急速に進む無人機の自動化
人手で行っていた作業を無人機が自動で行うには、無人機の性能を高めるとともに、複数の無人機を制御(群制御)する高度なアルゴリズムが必要になる。最適なタスクの優先順位や移動経路などを計画しても、無人機同士による衝突や渋滞が起きてしまうからだ。
無人機の群制御は、今後の防衛にも関わってくると思われる課題の1つ。防衛省は防衛費の増額に伴い、情報収集・警戒監視・攻撃などの機能を持つ「無人アセット防衛能力」の予算を大幅に増額する方針を示し、「多種多様な無人機を活用したスウォーム技術の研究」にも着手する。ドローンなどの無人機だけを開発・導入しても、制御できるシステムが伴わなければ本領を発揮できない。
今回は、昨年10月に開催された「防衛産業参入促進展」で水中ドローンの群制御のデモンストレーションを展示して注目を浴びた、エンジニアリング企業「iPX」の代表取締役社長・幸田高人氏とCorporate Strategy Division Game maker・山田栞氏に、群制御アルゴリズムによる無人機の自動化について話を聞いた。
「人間では考えられない領域に対するソリューションが求められてきた」
──「防衛産業参入促進展」では、独自のアルゴリズムxOpt(クロスオプト)を活用した水中ドローンの活用法が注目を浴びましたが、xOpt開発の経緯は何だったのでしょうか。
幸田 弊社のお客様は主に製造業が多いのですが、製造業ならではのさまざまな課題をお持ちです。その課題の1つにクローズアップされているのが、物を動かす「移動」の問題です。
これまでは、人間が考えて対応できるレベルだったのですが、時代が移り変わる中で、自動化や数の力を最大限に活用していくという、人間では考えられない領域に対するソリューションが求められてきました。そこで弊社がxOptという最適化アルゴリズムを生み出して製品化したのです。
山田 従来のアルゴリズムでは、時間軸を考慮していない行動計画が多かったので、エージェント(AGV=無人搬送車)同士の経路のバッティング(衝突)や渋滞が発生してしまうことが往々にしてありました。
しかし、xOptは複数のエージェントにおける複数のタスクや経路制御の最適化ができるアルゴリズムを計算し、バッティングや渋滞を避けて運行させることが可能です。
xOptにエージェントの移動や運搬などタスクのリストを入力すると、まずどのタスクをどの移動体に割り当てるのが良いか、タスク割り当ての最適化を計算。かつ、各移動体における時系列を考慮した経路計画といったものも算出してくれます。
行動(制御)の目標車速やマテハン(マテリアルハンドリング)機器(※)によっては「傾斜」や「旋回の角度」などの姿勢情報、そのほか「一時停止」などの特殊なアクションも計算可能です。
※製造に用いる材料、部品などの物品の搬送、取付け、仕分けなどの作業を行う機器。
xOptは「神の視点」で全体の時間や経路・行動のマネジメントをしながら、エージェントがもっともスムーズにタスクを消化できるよう、全体最適化を図るイメージです。
「防衛という側面でイメージしてもらいやすいように」
──「防衛産業参入促進展」で水中ドローンを用いてxOptを活用した自動化技術のデモを展示されたのは、どのような意図や狙いがあったのでしょうか。
山田 弊社は自動車メーカー様や船舶メーカー様ともお付き合いがありまして、船舶メーカー様でも自動化技術や群制御を視野にいれていらっしゃるというお話を伺ったのがきっかけです。
また、重工系や国防に関連する企業様にもご興味を持っていただけるのではないかと思い、水中ドローンの自動化・群制御に関するデモを展示しました。
幸田 「防衛産業参入促進展」では、お客様によりイメージしてもらえるよう、ソフトウェアに落とし込んだものを例に、「このようなこともできます」と展示しました。
お客様の要件にフィックスさせたものではないので、あくまでイメージですが、まずは見ていただかないと始まらないので。弊社としては、ご覧いただけるレベルにまで作り込みました。
訴求したかったのは、xOptを活用すると、このようなものを動かす計画が自動立案されますというものです。もちろん、防衛という側面でイメージしてもらいやすいよう、水中での展開を題材として扱いました。
山田 展示したデモは、まず複数台の子機(水中無人機)を搭載した母艦(船舶)がいて、目標地点(射出点)に到達すると子機を射出。そして、複数箇所の巡行地点を巡回して各地点の監視をするというシチュエーションとなっています。
xOptは、母艦と子機の最適な巡回経路だけでなく、制御計画まで計算しますので、単位時間当たりの目標の車速やヨー、ロール、ピッチといった姿勢の情報なども計算できるのが特徴です。
島国である日本は、海上や海中の防衛が重要であると考えられたので、このようなデモを展示しました。xOptの計算対象(移動体)は何にでも対応できるので、空中や地上などさまざまな分野に転用ができます。
幸田 ドローン使った防衛では、ハードウェア(機体)の性能を上げればいいのかというと、そうではありません。ハードウェアの性能の優劣だけで勝敗が決まるわけではないと思います。
地球というのは環境の状態が常に動いているものです。
自分たちが支配している領域内の海にもかかわらず、相手も同じ情報を持っている状態で戦っていては勝ち筋が見つかりません。
海という縷々(るる)動く環境の中で、相手が知りえない情報を持つ。それが戦いに勝つ必須ファクターです。
先ほどドローンの性能差について申し上げましたが、「相手に知られていない情報に基づいて最適に動く知能を搭載しているから勝てる」ということです。
ドローンというハードウェアの性能だけを考えても意味がありません。
相手に「あの海域は日本が支配している」「われわれでは知りえない海域の情報を知っているはずだ」と思わせることが先決。そのデータを手にすることが、とにもかくにも重要なはずです。