夕刻のトワイライトショー(薄暮展示)が復活

 令和5年(2023年)8月5日(土)、第100回の記念すべき石巻川開き祭りでブルーインパルスが飛んだ。今年の石巻川開き祭りは東日本大震災前の開北橋下流側に会場が戻り、ブルーインパルスの展示飛行もまた震災前の夕刻の展示飛行が復活した。
 ブルーインパルスはお隣、東松島市の航空自衛隊松島基地からの離着陸で、編隊連携機動飛行を展示した。

 メイン会場となった開北橋下流の南側には「仮設大橋団地」があった。石巻市内にあったプレハブ仮設住宅は令和2年(2020年)1月17日をもってすべて解消になったという。しかしGoogle Mapの衛星写真を見ると、会場となった広場には集合住宅が写っている。以下の国土地理院の航空写真では、左上に開北橋があり、右下の川辺が突き出した陸側に仮設大橋団地が写っている。この一帯が無料観覧エリアとして開放されたが、Google Mapで見ると団地が写っており、ここで本当に見られるのか心配になった。しかし、現地に到着すると、そこは更地となって開放されていた。

平成23年(2011年)5月11日の石巻市(出典・国土地理院)

mapps.gsi.go.jp

石巻市で飛ぶブルーインパルス

 ブルーインパルスの本拠地、航空自衛隊松島基地のある東松島市と隣接する石巻市では、これまでにもブルーインパルスが数々の展示飛行で行ってきた。
 現行のT-4ブルーインパルスになってからは、ツアー開始初年度の平成8年(1996年)から平成12年(2000年)まで、石巻サンファン祭りで飛んでいた。平成12年(2000年)の事故で一度途切れ、平成18年(2006年)から平成21年(2009年)の石巻川開き祭りで、トワイライトショー(薄暮展示)として復活した。
 震災後、平成26年(2014年)から令和元年(2019年)の石巻川開き祭りでは、下流の石ノ森萬画館の辺りで日中に飛んでいる。そのほかにも湾港感謝祭(2009年)、豊かな海づくり大会(2021年)、旧北上川河口部復興事業完成式(2022年)などでも展示した。

平成8年(1996年)8月10日の石巻サンファン祭り(藤吉隆雄STS研究写真展より)

tohkichi.org

 藤吉隆雄STS研究写真展「1996年のブルーインパルス ~空の記憶と記録を集める~」でブルーインパルスの社会科学研究を進めている藤吉隆雄氏(津田塾大学 総合政策研究所 特任研究員、ブルーインパルスファンネット調査研究部会)とは、平成18年の石巻川開き祭りで、「ブルーインパルス初のトワイライトショーだ!」と勇み足で開北橋下流側の展示基準点辺りを共に目指した。

平成18年の石巻川開き祭りに地上統制官として来場した吉田信也3空佐(当時)。無料会場東側の土手への道は出店が並んでいた

 初のトワイライトショーを地上統制官として指揮した吉田信也元2空佐は「初の薄暮展示ということで、日没前に全機松島基地にランディング。これから逆算して展示課目とパターンを作りました」「当初はデルタ・ダーティー・ローパスから入る組み立てでしたが、薄暮ということで、それを少しでも暗くなってからにしようと倉田裕隊長(当時)の案で組み替えて決めました」と述懐している。

平成19年(2007年)8月1日の石巻川開き祭りより。土手の上で買い物帰りのご婦人や浴衣姿のカップルたちがブルーインパルスを見上げていた。そこには「石巻川開き祭り実行委員会」の名が入った行灯があった

 今年はお祭りが第100回という記念の年でもあり、会場は震災前の開北橋下流側に戻された。ディズニードローンショーの開催、花火大会も昨年の9000発から16000発に増やすなど、一層の大規模開催となった。土手の上は有料席の範囲となり、そこに上がることは出来なかった(ただし川下に数百メートルずらせば有料席外となり上がれた)。有料席は早くに売り切れたようだ。土手の上に並んでいた川開き祭りの行灯がないことに、この町が失った多くのものの重みを感じた。

