令和6年8月24日(土)、宮城県東松島市において東松島夏まつり2024が、続く8月25日(日)、航空自衛隊松島基地において令和6年度松島基地航空祭が開催された。ブルーインパルスの本拠地において8月後半の土日に開催される夏の一大イベントだ。松島基地航空祭には同基地発表で30,640人の来場者があった。
 東松島市のJR仙石線矢本駅から松島基地へ続く大字矢本の一帯は、ブルーインパルスファンにとっての聖地である。この週末に先立ち、矢本の商店街を中心にブルーインパルスの青いポストが6台設置されお披露目された。矢本駅前から松島基地若松門へと続くブルーインパルス通りやブルーインパルスのご当地マンホールと並び、新しいブルーインパルスの街の新名所の誕生だ。

矢本に設置されたブルーインパルスの青いポスト。それぞれ異なる隊形で各ポジションが赤い機体で印されている(写真・今村義幸)

 他方、矢本駅前西地区複合施設の東側商業サービス施設の解体が決まり、そこに入ったブルーインパルスグッズ等を扱う「東松島市アンテナショップ まちんど」の8月末での閉店が発表され、生まれ変わっていく矢本の街という雰囲気の中での一大イベントとなった。
 ブルーインパルスファンネットには、各地の部外イベントでブルーインパルスを見たファンからは「はじめて矢本を訪れた」という声が多く寄せられた。

東松島夏まつり2024

 ブルーインパルスは例年同様、矢本のメモリータウン商店街とブルーインパルス通りの上空で、編隊連携機動飛行を展示した。編隊長は第11飛行隊長の江尻卓2空佐が務めた。
 会場には多くの飲食や物販の出店が数多く並びにぎわった。

 商店街にあり地域に新聞を配達する「さくらい新聞店」では昨年展示されたブルーインパルスの軽トラに加え、新たにブルーインパルスのスーパーカブを製作しお披露目しておまつりを盛り上げた。多くのファンが一目見ようと訪れていた。

さくらい新聞店のブルーインパルスをデザインしたスーパーカブと軽トラ(写真・今村義幸)

 展示飛行開始時刻に雨雲レーダーを見ると飛行空域に雷雲があり、小雨もぱらついて、展示飛行は1時間ほど遅れての開始となったが、天候は見事に回復し編隊連携機動飛行が恐らくは予定通りの全課目で実施された。
 ブルーインパルスファンネットには、今年で見納めとなる駅前商業サービス施設の閉鎖を惜しむ声がたくさん寄せられ、来年は見られない矢本駅前で展示飛行を見届けたファンも多かった。

海側の松島基地から稲穂実る田んぼの上を越えて矢本駅方向へと最初のデルタ・ダーティ・ローパスで進入するブルーインパルス(写真・伊藤宜由)

矢本駅前からブルーインパルス通り方向に見たデルタ・ダーティ・ローパス《写真・5兵衞》

 8月10日、東松島アンテナショップまちんどのXにて9月1日で営業終了とのメッセージがポストされた。東松島市民の友人に話を聞くと駐車場になるのだという。どういう計画なのか東松島市のHPで都市再生計画を調べてみる。すると東松島市矢本駅周辺の都市再生整備計画が見つかった。
 これによると、通学時間帯に起きる駅前の渋滞を解消するためにロータリーを拡張するのだという。そのために駐輪場と公衆トイレの移設、観光案内板設置計画と現在のまちんどの場所が駐車場になる図面が公開されていた。

 今見慣れている矢本駅前はもう見られなくなってしまう景色なのである。今年の東松島夏祭りは2024年の記録を残すために駅前で撮影することに決めた。

移設予定の駐輪場とリーダーズ・ベネフィット・ローパス《写真・5兵衞》

 駐輪場のいたるところにブルーインパルスのタイルが飾られているのが東松島市ならでは。タイルごと移設になるといいのだが。

矢本のメモリータウン商店街上空をリーダーズ・ベネフィット・ローパスで飛行するブルーインパルス(写真・今村義幸)

2024年の矢本駅前とデルタ360°ターン《写真・5兵衞》

 中央にある茶色の建物が現在の公衆トイレ。取り壊して新設される予定である。

まちんどとサクラ《写真・5兵衞》

 取り壊し予定のまちんどとサクラ。まちんどでは毎年、ブルーインパルスのガイドブックが発売になると黒澤英介カメラマンや粒木友香理カメラマンによる撮影秘話のトークショーが開催された。毎年参加していた思い出の場所だっただけに残念。

 メモリータウン商店街を西に進んだ突き当たりの角に須賀神社がある。拝殿向拝の柱には一対の昇り龍の彫刻がある。令和5年11月より令和6年1月にクラウドファンディングで集められた資金によって修繕されてはじめての東松島夏まつりとなった。須賀神社では昇り龍とブルーインパルスの御朱印や絵馬の頒布もしており、運気上昇、子授け、縁結びの御利益があるという。

昇り龍の須賀神社拝殿とチェンジ・オーバー・ターンを終えたブルーインパルス(写真・今村義幸)

