災害時のトイレ問題で人の命が失われている

 過去の大震災や大津波など、これまで起きた数々の大災害でライフラインが停止した時、食べ物や飲み物などの支援が真っ先に浮かぶが、実はトイレこそ、もっと取り組んでいかなければならない問題だ。

 顧客対応危機管理支援や災害時危機管理支援などの事業展開を行っている株式会社C-SOSでは、以前から災害時のトイレ問題に取り組んでいる。代表の地村健太郎氏は試行錯誤しながら災害時用トイレを開発し、発泡スチロール製災害対策用簡易トイレ「BENKING」を完成させた。

 ──なぜ災害時の簡易トイレに着目したのでしょうか。

 地村 災害関連死という言葉を知ったのがきっかけです。災害による直接の被害ではなく、避難生活などにおける身体的負担による病死のことですが、災害時のトイレ問題もその原因の1つであることを知りました。

 災害時のトイレ問題でなぜ人が亡くなるのかご存じでしょうか。一番多い原因がエコノミークラス症候群です。皆さん、災害時はトイレに行かないように飲食を控える傾向にあります。

 しかし、水分を摂取しなくなると血中濃度が高くなり、いわゆる「ドロドロ血」になる危険があります。結果、血栓ができやすくなり、血栓が脳や心臓に到達するなどの原因になるのです。

 そのほか、トイレを我慢し続けると膀胱炎になり、最悪膀胱破裂を引き起こします。尿が体内を逆流し、体内に吸収された尿は尿毒素に変わり、死に至るケースもあります。

誰でも安心して何度でも使える簡易トイレを作りたいという思いでBENKINGを開発したG-SOS代表・地村氏

 地村 私はまず、災害時に使われているトイレについて調べたところ、ほとんどが段ボール製でした。段ボールだと、体重のある方が繰り返し使うとなると、耐久性に問題が生じてしまいます。断水などで流せなくなったトイレに備え付けて凝固剤で固める「簡易トイレ」もありますが、建物自体が倒壊してしまったら、便座自体が必要になります。

 そこで、便座付きの簡易トイレが必要だと考えました。素材も段ボール、プラスチック、スチールなどが考えられますが、水害など、水に濡れることを考えると、段ボール製は不安が残ります。また、災害が冬場に発生した時を考えると、座面が冷たいのも非常にストレスです。それらの問題を解決するため、高密度発泡スチロールを採用しました。

 災害時の仮設トイレやマンホールトイレ(専用のマンホールに設置するタイプ)は自治体などの支援があってようやく設置されるものなので、配備まで数日かかります。「公助」が期待できない発災直後から3日や7日までの自分自身で乗り切らなくてはならない「自助」の期間は、携帯トイレや簡易トイレが必要になってきます。

 ──BENKINGでこだわった点はどこでしょうか。

 地村 安心、安全、衛生的に加え、快適性を盛り込みました。耐荷重を謳っているトイレは多いですが、耐久性を謳っているトイレはほとんどありません。「BENKING」は簡易トイレとしては初めて、椅子としてJIS規格の認証を得ています。子どもから大人までお尻にフィットする構造で、座り心地も申し分ありません。

 東日本大震災の際は、避難所などで女性が性犯罪に巻き込まれるケースがあったと聞きます。トイレやお風呂はプライバシー性の高い空間ですので、プライバシーを確保するテントにもこだわりました。さまざまな素材のテントを試したのですが、7割は透けてしまいました。

 意外に気づかれていないのが、夜間に使用する際、テント内でライトを点けた時に外からシルエットが丸見えになってしまうんです。そこで、透けない素材のテントを探して採用しました。テント内に付けるライトは「いつでもランプtsuita」を推奨しています。

 国や自治体が助けに来てくれるまでの「自助」期間をしのぐトイレです。自治体の備蓄、マンションの管理組合、公民館をはじめ、ぜひ一家に1台は備蓄していただきたい。持っていれば災害時に必ず役に立ちます。平時・有事を問わず、アウトドアや介護・医療のシーンなど日常での利用も推進しています。

14日分の消耗品がセットになった「BENKING SLIM」

工具不要で5分で組み立てられるパーテーションハウス

 学校の体育館や公民館など、災害時の指定避難所での問題になるのがプライバシーの問題だ。慣れない集団生活でのストレスから体調を崩す人も少なくない。

 株式会社サンアート・クリエイトでは、災害時の緊急避難施設内での感染症拡大のリスクの回避、プライバシーの確保、避難時のストレス軽減のため、白段ボールパーテーション「マム・ウォール」の販売を開始した。

 同社の本業は防災事業ではなく、展示会やイベントブースのデザイン・施工・設計・演出などを手掛ける総合ディスプレイ業。

 しかし、2020年のコロナ禍で状況が一変。新型コロナウイルスの拡大による政府のイベント自粛要請を受けたことで、事業がストップしてしまう。そんな中、同社のディレクターを務める岡大祐氏が展開したのがマム・ウォールだった。

サンアート・クリエイトの岡氏

 ──マム・ウォール開発の経緯を教えてください。

  この商品名は「守るママの壁」という意味を込めて付けました。もともとは、防災や災害時用ではなかったのですが、ちょうどコロナ禍で、皆さんの気持ちが落ち込んでいる時期でもあり、白い段ボールを採用しました。