全方位から多彩な展示飛行を繰り広げるブルーインパルス

開北小学校の後方から進入しレベル・サンライズから始まった展示飛行

 川開き祭りであるから、川面が見えないのは少し寂しい。だが、川面が見えないとしても、仮設団地で多くの人が震災後の時を過ごしたこの場所は見過ごせない。往年の展示飛行から、開北小学校をめがけて飛んでくることもわかっていた。川下と二手に分かれて撮影することにした。

 低い雲が点在していて、最初は5番機が天候偵察で会場上空に飛んできた。その後、雲の上で展示飛行が始まった。それは震災前の石巻川開き祭りでは見たことのない後方からの進入でレベル・サンライズから始まった!
 旧北上川は曲がりくねっていて河口は見えないが、山の向こうはすぐに海だ。海から新しい幕開けに相応しい日の出を模したレベル・サンライズで始めたブルーインパルスもまた、松島基地帰還10周年であり、節目の年に当たる。1番機・編隊長は東北出身の名久井朋之2空佐(第11飛行隊長)だ。

2課目目のビッグ・ハート

3課目目のリーダーズ・ベネフィット・ローパス。4機で実施するのは珍しい(写真・伊藤宜由)

 展示飛行開始前の天候偵察が1機で、続く開始のレベル・サンライズが5機。次にビッグ・ハートの2機とリーダーズ・ベネフィット・ローパスの4機。1機と5機、2機と4機。6機のブルーインパルスを分離したり集合したりして、組み合わせで展示課目を構成していくのがブルーインパルスの定石だ。
 天候偵察を想定して、それを担当する5番機を分離しておき、5機の課目から入ってくる。多くのものを飲み込んだ海の方角からサンライズで何かを呼び戻してくるかのようにも見える。震災前の石巻川開き祭りとは違う鎮魂の展示飛行は、この出だしで始まった。
 課目構成を決めるのは飛行班長の川島良介3空佐だ。土手向こうの飛行指揮所に地上統制官として居た川島3空佐に会うことはなかったが、いつかこの課目構成について聞けたらと思う。
 会場後方で、海側で開始前の空中待機をすることの自然さはある。それだけでなく、飛ぶ側の意図や見る側の想いが重なって何かの意味を織りなしていくのがブルーインパルスの展示飛行だ。
 周りには、復興支援事業としてスタートした東松島ステッチガールズの芳賀朋子代表と東松島で生まれ育ち日本ミツバチの普及に励む芳賀さんのご主人、地元のクラフトビールを通して人と人を繋いでいる芳賀さんの仲間もいた。遠くからは、富谷市で地域おこし協力隊として活動している仲間もいた。
 みんな泣きそうになっていた。前置きなく観たが「ブルーインパルスが今年、松島基地帰還10周年であること」だけは確認していた。

4課目目のグランドクロス・ローパスは後方から進入してきた(写真・伊藤宜由)

 2機でビッグ・ハートを終えた5番機/6番機、4機でリーダーズ・ベネフィット・ローパスを終えた1番機/2番機/3番機/4番機は全機空中集合し、再び最初と同じ南側後方から6機のグランドクロス・ローパスで進入した。スモークオンの開始点はわからないが、石巻駅や日和山公園などの海側を含め石巻市のかなり広いエリアから見ることができたはずだ。

5課目目の左からスワン・ローパス。西側から川に沿って飛んでいる(写真・伊藤宜由)

6課目目は正面からポイントスター・ダーティー・ローパス(写真・伊藤宜由)

 後方、左、正面と進入方向を変えて航過飛行課目を繰り広げる。ポイントスター・ローパスは脚を下げたダーティー形態で飛行した。低速かつ薄暮のランディングライトが綺麗に見えるダーティー形態のはずが、雲のために高度が高く、いまひとつその効果は感じられなかった。雲がなければ、もっと低く、また会場に向かって高度を若干下げながら向かってくる飛行で、ランディングライトをキラキラさせていたはずだ。