須賀神社境内から撮った最後のレベル・サンライズ(写真・今村義幸)

 メモリータウン商店街とブルーインパルス通りの交差点角にある東松島市商工会ビル前では、東松島夏まつりの出し物となる太鼓演奏や踊りが披露された。ブルーインパルスの展示飛行では、ナレーターを務めた6番機練成の浅香光司1空尉が商工会前の特設テントでマイクを握った。

ナレーション担当のTAKAさん。キューピットの時、指でハートを作成していらっしゃいました《写真・よっち》

一円からは展示飛行終了後にランウェイ25にアプローチしコンバットピッチでブレイクするブルーインパルスも見られた(写真・伊藤宜由)

 展示飛行終了後の夕方にはパイロット全員が商工会前の特設ステージに登壇し、トークショーを行った。全員がまつり会場に現れたのははじめてのことではないか。

飛行隊長の江尻2空佐(写真中央)を中心に特設ステージに立ったブルーインパルスの全パイロット。(写真・塚田圭一)

 東松島夏まつりに先立つ青い郵便ポストのお披露目式にも松島基地司令の渡部琢也空将補と第11飛行隊長の江尻2空佐がアテンドしており、東松島市と松島基地の良好な関係がうかがわれた。三陸沿岸道上り線矢本パーキングエリア隣接地には建設中の新しい道の駅も見え、完成後には退役したブルーインパルスの機体を展示する計画もあるという。
 まつりは夜まで続き、松島基地構内から打ち上げられる恒例の花火大会も開催された。

令和6年度松島基地航空祭

 松島基地航空祭と東松島夏まつりはセットで開催されるブルーインパルスファンの一大イベントだ。中には平日から前乗りして飛行場訓練を見たり、外来機を出迎えたりして週末を迎えたファンもかなりいたようだ。ブルーインパルスの飛行場訓練は通常週3回程度のところを5回予定され、航空祭のリハーサルも行われたようだ。

EC-1(通称カモノハシ)のお出迎え、歓迎の様子です《写真・伊藤聖子》

ブルーインパルス 午前の部 訓練展示

展示飛行プログラム。松島基地配布パンフレットより抜粋。オープニングのT-4が不参加になった以外は全て計画通り実施された(出典・松島基地HP)

 ブルーインパルスの本拠地で開催される松島基地航空祭は、ブルーインパルスの展示飛行が2回見られることが最大の楽しみだ。午前中の1回目は訓練展示とされ、ウォークダウンも行われず、公式展示としては記録されないが、編隊長が午前と午後で交代することや、展示内容も違ったもので構成されることがあり、目が離せない。
 午前中の訓練展示は飛行班長の川島良介3空佐が編隊長を務め、ナレーターは浅香1空尉が務めた。曲技飛行を期待したが、雲底が低かったようで航過飛行となった。ただし、その内容はこれまでに見たことのないフェニックス・ダーティ・ローパスや珍しいダブル・ライン・ローパスが織り込まれ、ファンをうならせた。
 宮津市の展示では細川ガラシャ夫人像とブルーインパルスの写真を投稿いただいた5兵衛さんからは、松島基地に残る津波の犠牲となった804号機のモニュメントとブルーインパルスや基地内に残る津波の遺構との写真が寄せられた。その視点には毎度感嘆するばかりだ。このたびもありがとうございました。

訓練展示で披露されたフェニックス・ダーティ・ローパス(動画・Yuka Miyamoto)

youtu.be

KC-130Hとリーダーズ・ベネフィット・ローパス(写真・塚田圭一)

#804と共に《写真・5兵衛》

 松島基地内をある程度自由に歩き回ることができる松島基地航空祭でしか撮れないと思って撮影した#804の尾翼のモニュメントとブルーインパルス。

被災したベンチとブルーインパルス《写真・5兵衛》

 被災したあとしばらくは津波の爪痕がいたるところに残っていた東松島市だが今はもう、その痕跡は殆ど残っていない。しかしこのベンチを見ると、ここはかつて被災地だったんだなと思い出させてくれる忘れてはならない場所。

ツリー・ダーティ・ローパスと第203飛行隊創隊60周年記念塗装機《写真・塚田圭一》

午前の訓練飛行を終えて戻るパイロットさん達(先頭が川島3空佐)《写真・よっち》

 疲れているでしょうに笑顔を絶やすことなく対応してくださり、感謝しかありません。

ブルーインパルス 午後の部 曲技飛行展示

 午後の展示飛行は飛行隊長の江尻2空佐が編隊長を努めた。江尻2空佐は初の曲技飛行展示アクロデビューとなった。3番機練成の松浦翔矢2空尉がナレーターを務めた。
 午後も曇天で航過飛行からスタートした。またもや航過飛行かと少し残念な気持ちになったが、グランドクロス・ダーティ・ローパスでは2番機のみが着陸灯を点灯し、2番機の青い郵便ポストを模した隊形であるとのアナウンスが入り、その創意工夫にあっと驚かされた。さらに早い段階で曇天下ながら天候が回復し、高高度の課目は実施されなかったものの第3区分の曲技飛行が展示された。その内容もサクラが省略されたり、ダブル・ロール・バックが珍しいシックス・カード・ローパス(初披露か⁉)に置き換えられたりと、変則的な課目構成を伴う展示であったが、精鋭のパイロットたちは、これをそつなく完遂した。往年のレベル・オープナーも盛り込まれた。編隊長の江尻2空佐はT-4ブルーインパルスでは初のテストパイロット出身の戦闘機パイロットだ。