 昨年、「フラスコonline」で「危機対策&アウトドア総合展online」チームと出会い、弊社が取り扱う簡易ブースやパーテーションも防災・災害にも活用できるのではないかと思い、メンバーとして参加することになりました。

 弊社は行政や自治体などとのつながりもなかったため、展示会に出展した際に、「マム・ウォール」をお披露目しました。そこで、教育機関や医療機関とつながりのある代理店と知り合うことができ、東京都葛飾区や小金井市、千葉県松戸市などでワクチン接種会場でのパーテーションとして導入していただきました。

 そのほか、自治体の避難所や医療機関やクリニックなどでも導入いただいております。

 開発当初はパーテーションのジョイント部がスチール製ということもあり、重量やコストの問題で悩んでいたのですが、「マム・ウォール」は白段ボール、軽量、工具不要で女性でも簡単に組み立てられるという部分に特化するために、ジョイント部も段ボールに変更して軽量化を実現しました。

 高さも180cmあるので、プライバシーも確保できます。実は災害時の避難所などでは、窃盗や女性が性犯罪に巻き込まれる危険があり、密閉された空間だとかえって不安だという声もあるんです。

 ──マム・ウォールの組み立てには何人でどれくらいの時間がかかるのでしょうか。

  大型のものでも5分程度で組み立てられます。構造は単純なのでジョイント部分のはめ込みなども一度組み立てればすぐにこつをつかむことができます。女性でも、お一人でも組み立てられます。

 テントやシェルタータイプのものだと数十万するものもありますが、「マム・ウォール」は大型のものでも6万円台なので、リーズナブルに提供できると思います。

 ぜひ、防災目的以外にもさまざまなシーンで利用してください。

組み立てられたマム・ウォール。白い段ボールで清潔感もある

東日本大震災で創エネと蓄エネの必要性に着目

 電気依存社会である昨今、当たり前のようにある電気の供給がストップした時のダメージは大きい。

 LED照明を中心に省エネ事業を展開してきた国重・ライティング株式会社では、2011年の東日本大震災での被災地支援で、現地の状況を目の当たりにし、同社の代表・髙橋智也氏はエネルギーを生み出す「創エネ」と、そのエネギーを蓄える「蓄エネ(蓄電池)」の必要性に着目。

 蓄電池の開発を開始し、6年ほど前に大容量ポータブル蓄電池の1号機を完成させた。

 ──大容量ポータブルバッテリー開発のきっかけを聞かせてください。

 髙橋 もともと、弊社はLED(省エネ)に特化した営業活動を行ってきました。まだLEDという言葉が普及していない時代から省エネに関心を持ってもらえるよう活動を続ける中、2011年の東日本大震災で電力のひっ迫が起き、大きな省エネ効果が期待されるLEDが注目されはじめました。

 そして、被災地への支援でLED投光器とソーラーパネルを届けた時に感じたのがバッテリー(蓄エネ)の重要性でした。

 電力の供給が遮断された暗闇の中の明かりは皆様へ安心感を与え、多くの方々が集まってきてくださったのですが、バッテリー能力が低いため長時間点灯を続けることができませんでした。

 自然災害も年々増加、巨大化し、今後発生が予想される南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの状況を踏まえ、蓄電池はとても重要になるという思いがありました。

 そこから蓄電池の開発に着手し、6年の歳月をかけて「タメルラボ.(Tameru Lab.)」の1号機が完成しました。

 当時からソーラーパネルはさまざまなものが発売されていましたが、蓄電池はモバイルバッテリーのような小さなものか、冷蔵庫のような大型の据え置きタイプに二極化されていました。コンパクトで持ち運びができる大容量バッテリーはまだなかったですね。

 例えば、スマホのバッテリーが0%の状態から100%まで充電するのに10Wを要する場合、一般的なモバイルバッテリーの大容量タイプでは3回分程度かと思いますが、タメルラボ.(TL-6000N)なら約600台分の充電が可能です。

国重・ライティングの代表・髙橋氏

 ──タメルラボ.はこれまでどのような場所への導入実績があるのでしょうか。

 髙橋 タメルラボ.は防災を目的として開発したこともあり、地方自治体の防災課や危機対策管理課などが主なお客様です。最近ではコロナワクチン関連の部署での実績も増えてきました。電源の問題で廃棄につながる事故が多い、ワクチン保管用フリーザーのバックアップ電源として使っていただいております。そのほか自衛隊でも導入実績があります。

 災害時に電力がストップした時のインフラは、発電機があれば大丈夫と思われがちなのですが、発電機は精密機器や医療機器には不向きであること、また、発電機は排気ガスの問題で室内では使用できません。地震や台風で道路が分断されてしまうと、燃料運搬のリスクもあります。

 その点、タメルラボ.はバッテリーを使い切ってしまった場合も、専用のソーラーパネルを使えば再び電力を貯めることができます。天候に左右される部分はありますが、有事の際の備えとして蓄電池と併せてソーラーパネルを導入していただくことをおすすめしています。

 発売以来、常にお客様の声に耳を傾け、要望に合わせて製品改良を重ねてきました。その技術は防災という枠を超え、EV(電気自動車)市場においても大きな成果が出ています。

 自治体によっては安全認証規格など、製品試験の内容に関する資料の提出を求められるケースがありますが、弊社では製品安全データシートまで提出できるのも強みのひとつです。

 AED(自動体外式除細動器)の横にはタメルラボ.がある。そんな未来が我々の目指すところです。

さまざまな特長がある大容量蓄電池「タメルラボ.」