自衛官の厳しい募集環境下 前線に 後方支援に 高まる期待

 【2022年12月14日(水)1面】 自衛官の募集・採用を取り巻く環境は厳しさを増している。こうした状況の中、大きな期待をかけられているのが「予備自衛官等」だ。普段は企業などに在籍し、有事には常備自衛官と同様に前線に赴く「即応予備自衛官」、駐屯地などで後方支援にあたる「予備自衛官」ら。それぞれに所属企業などの理解の下、招集訓練などへの参加を通し、いざというときに備えている。「国防」を担う貴重な戦力となっている予備自衛官等の現状を報告する。

 国家の緊急事態にあたっては大きな防衛力が必要となるが、その防衛力を常日頃から保持するのは効率的ではない。

 防衛省では、平時は常備自衛官の防衛力で対応し、有事の際は予備の防衛力となる「予備自衛官等制度(予備自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官補の3制度)」を取り入れている。予備自は普段は企業の一員として勤務しつつ、有事の際には自衛官として貢献する役割を担う。

 予備自の招集実績は、平成23年3月に発生した東日本大震災での災害派遣が制度創設以来初めてだった。以降、同28年4月の熊本地震や令和元年10月の台風19号災害、同2年7月の豪雨災害など7回の招集実績がある。

 予備自の確保は重要だ。現在の予備自の人数は4万60人(即自4120、予備自3万3411、予備自補2529=3年度末時点)。だが、このうち即自の充足率の低さが深刻だ。即自は定員の7981人に対し、現員は4120人と約半数にしか達していない上、10年前の平成24年度の65.9%という充足率から年々減少傾向にある。

 防衛省人事教育局人材育成課予備自衛官室の奥村晃司氏は、「退職自衛官に対しては予備自等に関する説明を行い、志願の働きかけを、また、一般の方へは、SNSでの発信をはじめ、パンフレットやポスターを活用して周知や募集案内を行っています」と説明する。

 予備自や即自の採用は、自衛官として1年以上勤務した者が対象となるが、自衛官未経験者でも所定の教育訓練を経て予備自に任用する予備自補制度もある。

 「予備自補(一般)の教育訓練では、遠方からの移動など負担軽減を図るためにインターネットを活用したeラーニングによる教育訓練招集も行っています。3年間で50日の教育訓練のうち、座学での約5日間は出頭せずとも自宅などで受けられます」(奥村氏)

 予備自の確保は志願者の意思だけではなく、雇用する側の企業努力も不可欠だ。

 予備自は年間で定められた日数の訓練に参加する義務があり、中でも即自は年間30日とハードルは高い。企業からすれば、限られたリソースで業務を回す中、訓練のために数日間も従業員に抜けられるのは厳しいと考える。ましてや有事の際は、予定されている訓練とは違い、突然招集される。

 防衛省では、予備自雇用に伴う企業の負担をサポートするため、招集時の支援として雇用企業協力給付金を設けている。

 また、雇用時の支援として「即応予備自衛官雇用企業給付金」制度を設置するなどの対応をとっている。

予備自を雇用する企業側は-
防衛省認定事業所の「全電協」

「働きやすい」と話す小堀氏(左)。会社の方針を説明する吉原氏(右上㊧)と近藤氏(同㊨)。下は社内の掲示物

 【2022年12月14日(水)1面】 予備自衛官を雇用する企業ではどのような取り組みを行っているのか。「予備自衛官等協力事業所」として防衛省に認定されている「全電協」(本社・東京都日本橋茅場町)には現在、4人の予備自をはじめ、自衛官OBが16人所属している。

 予備自として活躍する従業員の小堀風神(ふうじ)氏は元自衛官で、「予備自を志願したのは、元自衛官の上司から『一緒に訓練をしよう』と誘われたのがきっかけです。自衛隊を退職してなお、こんなに熱意がある人がいるんだと感銘を受けました」と話す。

 勤務先に対しては、「訓練招集も快く送り出してくれる上、有休などを使わずに業務の一環として参加できるので、すごく働きやすい環境です」と会社のサポート体制に感謝しているという。

 会社側はどんな思いで予備自を送り出しているのか。総務課課長の吉原方人(かたんど)氏はいう。

「招集」に備え、万全のサポート体制

 「元自衛官をはじめ、予備自の活動に興味がありそうな人に個別で声をかけたり、地本からいただいたポスターやパンフレットなどを社内に掲示したりしています。志願者がいれば会社として歓迎しますし、訓練参加時の調整もサポートします」

 また、全電協安全衛生事務局長の近藤力三(りきぞう)氏は「災害はいつ起きるのかわからないからこそ、予備自を雇用する側の企業としては、いつでも対応できるような体制を整えておくことが大切なのです」と強調した。