令和5年(2023年)4月15日(土)、コロナ禍で4年ぶりとなった海上自衛隊と米海兵隊の共催による岩国航空基地フレンドシップデー2023が開催された。岩国航空基地に配置されている海上自衛隊第31航空隊は開隊50周年を迎えた。ブルーインパルスは平成29年(2017年)以来の6年ぶりの参加だ。
例年5月5日の開催であるが、報道各社によれば、5月19日(金)から21日(日)に開催されるG7広島サミットの警備上の理由から前倒しになったという。
平成28年(2016年)のG7伊勢志摩サミットの際、筆者はエアフォースワンをはじめとする各国要人輸送機の発着拠点となった中部国際空港構内に勤務していたが、その事前周知や警備体制の構築は早い段階から行われていた。今回の広島サミットでも岩国航空基地や広島空港が発着拠点になることは容易に想像がつく。1ヶ月以上前の4月15日への前倒し(5月5日からは3週間近い前倒し)はギリギリの最低ラインだろう。
参加者数は報道各社によると主催者発表で62,000人という。航空祭では最大級の西の横綱「岩国」と東の横綱「入間」は20万人級の航空祭であるが、ゴールデンウィークを外れたことや悪天候で参加者は大きく減ったようだ。
とにかく広大な岩国基地
この日朝6時過ぎ、JR広島駅から始発2本目の電車に乗ると、それは既に満員電車となっていたが、朝7:55に岩国基地ウェストゲートに到達し、荷物検査を受け、居住区やCVW-5(第5空母航空団)司令部の建物を横目に最初の広大な駐機場に入ったのが8:42であった。
とにかく広大だ。売店が並び航空機も地上展示された一つ目の駐機場は入間基地の倍はあろうかという広さだ。ブルーインパルスの列線が見える気配はない。アメリカンフードの出店を見て周りハンバーガーセットを買うと、次には人気のスーパーホーネットF /A-18F部隊であるVFA-102/DIAMONDBACKSの機体とテントが目に入ってきた。大変な人だかりで、各部隊のグッズに手を出していたら大変なことになると自制するつもりで行ったが、同隊の歴代機体のワッペンを見た時には自制心を失っていた。
DIAMONDBACKSの次には近くのオスプレイなどを見て周り、冷める前にとハンバーガーを食べ始めたのが9:25であったが、その頃小雨の中、離陸する爆音が聞こえた。
さらに奥のメイン会場となった駐機場は、これまた入間基地と同じくらいの広さであり、この境目辺りからが以前に加え埋め立てて拡張されたエリアであるが、さらに奥の海側に滑走路がある。
左手東側には立入禁止であったがCVW-5やMAG-12の駐機場があり、岩国錦帯橋空港も見えないが奥にある。どれだけ広大なのか。海上自衛隊岩国航空基地の格納庫は新しい駐機場の右手西側にあるようだった。
天候不良で展示飛行は縮少
この日の展示スケジュールは発表されることなくその都度アナウンスされた。
この日確認できた展示飛行は;
9:30頃より米海兵隊VMGR-152/KC-130Jの航過飛行、
10:00頃よりVFA-27/Royal MacesのF /A-18E・VAW-125のE-2D・KC-130Jによる航過飛行、
11:00頃より陸自UH-1によるラペリング降下(懸垂降下とも言う。ロープを伝って隊員が降下する)デモ、
11:30頃よりLEXUS PATHFINDERエアレースチーム/室屋義秀選手の曲技飛行、
13:00頃よりウィスキーパパ競技曲技飛行チーム/内海昌浩選手の曲技飛行とフェラーリとの競走、
13:30過ぎより米空軍F-16デモチーム曲技飛行、
13:55頃より米海兵隊VMFA-121/Green KnightsのF-35B曲技飛行、
14:20頃より空自築城基地よりリモートの第6飛行隊/F-2A展示飛行(ワンパスのみで帰投)、
14:30頃よりブルーインパルスのウォークダウン、地上滑走展示で終了、
15:45頃より海上自衛隊航空学生隊によるファンシードリル展示。
であったが、海兵隊のオスプレイや海自アクロチーム/ホワイトアローズ、海自救難飛行艇US-2の展示飛行はなかった。ホワイトアローズは列線も見当たらず、どうやら岩国と同じ山口県にある小月航空基地からリモート展示を予定していたと思われる。ホワイトアローズとブルーインパルスの初競演は悉くお預けとなった。
