陸上自衛隊 勝田駐屯地(茨城県ひたちなか市)には、陸上自衛隊唯一の施設科隊員を育成する教育機関である施設学校が所在しており、主に施設科隊員として必要な知識・技能を習得させるための教育訓練を実施している 。
本特集では、東部方面後方支援隊施設教育直接支援中隊で行われた、若き実習生たちへの教育の様子をはじめ、中堅隊員、ベテラン隊員の整備に対する思いに迫る。
陸上自衛隊 勝田駐屯地(茨城県ひたちなか市)には、陸上自衛隊唯一の施設科隊員を育成する教育機関である施設学校が所在しており、主に施設科隊員として必要な知識・技能を習得させるための教育訓練を実施している 。
本特集では、東部方面後方支援隊施設教育直接支援中隊で行われた、若き実習生たちへの教育の様子をはじめ、中堅隊員、ベテラン隊員の整備に対する思いに迫る。
この日、整備工場では、整備士となるための基礎知識を学ぶため、東部方面管内から招集された被教育者(実習生)たちが整備教育の真っ最中だった。
入隊者の年齢が全体的に高まる傾向にある一方で、実習生の年齢は若く最年長で23歳。19歳が多いという。実習も始まったばかりということもあるのか、現場は意外にも和やかな空気が漂い、雰囲気も柔らかい。
実習生たちは約3カ月の前期教育を終え、後期教育として部隊で数カ月の実地訓練を経てこの場に臨んでいる。とはいえ整備士として本格的な工具に触れるのも初めてな実習生がほとんどで、一つひとつの動作がまだまだぎこちない様子だった。
この日の課目は「エンジンの分解」。実物のディーゼルエンジンを前に、実習生たちがいろいろ模索していた。「こっちに回せばいいんじゃないか?」「いや、逆じゃないか?」など工具を握りしめ、一つのネジを回すのに四苦八苦していた。
すかさず助教が一言アドバイスをすると、何をしても回らなかったネジが回り「おぉ!」と歓声が上がった。
実習生にとってはネジ一つ回すのも初めての経験で、皆で知恵を出し合って、「自分で考え、まずはやってみる」。それを、すぐに指導できる位置で助教が見守り、絶妙なタイミングで声をかけていた。見てくれている安心感からか、実習生たちはリラックスした雰囲気の中で教育を受けている印象だった。
「本当に自分にできるのか」―不安を越えて、整備の道へ 実習生:清野1陸士
実習生の一人、清野1陸士(第1空挺団)に話を聞くと、整備訓練を始めて1カ月、「始めは何をしていいか全くわからなかった」と振り返る。徐々に部品の名前を覚え、構造も理解し始めているという。それでも、慣れてきたとはいえ、部品を外した瞬間、出るはずがないと思っていたオイルが出てきた時は慌ててしまったりするそうだ。そんな時は助教からすかさずアドバイスがあり、どこが間違っていたのか、どうすればうまくいくのかを理解できるまで丁寧に教えてくれる。
施設科である清野1士は、自分が整備中隊の隊員になるとは思っていなかった。適性で施設科に選ばれ、さらに整備中隊に配属されたが、「本当に自分にできるのか」という不安が大きかったという。しかし、実際教育を受け始めると、「早く部隊になじめるようになりたい」という思いが強くなっていき、今では選ばれた職種に全力で取り組もうと決意したという。
先輩隊員から何を学びたいか尋ねると、清野1士は「対応力」と即答した。急に仕事を振られてもすぐに対応できる力を身に付けたいという。とっさに部品の名前が出てこない時があり焦ってしまうと話してくれた清野1士がどのような対応力を身に付けていくのか今後の成長が楽しみだ。
“楽しく教える”は、厳しさを知っているから 施設機械整備陸曹:田邉3陸曹
中堅の立場として指導を行う田邉3曹(施設教育直接支援中隊)に、心がけている事を尋ねると、ずばり「楽しく整備すること」と即答が返ってきた。
自身の新隊員時代に在籍していた部隊では、整備中の会話は許されず、口より手を動かすよう厳しい指導を受けていた。その経験から、今は意識的に会話を取り入れ「楽しく整備すること」を心がけていた。その結果、コミュニケーションが取れ、相談を受ける機会も増えた結果、効率があがったと話す。
「使える手と頭には限界がある。でも、やらなければいけないことは変わらない。だったら、楽しくやった方がいい」と語る田邉3曹は、「厳しさが間違いだとは思っていない」とも言う。
実際に厳しい指導では、覚える速度は倍で記憶にも残るのだと自身の経験から語った。ではなぜ「楽しく」にたどり着いたのか。たとえ覚える速度が遅くなっても、楽しく学んだ方が後輩はついてきてくれる。自分の知識は楽しく教える。わからない事があったら一緒に考える。厳しさを知っているからこそ、寄り添う指導が、そこにはあった。
また、中堅の立場として気がかりな要素が今後の先輩整備士の退官だが、「あとはお任せください」と心強い言葉が返ってきた。日々、間近で次世代の整備士たちの成長に手ごたえを感じているからこそ、出てきた言葉なのかもしれない。
では、その“次世代”を育ててきたベテラン整備士は、何を想い、何を残そうとしているのか―。続く第2弾では、36年整備一筋で歩んできた“職人”の言葉に耳を傾ける。