左から7課目目のE(エコー)デルタ・ローパス(写真・伊藤宜由)

正面から8課目目のフェニックス・ローパス

 左からやや間隔の広いE(エコー)隊形のデルタ・ローパスと正面からフェニックス・ローパスが続いた。この二つは医療従事者等への感謝飛行で東京上空を飛んだパレード飛行の隊形だ。この後、折り返してサクラへと向かう。

9課目目のサクラ

 サクラは会場後方からの進入とした。通常であれば会場の右手から正面へ出てサクラを描くが、後方から右手へ向けて上昇しサクラを描いた。全方位からの進入は、石巻市の広いエリアから見られるようにとの配慮が見えてくるが、これだけ全方位で見せる編隊連携機動飛行も珍しい。

10課目目は5番機ソロの720°ターン

11課目目のチェンジ・オーバー・ターン

 サクラを終えると5番機が離脱し、正面から720°ターンで8の字旋回を見せた。1機の次は5機の課目、チェンジ・オーバー・ターンが来る。全方位の編隊連携機動飛行の中でもこの旋回課目は唯一右からの進入だ。

12課目目のデルタ・ダーティー・ローパス(写真・伊藤宜由)

 最後は左からの脚を出したデルタ・ダーティー・ローパスとした。脚を出した着陸形態のため、機速もゆっくりで、刻々と陽が落ちていく時間の中で、夕陽をバックに雄大な航過飛行で締めくくった。
 こうして並べてみるとサンライズからサンセットまでを、変化に富んだトワイライトショーとして構成したことがよくわかる。

石巻羽黒山鳥屋神社さんに見守られて

日没後にはディズニーのドローンショーや花火大会が開催された

展示飛行の前に石巻羽黒山鳥屋神社で頂いた御朱印と、御朱印帳入れに買った東松島ステッチガールズのクロスステッチ製品

 展示飛行の後、日没後にはディズニーのドローンショーと花火大会が開催された。それに先立ち石巻羽黒山鳥屋神社の宮司さんが花火大会の安全祈願と川清め式を斎行した。石巻羽黒山鳥屋神社は1600年もの歴史を持つ由緒ある神社であるが、鳥の名前がつく飛ぶものであることや、御祭神が猿田彦神であることから、みちひらきの神、導きの神とも言われ、前に進んでいく姿が重なること、平成25年の松島基地帰還に神社として何か応援したいなどのお気持ちから、ブルーインパルスの御守や御朱印帳をはじめられた。
 石巻羽黒山鳥屋神社さんとのご縁もまた10周年。石巻川開き祭り展示飛行を飾った。

《第100回 石巻川開き祭り 展示飛行実施課目》

①レベル・サンライズ
②ビッグ・ハート
③リーダーズ・ベネフィット・ローパス(4機)
④グランドクロス・ローパス
⑤スワン・ローパス
⑥ポイントスター・ダーティー・ローパス
⑦デルタ・ローパス(エコー隊形)
⑧フェニックス・ローパス
⑨サクラ
⑩720°ターン
⑪チェンジ・オーバー・ターン
⑫デルタ・ダーティー・ローパス

《第100回 石巻川開き祭り 展示飛行メンバー》

1番機 名久井朋之2空佐(飛行隊長)、後席・江尻卓2空佐
2番機 東島公佑1空尉、後席・松永大誠1空尉
3番機 藏元文弥1空尉
4番機 手島孝1空尉
5番機 江口健3空佐、後席・藤井正和3空佐
6番機 加藤拓也1空尉
地上統制官 川島良介3空佐(飛行班長)
ナレーター 佐藤裕介1空尉

《取材・撮影》ブルーインパルスファンネット
今村義幸(文)/伊藤宜由/Yuka Miyamoto
《写真提供》藤吉隆雄(津田塾大学 総合政策研究所 特任研究員、ブルーインパルスファンネット調査研究部会)