空自熊谷基地(司令・秋本空将補、埼玉県熊谷市)は、令和6年度から女性新入隊員教育を開始した。防衛省では人口減少と少子高齢化が急速に進展する中、人材を効果的に活用するため女性の採用・登用の拡大に取り組んでいるほか、勤務環境整備も進めている。その一環として同基地での女性新入隊員教育の受け入れを決め、4月9日からスタートした。空自が同教育を実施するのは、防府南基地(山口県防府市)に次ぎ、全国で2カ所目となる。

 熊谷基地では現在、自衛官候補生、空曹候補者、上級空曹への教育に加え、術科教育も実施している。また、公募空曹教育も今年度から初めて開始する。
 6年度から新たに受け入れる女性新入隊員は、一般空曹候補生約130人。2教群12中隊が受け持ち、団体生活の中で基本教練から射撃訓練、徒歩行進訓練など自衛官としての基礎を教えていく。

 防衛日報社では、女性新入隊員受け入れにあたり、浴場の新設、生活隊舎の改築などのハード面と、実際に教育にあたる班長(教官)らの指導などのソフト面の両面で準備を進めた熊谷基地を取材し、2教群司令である内1空佐と、岡本2空曹、森沢2空曹に教育に対する思いを聞いた。

空自の女性新入隊員教育

 防衛省によると、空自の女性新入隊員教育は昭和50年から始まり、入間基地(埼玉県)で婦人自衛官教育隊が発足。平成2年には同隊が廃編され、防府南基地の1教群に婦人自衛官教育大隊として編成された。

 これ以降の同教育は防府南基地でのみ行われていたが、今回、熊谷基地が加わることで、全国2カ所での教育が可能となった。

部隊で活躍してもらうために|2教群司令 内 康弘1空佐

 女性新入隊員を受け入れるための課題解決に尽力した2教群司令の内1空佐(以下内2教群司令)は、「最初の一歩と継続する努力こそ、目標を到達するたった一つの道です」と話す。初めての女性新入隊員教育にあたりどのような準備を進めてきたのか。これまでの経緯と今後の教育の在り方などを聞いた。

質問に答える内2教群司令

 指導方針に「万里一空」を掲げている2教群司令の内康弘1空佐。

ーー『目標に向かって、たゆまぬ努力を続けていくこと』とありますが、若者に「続けていくこと(継続)」の大切さをどのように伝えていますか

内2教群司令 最初の一歩と継続する努力こそ、目標を到達するたった一つの道です。班長(教官)と学生の信頼関係が築けることで班長の思いも染み込みやすくなりお互いの理解が深まります。そうすることで継続の大切さも伝えられると思っています。
 精強を目指す航空自衛官として踏み出す新入隊員と、新たに空曹(3曹)、上級空曹(1曹)となった自衛官に対し、必要とされる知識や技能を誠意と情熱をもって教育していきます。部隊で活躍してもらうためにもここでの基本的な教育が重要と思っております。

教育の重要性を語る内2教群司令

――女性新入隊員受け入れが確定した際、初めに着手したことを教えてください

内2教群司令 現在、女性新入隊員教育を行っている防府南基地と連携し、受け入れに伴うハード面とソフト面の問題点を洗い出し対応できるよう検討を重ねてきました。ハード面でいうと、隊舎やお手洗い、浴場の施設工事が進められています。

新設された浴場(外観入口)

目隠しがされておりプライバシーが守られている(外観)

浴槽

浴場内

改築された生活隊舎

隊舎内(廊下)

居室(6人部屋)

居室内ロッカー

清潔なトイレ

シャワー室

 ソフト面では、過去に女性新入隊員教育経験のある隊員を充足するほか、1教群(防府南基地)へ班長などの教官要員となる隊員を派遣し、実際の教育現場を確認させています。また、班長個々の資質や能力向上を図るため1教群で得たことの普及教育に取り組んでいます。 

――新隊員教育、女性新入隊員教育について重要視している点を教えてください

内2教群司令 体力測定の到達基準は、男性と女性とでは異なりますが、課程教育に求められる目標に男女の区別はありません。女性だからといって特別扱いすることは無いと考えます。上下関係、同僚間における各種ハラスメントが生起しないよう、注意しながら各種教育を実施しています。特に高校、大学卒業の入隊者が多いため、社会常識をベースに、自衛官として自分の命をかけて国の防衛を担うという意識を植え付けることが重要と考えます。 

