【2022年10月18日(火)1面】 少子・高学歴化の進展やコロナ禍、企業などによる大学生の採用活動の早期化など、自衛官の募集環境は厳しさを増す。そんな中、「国を護(ま)もる」気概を胸に、自衛隊の門をくぐろうとする若者たちとをつなぐのは、地本であり広報官にほかならない。さまざまな活動を通して自衛隊の魅力ややりがいを伝え、一人でも多くの精鋭を獲得する任務。そこには、現代っ子たちと交流しながら、入隊後に得た経験などを生かし、国防や災害への熱き思いを訴える自衛官としての責任感の強さがある。企画「未来への『架け橋』に―広報官たちの思い」では、募集広報活動という重責を担う広報官の素顔を5回にわたって紹介する(編集部・宇野木淳一)。

神奈川地本横浜中央所 可児(かに)真衣3海曹

職種ミスマッチを防止 入隊希望者に寄り添う

 8月25日、横浜中央募集案内所(所長・大柿2陸尉)。可児(かに)真衣3海曹は、入隊予定者の提出書類などの最終確認業務に追われていた。

 入隊予定者は、8月30日付で空自に入隊する女性。ロシアによるウクライナ侵攻や日本の防衛を鑑みて地本の門をたたいた。最初は、「話を聞いてみたい」程度の思いだったが、そんな漠然とした気持ちを揺り動かしたのは、ほかならぬ可児3曹との出会いがあったからだった。

 「(可児3曹と)話を進めるうちに、特別航空輸送隊員という具体的な目標が見えてきた」「女性自衛官の集団生活の様子をはじめ、さまざまな悩みや相談にも真摯(しんし)に対応してくれた。だからこそ、安心してここまで来られた」

 女性はこの日、可児3曹に改めて感謝の気持ちを伝えた。

入隊予定者(左)に提出書類の説明を行う

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 広報官に着任して3年目。これまで、「想像していた業務や環境ではなかった」と離職する同僚や後輩を見るたびに「何か支えになれなかっただろうか」と胸を痛めた。入隊後に職種のミスマッチが起きないよう、地本で説明する段階からキャリアプランなども話し、「入隊希望者をしっかりと支えていきたい」と広報官を志願した。

 当初は、学生に対してどう接すればいいか悩んだこともあった。だが、部隊の後輩に接するよう気さくに親身になって接するうちに、打ち解けてなんでも話せる関係になってきた。

 「地本を、悩んだ時に帰って来られる場所と思ってほしい」。そんな思いがいつしか強くなっていった。地道な活動を続けるうちに努力が実り、かつて担当した自衛官の後輩から、「私の後輩も入隊させたい」「私の兄弟も紹介したい」など、人づてに志願者が集まってきた。

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 令和3年度の「優秀地本」で第2級賞状を授与された神奈川地本(本部長・平井1海佐)。一昨年度の第2級賞状、昨年度の第1級賞状に続き、3年連続の表彰という栄誉に輝いた。快進撃を続ける裏には、可児3曹のように最前線で地道な募集活動に励む広報官の姿がある。

 可児3曹は昨年度、40人の入隊実績を上げ、優秀広報官として第2級賞状を受賞。神奈川県を優秀地本に押し上げた立役者の一人だ。地本に50人以上いる広報官のうち、一人の広報官が担当した募集対象者が入隊に至るのは12、13人。その3倍もの成果を達成した。

 その一方で、担当した受験者が持病など身体的な問題で試験に合格できなかった時は、「何のために広報官をやっているのだろう」と悔しさをにじませる。

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 ゆっくり、丁寧な話し方。おっとりとした雰囲気は安心感があると評判だ。男性の広報官から、「女性の応募者の相談に乗ってほしい」と頼られることも多いという。結婚や出産、育児についてなどの相談には、自衛官の夫(可児海曹長)を持ち、小学1年生の子供を育てる自身の経験を基に伝えることで、対象者だけでなく保護者からの信頼も厚い。

 当直勤務やキャリアアップのため、術科学校や幹部候補生学校への入校など、長期間家を空けることもある。仕事と家庭の両立は苦労もあるが、周りのサポートに感謝している。

 「夫婦で協力し合い、両親の支援や子供の理解にも助けられている」

大柿所長(左)からアドバイスを受け、入念に確認業務を行った

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 全国に20カ所存在する政令指定都市の中でも、横浜はトップの人口を誇るマンモス市。加えて横浜中央所は中、南、西、保土ケ谷、旭、瀬谷の6区を担当するなど広報官も激務だ。

 忙しい日々を送る可児3曹。上司の大柿所長は、「3曹という階級で第2級賞状(優秀広報官)を受賞したのは、あまり例がなく大変名誉なこと」と話した。そして、可児3曹の普段の勤務態度をこんな風に評価した。

 「募集対象者一人ひとりに熱心に接して面倒見が良い。ご家族とも密に連携を取るなど、入隊までのつなげ方が長(た)けている。話し方はゆっくりだが、心は熱い。体育会系でフットワークも軽く、何事にも一生懸命」

