自衛隊の新時代を切り開く女性自衛官たちの活躍に67年の歴史を持つ自衛隊専門紙「防衛日報」が独自取材で迫ります
キラリ☆輝く女性自衛官 ~ 田中洋美1陸曹、石川恵理陸士長(陸上自衛隊施設学校)編
6月下旬、陸上自衛隊施設学校で実施される「カエル会議」を取材できるということで、茨城県の勝田駐屯地に伺った。
「シャワー室をユニットバスに改修することは可能か?」「網戸が破損したりするので変えてほしい」「(今は23時に切れてしまう)空調の時間を長くしてほしい」……。女性隊員たちがそれぞれの視点から改善してほしいことを付せんに書き、ホワイトボードに貼り出した後、代表の隊員が内容を読み上げて意見を共有する。
中には、「洗面所でドライヤーを3台同時に使うとブレーカーが落ちてしまう」という声も。これなどは、短髪の男性隊員からは出てこない(気づかない)意見だろう。「妊婦や体調不良者が休める休憩室があるといい」「将来的に駐屯地内に保育施設がほしい」など、設備面に関する要望が数多く出た。
「カエル会議」とは、「女性代表者会同」の別称。「早く帰る。働き方を変える。人生を変える」の3つの「かえる」を目的に、かしこまらずに意見を出せるようにと名づけられた。女性隊員の声を吸い上げるための会同は、この日で3回目。年齢も役職も異なる9人(自衛官8人、事務官1人)が参加していた。司会を務める総務部総務課の小手森2陸尉が、軽妙な進行で意見を出しやすい雰囲気をつくっている。
会同のテーマは大きく分けて2つ。「生活基盤などの環境改善」と「女性活躍推進」だ。防衛省・自衛隊では女性の活躍推進を掲げ、女性隊員の比率が年々高くなっているが、一方で女性用トイレ、シャワーや浴室の不足など、施設の整備が追い付いていないという課題がある。
しかし、予算などの現実的な問題もあり、要望があるからすぐに新設(純増)というわけにはいかないのが実状だ。今ある施設を最大限に活用し、改造や補修などでスピーディーに環境を整備していくためには、きめ細かく現場からの声を拾い、優先順位をつけて対策を打っていかなくてはならない。
施設学校は、学校長(山﨑義浩陸将補)の指揮の下、こうした自衛隊が抱える課題に真正面から取り組み、内閣人事局長から「令和2年度ワークライフバランス職場表彰」を受けた。
◆ワークライフバランス職場表彰とは
内閣人事局が、「業務や職場環境などの改善に向けて創意工夫ある取り組みを行った国家公務員の職場のうち、特に優秀なものを表彰する」もので、「国家公務員の働き方改革によるワークライフバランスの推進を図る」のが目的。
令和2年度は、各府省などから推薦のあった61件(省内選考を含めると132件)の取り組みについて、有識者で構成される選考委員会の意見を聴き、国家公務員制度担当大臣表彰として6件、内閣人事局長表彰として6件を表彰対象として決定した。
施設学校が表彰されたポイントを「カエル会議」のテーマに沿って紹介すると、「早く帰る」に関しては、残業者が前年度比で13%減少、「働き方を変える」では、フレックスタイム制の活用者が前年度比約8倍増、「人生を変える」では、女性自衛官・職員のキャリアパスを具体化し、女性隊員のワークスタイル事例集を作成するなどの成果があった。
今回の取材を通して、実感したことがある。隊員たちの使う施設の整備の遅れである。施設学校でも、こうした取り組みにより、昨年度にようやく和式トイレが洋式トイレに改装されたばかりだという。一般の企業に勤めている方からすると、「えっ、まだ職場に和式トイレがあるの?」という感じだろうが、隊員たち(もちろん男性も)は、結構キツイ環境でがんばっているのだ。
制度面では一足早く改善が進み、結婚や出産を理由に退職する女性隊員も減ってきているが、設備面の改革はコストの問題などもあり、一気には進まない。自衛隊の専門紙として、自衛官たちの生活や訓練の環境を広く知ってもらい、予算の配分などについて国民に理解を深めてもらいたいという思いを改めて強くした次第である。
今回の「カエル会議」には、大きなテーマがあった。女性隊員の増加を受けて、9月末以降、これまで隊舎(4階建て)の4階のみを女性用として使用していたが、3階部分を女性専用フロアへと模様替えし、3、4階を女性自衛官スペースへと変更する。居室を増やすための修繕や旧設備の撤去、プライバシーの確保など、検討しなければいけないことは山ほどある。
会同で参加隊員に説示した総務課長の髙倉2陸佐は、「まず学生(隊員)の声に耳を傾けることが大事。ないものねだりはできないが、出された意見はすべて検討し、学校としてどうすれば要望に近づけられるか考えていく。生活環境の改善に向けて、隊舎の設備の使い勝手についても、細かい部分までアンケートなどで意見を吸い上げていきたい」と話す。
会同に参加していた女性隊員は、先に書いた通り年齢も役職もバラバラ。積極的に発言するタイプもいれば、控えめなタイプもいるが、風通しはよく、意見を言いにくい感じはなさそうだ。
実際に参加者に話を聞いても、「今まで話したことのない人の意見が聞けてよかった」「先輩とも気軽に話せる雰囲気だった」という声が聞かれた。今回出された意見は、とりまとめてすべて学校長に提出され、速やかに改善策が検討されるという。
会同終了後、参加した女性隊員2人にじっくり話を伺うことができた。次回からは女性隊員の生の声をお届けする。
プロフィール
1陸曹 田中洋美(たなか・ひろみ)
陸上自衛隊施設学校総務部総務課
昭和57年生まれ
平成13年3月陸上自衛隊入隊
陸士長 石川恵理(いしかわ・えり)
陸上自衛隊施設教導隊施設器材中隊
平成4年生まれ
平成30年3月陸上自衛隊入隊
▷▷ 次回は、石川恵理陸士長に施設学校の取り組みについて感じていることなどを伺います。(会員限定コンテンツ)。