――新隊員教育に限らず「若者世代」に対し教育方法など工夫していることはありますか

内2教群司令 我々の世代が常識と思っていることが今の世代にも共通して受け継がれていると考えず、班長と学生間のコミュニケーションを密にさせ、考え方を尊重しながら教育することを大切にしています。それが信頼関係の構築につながると思っています。 

――最後に、空自を支える一員となる彼女らに対し期待することを教えてください

内2教群司令 国防を担い、空を護る組織の一員としての自覚をもって、立派な自衛官となりそれぞれの部隊で活躍して欲しいと願っています。

2教群司令 内 康弘1空佐

平成7.4第85期一般幹部候補生(防大)として任官
平成7.9西部航空警戒管制団(春日)
平成17.3幹部学校付(第53期指揮幕僚課程)
平成26.4西部航空警戒管制団第7警戒隊長兼ねて高尾山分屯基地司令(高尾山)
平成30.10作戦システム運用隊作戦システム管理群司令(入間)
平成2.10作戦システム運用隊副司令(横田)
令和4.8現職(航空教育隊2教群司令)(熊谷)
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親身な対応で築かれる信頼関係|2教群1大隊 岡本 由紀2空曹 

 令和5年9月まで防府南基地に在籍していた岡本2曹も、今回の受け入れに際し同基地の指導内容など現状を確認し準備を進めてきた。熊谷基地で実際に教官として教育に当たる岡本2曹からは、学生一人ひとりと向き合うことの大切さ、信頼関係を築く重要性について話を聞いた。

ひとつひとつの質問に丁寧に答える岡本2空曹

――女性新入隊員教育にあたって気を付ける点はどこですか

岡本2曹 劣等感を抱かせないよう心がけています。訓練によっては得手不得手があり、どんなに注意を払っていても「私だけ」「あの子ばっかり」など劣等感が生まれる可能性があります。そうならないよう、学生全員に対しなるべく同じ時間と言葉をかけるようにしています。また、個別に相談にのったり、時には、他の班長がフォローに入る場合もあります。

――他の班長との協力態勢も必要ですよね

岡本2曹 そうですね。一番は学生と担当の班長で解決できることがベストですが、他の班長のフォローが必要な時もあります。ただし、学生と担当の班長との信頼関係が崩れてしまわないよう、他の班長の踏み込みすぎにも注意が必要です。

――新入隊員教育について気を付けている事を教えてください

岡本2曹 一人ひとりと信頼関係を築くことと、指導するからには、班長である自分達の身だしなみや品位を保ち、ハラスメントにならない言葉遣いや態度をとるよう心掛けています。

――教育の中でどうしても強く言う場面もあるかと思います。ハラスメントと捉えられないためにはどうしたらいいですか

岡本2曹 やはり普段からの信頼関係でしょうか。自分のために本気で叱ってくれている、と理解してもらえればハラスメントには発展しないと思います。また、自分を過信しないようにも気を付けています。

――班長を4年されていて、昔と今のご自身の教育に違いを感じますか

岡本2曹 感じますね。自分自身の問題なのですが、班長になりたての頃は「学生を一人前にしなければ」とその一心でいたら、後日談で当時の学生から「私のこと一回も褒めてくれませんでしたね」と言われてしまって。もちろん、そんなつもりはなかったのですが、今思うと信頼関係や自分に余裕がなかったのだと思います。それを機に、駄目なことは叱り、良いところはしっかりと褒める、というメリハリを意識しています。

――信頼関係が築けてきたと感じるのはどんな時ですか

岡本2曹 私たちへ話しかけにくそうにしていた学生たちが「相談があります」など声をかけてくれるようになった時ですね。奥手な性格の学生に対しても、昼夜を問わず親身な対応(見守りと声掛け)を続けていると、徐々に心を開いてくれるようになります。

――新入隊員教育に限らず「若者世代」に対し今までの常識が通用しないと感じる場面はありますか?

