「空の産業革命」と呼ばれるドローンの現状
 
 昨年12月16日に閣議決定された「安保3文書」では、今後5年間の防衛費の総額を前回の計画の1.5倍以上となる43兆円に増額する方針が示された。同23日に閣議決定された今年度の予算案では、防衛関係費は過去最大となる6兆8219億円(SACO=米軍再編=関係経費などを含む)を計上。

「今考えれば、私が作ったものが日本初のドローン」

  ドイツの会社からマルチロータヘリコプターのシステムを取り寄せ、ドローンに精通している世界中のマニアにもコンタクトを取って情報を集め、マルチロータヘリコプターを自分で作り上げました。それが平成22年(2010)のことで、今考えるとそれが日本初のマルチロータ型ドローンと呼べるものだったのではないかと思います。

 そうして完成したマルチロータ型ドローンで撮影した映像をネットに上げたり、知り合いに見せたりしているうちに、仲間内ではありますが大阪で話題になり、CMや映画の撮影メンバーとして仕事をするようになったのです。

 エアロジーラボ設立は2012年なのですが、当時はまだ歯科医としてもしっかり活動していましたし、会社の経営に本気で取り組んでいたわけではなく。映像の依頼を受けるために法人化しただけだったのです。

谷社長が自作したマルチローターヘリコプターこそが「日本初のドローン」と語る

「もしかしたらドローンでは自分が日本一なのかも」

  本格的に会社として活動し始めたのは平成30年(2018)ですね。それまではドローンは趣味の延長として活動していたのですが、関西テレビに勤める友人にドローンで撮影した映像を見せたところ、「これを一人で撮ったのか!?」と驚かれました。そこから関西テレビとのお付き合いが始まり、出資を受けたことをきっかけに、ベンチャー企業としても本格的に活動を始めた次第です。

 そんな時、仲間から「ある機関のマルチロータ型ドローンの実験をテレビで見たけど、あれは谷さんが前からやっていましたよね」と言われたのです。当時すごいことを成功させたと話題になっていましたが、海外では数年前から当たり前のようにやっていたことなので、私からすれば日本の技術は後れを取っているなと感じました。その後も、マルチロータ型ドローンを活用したアイデアが世に広まってきたのですが、どれも私がやってきたことでした。

 それで、ドローンで儲けてやろうという気持ちではなく、「もしかしたらこの業界では自分が日本でトップなのかもしれない」と考え、さらなる興味を持ってきたのです。

谷社長が開発した初期のマルチロータ型ドローン

 ──それまで開業歯科医として順風満帆な生活を送られてきたところで、本格的なベンチャー企業として活動を始めるにあたり、ご家族はどういう反応でしたか。

  私が昔から好きなことばかりやってきたのを知っているので、反対はしませんでした。というより、妻には相談せずに始めたので、反対されることもなかったという方が正しいですね(笑)。家族には日ごろ不自由をさせたことはありませんし、自分のお金を使っただけですので。

 歯科医は今でも続けていますよ。エアロジーラボの活動を本格的に開始しても、まだまだ利益は出ずお金は出ていく一方ですから、歯科医で稼がないとならないのです。これまで億単位の資金を投じました。

 モノ作りのベンチャーというのは極度にハードワークであり難しい。私が選んだのは儲けるためにはやってはいけない道でした。すごくお金もかかり、非常に苦しい道です。私自身が歯科医として長年探求し続けたということもあり、得意分野に取り組んだからには目の前のアクチュアルなものがないと納得できないんです。

 でも今となっては、こだわって続けてきたことがわれわれにとって一番の取りえになっています。令和4年の10月下旬に東京・市谷で開催された「防衛産業参入促進展」に出展することもでき、おかげさまで弊社の知名度も急激に上がってきました。

 お金という部分では相変わらず苦しいのですが、私がやってきたことは間違っていなかったなとかみしめています。

AeroRangeQuadのボディーはカーボンフレームを採用し、軽量化と高強度を実現

安全面は「これまでも苦労し、これからも苦労する」覚悟がある

 ──マルチロータ型ドローンの開発で苦労された点はどんなところでしょうか。

  マルチロータ型ドローンというのはGPSセンサーや加速度センサー、ジャイロセンサー、マグネチックセンサーなどを搭載したセンサーのかたまりですから、振動やノイズに非常に弱いのです。よって、ハイブリッドユニットに搭載した時、つまりエンジンを搭載した時に振動やノイズに耐えられるかが問題だったんです。