ブルーインパルスの分まで飛んだ日本勢の室屋選手と内海選手
軽飛行機という分類では違和感のあるバリバリのレーシングアクロマシンが宙を舞った。耐G制限が±10Gという驚異的な機体だ。
岩国フレンドシップデーでは2000年代から常連の室屋義秀選手は、2017年レッドブルエアレース世界チャンピオンであり、LEXUS PATHFINDERエアレースチームとしてエアレースのアクロ機動を織り交ぜたアクロバット飛行を見せてくれた。晴れていれば十八番のニコちゃんマークを空に描いてくれたはずだが、小雨の曇天でそうした描き物はなかったものの、低高度でのアクロバット飛行を迫力満点で魅せてくれた。
ブルーインパルスのツアースケジュールには9月16日(土)に2023福島空港「空の日フェスティバル」があり、室屋選手のホームベースであることから、次回こそブルーインパルスとの競演に期待したい。
ウィスキーパパ競技曲技飛行チームの内海昌浩選手も岩国フレンドシップデーの古くからの常連であり、Extra 300で圧巻の曲技飛行を見せてくれた。特筆すべきは岩国フレンドシップデーのスポンサーに名を連ねたフェラーリのスポーツカーと滑走路上でレースを行ったことだ。ウェットコンディションの滑走路であることを感じさせないフェラーリのスピードに会場が沸き立った。
Extra 300とフェラーリとの競走を動画撮影してみた。高度も低く一瞬なので、目を凝らして見て頂きたい。
米空軍F-16デモチームと海兵隊F-35B
三沢基地を拠点とする米空軍PACAF(太平洋空軍)F-16デモチームは、2020年1月より同隊に在籍し、本岩国フレンドシップデーでラスト展示となったJOSIAH "SIRIUS" GAFFNY少佐(SIRIUS=シリウスはタックネーム)がアクロバット飛行展示を実施した。米空軍はブルーインパルスが手本としたF-16の展示飛行専門部隊「サンダーバーズ」を持つが、それ以外にF-16、F-15、A-10などの展示飛行チームを運用し、機体性能の顕示や戦闘機輸出促進の一端も担っている。
岩国フレンドシップデーのスポンサーにはF-35の開発製造元であるロッキードマーチン社も名を連ねた。滑走路前のメイン会場の駐機場には空自三沢基地より第302飛行隊と第301飛行隊のF-35A各1機と岩国海兵隊VMFA-121/Green KnightsとVMFA-242/BatsのF-35B各1機の計4機のF-35が地上展示された。
航空自衛隊も導入を予定しているF-35Bは圧巻のSTOVL(Short Take-Off/Vertical Landing=短距離離陸/垂直着陸)性能を見せた。単発エンジンながら、短距離離陸時にはコクピットすぐ後ろのリフトファンが開口し、後部の偏向ノズルも下を向いて、極めて短距離で楽々と離陸して見せた。これであればカタパルト射出装置を持たない「いずも型護衛艦」でも離着陸できる。
航空自衛隊がF-35Bを導入した際には、海上自衛隊のいずも型護衛艦での運用となる。空海自衛隊での統合運用はイギリス軍方式であるという。海上自衛隊はヘリコプター搭載型護衛艦で哨戒ヘリの洋上での離着艦を行ってきた。航空機は横風でも制限値内であれば離着陸できるが正面から向かい風を受けることが一番望ましい。空母や護衛艦が地上と違うところは極端に滑走路が短いことであるが、護衛艦を風上に回頭して離着艦させる運用で、このSTOVL性能と相まって確実に離着艦できると感じた。
離陸後、展示飛行は海辺という立地に加えて小雨が降ったり止んだりの天気で、ベイパーコーンを出しての機動飛行を見せていた。ベイパーコーンといえば岩国名物的スーパーホーネットの十八番の印象があるが、STOVL機にして、それをも彷彿とさせる迫力ある機動飛行となった。
ベイパーは翼端が空気を切り裂いた際に出ることがある水蒸気の帯であるが、ベイパーコーンは胴体から広がる円錐状の水蒸気である。音速を超えた際のソニックブームと勘違いされるが、音速に達した際の衝撃波は発生しておらず音速には達していない。ただし音速に近い速度は出していると思われる。
