就職の際に必要なのは、再就職先で即戦力として働くために必要不可欠となるスキルです。これは、再就職先によってまちまちですが、自衛官が原則的に再就職活動を本人が実施してはならないとなっていることが現状です。

 自由には動けないんです。そのため、斡旋をしてくれる援護業務課担当者のネットワークや力量に頼るところが多くなっているのですが、自分が行きたい職種や仕事へうまくマッチングするケースが比較的少ないと思います。そうした視点でも、在職中に再就職のスキルを身につけておくことは重要
だと思います。

 より詳しい、佐野さんのインタビュー記事をご覧になりたい方は下記記事をご覧ください。また、公式Twitterも開設していますので、フォローお願いします。今後もキャリアインタビューを継続してアップしていきたいと思いますので、応援をお願いいたします!

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