 可児3曹は最後に、「利益や見返りのためではなく、災害発生時など人のために行動できる人に志願してほしい」と力強く語った。

―可児3曹のMessage 「地本を、悩んだ時に帰って来られる場所と思ってほしい」

神奈川地本長 部下の健闘たたえ、「まだやれる」

 神奈川地本長の平井1海佐は、地本のホームページ「本部長通信」の中で、募集活動を含む令和3年度の各種業務の功績が評価され、陸幕から第2級賞状を受賞したことについて、「上級部隊から示される目標数値(ノルマ)が上がっている中でよく健闘したと思う」と述べている。

 その上で、「この評価に決して満足しているわけではありません。隊員の誠実な人柄と地元の熱いご支援という恵まれた環境に鑑みれば、神奈川地本に限界はなく、まだまだやれると信じている。英知を結集し、地元の方々と一体となって活動することにより、神奈川地本主導で『より良い自衛隊の未来』につなげていく所存だ」と意欲を見せている。


◆関連リンク
自衛隊 神奈川地方協力本部
https://www.mod.go.jp/pco/kanagawa/

募集採用の現状 デジタル化など進める

 防衛省・自衛隊の防衛力を最大限に機能させるためには、人的基盤の強化は欠かせない。さらに、防衛力の強化は喫緊の課題となっている。募集・採用活動を取り巻く環境が年々厳しさを増す中、志願者をいかにして増やしていくかも重要な要素だ。

 6月27、28の両日に開催された「全国地本長等会議」では、各種種目の応募状況について「例年並みの受験者を確保」と報告されているものの、平成26年度に10万人を超えていた応募者数は年々減少傾向にあり、令和3年度は8万4825人まで落ち込んでいる。

 また、平成30年度からは自衛官候補生と一般曹候補生の採用上限年齢が「18歳以上27歳未満」から「18歳以上33歳未満」へと引き上げられたが、募集対象者の人口は減少の一途をたどり、令和4年度の約1825万人に対し、10年度では約1750万人、20年度には約1563万人まで減少する見込みだ。平成31年度から身長の基準も、男性が「155センチ以上」から「150センチ以上」、女性は「150センチ以上」から「140センチ以上」に緩和されている。

 こうした状況を踏まえ、地本では、SNSによる情報配信や、Webサイトの動画コンテンツの充実を図るなど、広報活動のデジタル化を推進させ、募集・採用業務を強化している。

 また、コロナ禍で自粛傾向にあった説明会も、オンライン形式を積極的に採用。画面を通してのコミュニケーションは、若者には受け入れられやすいというメリットもある。

 募集・採用活動の環境は厳しくなる一方、採用者数は例年と同等以上の目標を求められる。志願さえすれば誰でもいいわけではなく、いかに質の高い人材を確保していくかもまた、人的基盤強化のカギとなる。

過去4年間の自衛官等の応募者数と採用者数(平成30年度~令和3年度)
(防衛省ホームページから)

《平成30年度》

過去4年間の自衛官等の応募者数と採用者数(防衛省ホームページから)

・自衛官候補生=応募者数・2万8145人→採用者数・7075人

・一般曹候補生=2万7580人→6464人

・航空学生=2747人→159人

・一般幹部候補生=4699人→289人

・防衛大学校学生=1万3926人→516人

・防衛医科大学校医学科学生=6113人→84人

・防衛医科大学校看護科学生(自衛官候補看護学生)=1905人→74人

・高等工科学校生徒=2228人→346人

・その他=219人→53人

●合計=8万7562人→1万5060人

《令和元年度》

・自衛官候補生=2万8844人→7359人

・一般曹候補生=2万8310人→6647人

・航空学生=2542人→151人

・一般幹部候補生=4004人→348人

・防衛大学校学生=1万3372人→483人

・防衛医科大学校医学科学生=5800人→81人

・防衛医科大学校看護科学生(自衛官候補看護学生)=1956人→74人

・高等工科学校生徒=2039人→347人

・その他=238人→58人

●合計=8万7105人→1万5548人

《令和2年度》

・自衛官候補生=2万8903人→6664人

・一般曹候補生=2万9848人→6744人

・航空学生=2282人→146人

・一般幹部候補生=5139人→376人

・防衛大学校学生=1万2567人→502人

・防衛医科大学校医学科学生=5287人→84人

・防衛医科大学校看護科学生(自衛官候補看護学生)=1775人→75人

・高等工科学校生徒=1844人→344人

・その他=227人→51人

●合計=8万7872人→1万4986人

《令和3年度》

・自衛官候補生=2万8272人→5350人

・一般曹候補生=2万8426人→6450人

・航空学生=2049人→150人

・一般幹部候補生=4998人→333人

・防衛大学校学生=1万1653人→488人

・防衛医科大学校医学科学生=5704人→83人

・防衛医科大学校看護科学生(自衛官候補看護学生)=1719人→75人

・高等工科学校生徒=1779人→341人

・その他=225人→57人

●合計=8万4825人→1万3327人

(その他は、医科・歯科幹部、技術幹部、歯科・薬剤科幹部候補生、技術曹、看護曹、貸費学生)


【連載】未来への「架け橋に」-広報官たちの思い
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