 そこで、振動とノイズをなるべく伝えないようセンサーが受けるパラメーターを許容範囲まで変えて調整し、それに合わせてボディーも開発しました。

 弊社のようにマルチロータ型ドローンの機体に加え、コンポーネントまで自社で製作している会社は、ほぼないと思います。

 ドローンで一番特色が出るのは機体です。弊社のマルチロータ型ドローンは純国産で作りもしっかりしており、車体と同じような考えで製作しています。カーボンやマグネシウム、ジェラルミンなど、高機能材料を使っているのも特長の一つです。 

 弊社は機体メーカーですから、モーターでもバッテリーでもコンポーネントで良いものが出たら載せ替えて開発できるのが強みです。今はハイブリッド型ですが、水素燃料電池でさらに良いものが出たらユニットを交換することもできます。

 もうひとつ弊社のアドバンテージになるのが、私が大学の研究室や医療の現場にいた経験を生かして、安全面やバックアップ、フェイルセーフにも非常にロジカルな考え方を持っているということです。

 私はビジネスマンとしての経験こそ少ないですが、安全面への取り組みに対する知見は、他社ではまねできないものだと思います。

中心部を衝撃から守るクラッシャブル構造

 ──そのほか、安全面などでこだわった点は何でしょうか。

  ドローンの事故で怖いのは、やはり「落下」ですね。ガソリンを積んでいますから中心部を衝撃から守るクラッシャブル構造にしたり、応力集中がないような構造にしたり、必要なことは策を講じています。

 今後は複数のコンピューターを搭載したリダンダントシステム(同じ機能を複数の機器に持たせて、故障などで機器が機能しなくなった場合に別の機器で補えるよう、同じ機能の機器を複数搭載すること)も考えています。

 コンピューターは当たり前のようにバグが出ますし、ドローンの事故で一番多いのは暴走だと思います。突然制御できなくなることがあって、これが怖いのです。暴走する主な原因はノイズなのですが、いつどのように発生するか分からないのです。

 エンジンやガソリンを搭載していますから、安全面に関しては努力を続けていくしかないと思っています。これまでも苦労しましたし、これからも苦労するだろうと思っています。

谷社長は医療に関わってきた知見を生かし、安全面も探求し続ける

 谷社長の開発へのこだわりは「私が当たり前に思って取り組んでいることが、他社ではとても厳しいことに感じていると思う」と語るほどだが、目指すべき目標は従業員も同じだ。開発部のマネージャー・前原明氏は「人の役に立つものを作りたい」という思いで取り組んできた。

 前原 開発にあたっては、「ミッションをクリアするためにできる方法があるならば、難易度が高くとも実行しなくてはならない」という認識をもって、常に対応しています。

 例えば、ドローンに装備するパラシュートも、構想は以前からあったものの、実際に装備するには解決すべき課題があり、思うように進捗させられていませんでした。しかし、安全を最優先とする方針に基づき、「なんとしてでも、装着させる」と知恵を絞りました。

 結果として、手動での開傘に加えて、ドローンの軌道や回転の異常をセンサーが感知して、自動でパラシュートが開くように開発することができました。

 また、空を飛ぶドローンの開発においては、墜落を含めたあらゆるシチュエーションを想定する必要があります。その確率をいかに低くできるか、万が一の事態でもダメージを最小限にできるか。開発はもちろんのこと、飛行ミッションの設定においても、常に念頭に置いた取り組みを行っています。

 災害や防衛など、人が危険にさらされるシーンでこそ、私たちの開発したマルチロータ型ドローンを活用してほしいですね。

AeroRangeQuadにはパラシュートを装備することも可能

エアロジーラボからのメッセージ

  私たちが今、こうして日本で平和に暮らせていられるのは幸せなことですが、昨今のロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、北朝鮮や中国などの軍事力の強化や行動が急激に活発になるなど、日本を取り巻く安全保障環境は緊張が高まってきていると感じます。

 「専守防衛」前提の上、最低ラインの安全は守らなければなりません。周りが海に囲まれていることからも、ある意味国境の防衛よりも難しい部分があると思いますので、そのためにも島嶼(しょ)におけるコーストガードなどで、もっとドローンを活用してもらえればと思います。人が搭乗していない偵察目的のドローンなら安全で平和的ですし。

 われわれのマルチロータ型ドローンでしかできないことをやっていきたい。弊社のマルチロータ型ドローンが国民の生活を守るためになくてはならない存在になればと思っています。

株式会社エアロジーラボ
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https://aerog-lab.com/

(協力:株式会社エアロジーラボ)

→【日本を護る VOL.02】ハイスペックドローン「AeroRangeQuad」を紹介