エプロンにて撮影《写真・伊藤聖子》

 今年の松島基地航空祭らしさを写真に収めたくて、第203飛行隊のスペマとブルーを絡めて撮影しました。

2番機のみが着陸灯を点灯した青い郵便ポストを模したグランドクロス・ダーティ・ローパス(写真・今村義幸)

いつもと違う場所で《写真・5兵衛》

 いつも離れた場所から見ているブルーハンガー。そこに駐機されているのがF-2。ブルーハンガー内に入ってこんな写真が撮れるのも航空祭ならではである。

4シップ・インバート(写真・伊藤宜由)

タック・クロスIIで交差する5番機と6番機(写真・伊藤宜由)

最後の課目、コーク・スクリュー(写真・塚田圭一)

展示飛行を終えたブルーの最後のお楽しみシーンです《写真・西山多喜子》

 1年の最大の楽しみである松島基地航空祭には毎年大阪から片道900キロ弱を車で行くのですが、ブルーに会えるのが楽しみ過ぎて距離は全く苦になりません!お天気がどうなるかと心配でしたが、今年もこの並びを撮ることができて感無量です♡

救難機や戦闘機の展示飛行も充実

 ブルーインパルスに負けじと松島救難隊や第21飛行隊も高度な展示飛行を見せてくる。今年はそれらに加えて、外来機として千歳基地第2航空団より第203飛行隊の創設60周年記念塗装機のF-15Jが展開し機動飛行を展示したほか、三沢基地第3航空団より第301飛行隊のF-35A、2機がリモートで飛来し機動飛行を見せ、第21飛行隊のF-2Bと合わせ主力戦闘機全機種による展示飛行が出そろう結果となった。地上展示では、入間基地より退役間近の電子戦訓練機EC-1や、小牧基地より救難ヘリUH-60Jに空中給油が可能な空中給油・輸送機KC-130Hが参加した。
 地上では松島基地クラブチームのブルーインパルスJr.の走行展示や警備犬の訓練展示も行われた。

松島基地所属第21飛行隊によるF-2B機動飛行(写真・伊藤宜由)

F-2の模擬対地攻撃展示では第4基地防空隊(4防隊)の基地防空用地対空誘導弾(基地防空用SAM)がこれを迎え撃つ模擬戦闘も披露された。ひと昔前はVADS機関砲によるものであったがアップデートされた(写真・今村義幸)

松島救難隊による救難展示(写真・伊藤宜由)

三沢基地からリモート展示した第301飛行隊のF-35A(写真・伊藤宜由)

千歳基地より展開して松島基地の離発着で機動飛行を見せた第203飛行隊のF-15J(写真・伊藤宜由)

ファン想いの松島基地航空祭 

 会場内の要所要所に給水機が設けられ暑さ対策が取られたほか、終了後にはブルーインパルスパイロットが飛行隊長も含め来場者を見送るという斬新なファンサービスも行われた。1番機から3番機が若松門に、4番機から6番機が南門に立った。これまでパイロットとの交流は展示飛行前や後に航空祭のメニューにはない自主的なファンサービスでサイン会として実施されることが定石であったが、メニューにないためパンフレット等で場所や時間が案内されることもなく、また時間的制約から交流できないまま終わるファンも少なくなかった。このお見送りというファンサービスは、すべての来場者とファンが交流の機会を持てたという点において画期的だった。

要所要所に給水機が設置され、塩分補給用タブレットも提供された(写真・伊藤宜由)

臨時駐車場へのシャトルバスの乗り場へ通ずる南門で来場者を見送った4番機、5番機、6番機パイロットたち(写真・今村義幸)

 東松島夏まつりと松島基地航空祭を通して、東松島市と松島基地とブルーインパルスとファンの一体感が醸成された一大イベントとなった。東日本大震災時には第11飛行隊長だった現松島基地司令・渡部空将補の人柄と指導によるところもおおきいのではないか。

読者投稿受賞作品(防衛日報社賞)

 応募で防衛日報社賞に輝きましたのは、西山多喜子さんの「展示飛行を終えたブルーの最後のお楽しみシーン」です!
 西山多喜子さんには防衛日報社賞の記念品を贈らせて頂きます。

《投稿写真》5兵衛、よっち、伊藤聖子、西山多喜子(掲載順)
(文/写真/動画)ブルーインパルスファンネット 今村義幸/塚田圭一/伊藤宜由/Yuka Miyamoto