他、お腹のウェポンベイを開いてこちらに見せる旋回などを行い、見せるところはしっかりと見せていた印象だった。
雨で地上滑走展示のみとなったブルーインパルス
展示飛行の最後はブルーインパルスだった。1週間ほど前からの天気予報は思わしくなく、それでも前日の予報では午後から曇りとあって一抹の望みを託したが、結局ブルーインパルスの展示飛行条件には満たなかったようだ。
1番機、3番機、5番機/2番機、4番機、6番機の2段階でエンジン始動するのは電源車を松島基地から運ばなければならないからだが、以前であればトレーラーで松島基地から陸送していた。C-2が配備されて空輸も可能と思うがどうであろうか。
ブルーインパルスの展示飛行はVMC(Visual Meteorological Condition=有視界気象条件)で有視界飛行方式であることが前提となる。VMCの反対語はIMC(Instrument Meteorological Condition=計器気象条件)で、管制誘導(レーダーサービス)による計器飛行方式で飛ぶことになるが展示飛行はそれでは行わない。
ブルーインパルスの展示飛行は気象条件により6段階で区分されている。アクロバット飛行には1区分〜4区分があり、その下に5区分とも呼ばれる編隊連携機動飛行と航過飛行がある。
1区分 視程8km /雲底10,000ft
2区分 視程8km /雲底7,000ft
3区分 視程8km /雲底5,000ft
4区分 視程8km /雲底3,000ft
編隊連携機動飛行(5区分)視程5km /雲底3,000ft
航過飛行(5区分)視程5km /雲底1,500ft
今年の岩国フレンドシップデーのブルーインパルスの時間は一番下位の航過飛行の気象条件にも満たなかったということだ。昨年度、入場制限などがありながらも航空祭が再開されツアーを再開したブルーインパルスであるが、天候理由による中止は一度もなかった。
新年度ひとつ目で奇しくも天候不良の洗礼を受けたことになるが、元々変わりやすい日本の空であるから6段階の展示区分を設けている。中止は日本の空では免れられない宿命であるが、メンバー全員が航空祭経験のないところから始まったツアー再開において、いつかは通らなければならない道であったことは間違いない。
惜しむらくは、飛行班長の平川通3空佐が1番機に搭乗したが、時期的に見て、最後の展示飛行になる可能性が高いことだ。常に2人のOR(Operation Readiness=展示飛行有資格操縦士)がいる1番機では最後までいつでも飛べる態勢でなければならないため「今日が最後の展示飛行でした」とナレーションで紹介されることはない。任期が終わってみて初めてあの時がラストだったと決まるのだ。
3番機の藏本文弥1空尉、6番機の加藤拓也1空尉もアクロデビューを控えていた。ブルーインパルスの中で最もベテランの平川3空佐が搭乗したのも、彼らをアクロデビューさせる目的があったからかもしれない。このお二人のアクロデビューは次の美保基地航空祭まで持ち越しとなった。
しかしながら、前日の事前訓練は小雨混じりの曇天ながら雲底/視程が確保され1区分からスタートするアクロバット飛行が実施された。その後、気象条件の悪化によるものと思われるが、途中から区分を下げていき航過飛行で終わるという難しいパターンとなった。平川3空佐率いるブルーインパルスは、区分の切り替えも含めテンポ良く落ち着いた印象でフライトを完遂し、特に平川3空佐のブレない熟練ぶりが際立った。これを後席で見た次期飛行班長の川島良介3空佐にもブルーインパルスとしての天候判断要領を伝授する格好の機会となったのではなかろうか。3番機・藏元1空尉も6番機・加藤1空尉もアクロデビューの公式記録こそ先送りになったが、それに準ずる経験を得て手応えを感じたはずだ。
この事前訓練を見た限り、本番中止は残念であったが、ブルーインパルスにとっては大きな岩国展開となった。次回宮城県丸森町を経て美保基地航空祭での新メンバーによるアクロバット飛行を楽しみにしたい。
《文と写真》ブルーインパルスファンネット 今村義幸/塚田圭一/Yuka Miyamoto