岡本2曹 感じています。若年で入ってきている人の態度や考え方(敬語が使えない、何事にも受け身な姿勢)に驚かされることが多いです。しかし、良くも悪くも順応性が高く、理由を説明すると素直に受けとめてくれるので、頭ごなしではなく、相手に合わせた指導も必要と感じています。 

――最後に、空自を支える女性自衛官として彼女らに期待することを教えてください

岡本2曹 課程教育における心の成長を期待します。真剣さと真面目さを持ちながら、明るく元気で前向きに頑張ってほしいと思います。 

2教群1大隊 岡本 由紀2空曹

平成21.4航空自衛隊入隊
平成21.73術科学校学生隊(芦屋)
平成30.3航空教育隊1教群(防府南)
令和5.10航空教育隊2教群(熊谷)
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経験を活かしたアドバイス「笑顔に勝る化粧なし」|2教群12中隊先任空曹 森沢 里佳2空曹

 今回の受け入れに対しアドバイスをしてきた、2教群12中隊先任空曹の森沢2空曹。庶務係長でもある森沢2曹は、施設改修や備品調達、防府南基地での教育経験を活かした教官への指導など、そのアドバイスは多岐にわたる。

常に笑顔で質問に答えてる森沢2空曹

――女性新入隊員受け入れに対し、初めに着手したことを教えてください

森沢2曹 まず始めに、現状把握をしました。現在、女性新入隊員教育を行っている防府南基地で、どのような教育が行われているかの確認をとりました。昨年の11月に実際に現地で教育状況を確認し、現場の隊員とも意見交換を交わしました。

――ハード面ではどのような点に気を付けて進めましたか

森沢2曹 既存の男性用隊舎を女性用へ改修する際に、女性目線から生活環境が充実するよう意見を出しました。例えば、隊舎の窓をすりガラスに替えさらにカーテンなどを付けるようアドバイスしました。窓の開放に関しは、女性側も男性に気を使い、お互いに気をつけていきましょう、と呼び掛けています。

――新入隊員教育について心がけている点を教えてください

森沢2曹 新入隊員教育の在り方も、その時々の状況によって変わります。これまでの経験から、継承するべきものを、時代の変化とどのように合わせていくかを考え、行動するようにしています。ただ「やりなさい」、「やってはいけません」と指導するのではなく、理由を伝え、正しく理解させることを心掛けています。

――女性教育だからこそ気を付けていることはありますか

森沢2曹 特に女性だからということはありませんが、体力と体調面は、気にかけています。受け入れの際に体調面などの聞き取りを行い個々に対処できるよう準備はしています。不調を自ら申し出てくれるのが理想ですが、慣れないうちは恥ずかしさなどから難しいと思います。特に、班長が男性の場合はどうしても言いにくい部分ではありますから。

――確かに、男性に言いにくい部分ってありますよね。そういう時はどうしていますか

森沢2曹 他の女性班長がカバーできるよう体制を整えています。とはいえ、男女関係なく相談してくれるのが望ましいので、そのためには信頼関係を気づくことが何より必要と考えます。

――男性班長に対しての女性新入隊員教育の指導も必要になりますね

森沢2曹 はい。4月からの教育では防府南基地で女性新入隊員教育を経験した男性班長が教育に当たりますが、今後経験のない班長に対しては、指導やアドバイスをしっかり行っていきます。

――新入隊員教育に限らず「若者世代」に対し今までの常識が通用しないと感じる場面はありますか

森沢2曹 感じますが、それは今の若者世代に限らず、私たちの先輩も私たちに対して同じように感じていたと思います。
 コミュニケーションの取りやすい環境を作り、相手の話をよく聞き、こちらも順序立てて話す。そうすることで理解しあえると考えています。時代関係なく頭ごなしは良くないと思います。

――最後に、空自を支える女性自衛官として彼女らに期待することを教えてください

森沢2曹 まずは言われたことをやってみるという素直な気持ちと、どんな任務(仕事)でも前向きに臨んでほしいと思います。『笑顔に勝る化粧なし』と言いまして、外見も大事ですが、目配り、気配り、心配りといった“心”を磨き、はつらつとした隊員になってほしいです

2教群12中隊先任空曹 森沢 里佳2空曹

平成10.3航空自衛隊入隊
平成10.73術校学生隊(芦屋)
平成13.6航空教育隊司令部(防府南)
平成17.10航空教育隊1教群(防府南)
平成25.3幹部候補生学校学生隊(奈良)
令和2.3航空教育隊2教群(熊谷)
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