東京2020オリンピック聖火到着式(写真:今村義幸)

 令和4年4月1日、航空自衛隊HPにて『2022年度 ブルーインパルス・イベントスケジュール』が更新されました。待望のツアー再開です!年度が明けて早々に、航空祭シーズンの12月までの日程が、一気に通年で発表されたのは何年ぶりでしょうか。夏までの日程を一旦発表し、夏ごろまでにそれ以降の日程が順次追加されるという発表の仕方が普通となっていたところが、往年の通年発表がいきなり帰ってきました。一度変えてしまったやり方を元に戻すのは大変なことで、思いがけず通年発表されたことで、何かこの数年の大変な時期から抜け出せたような気持ちにすらなりました。

 ブルーインパルスの日程を調整するのは空幕広報室です。この通年発表に向けて大変なご苦労があったことと思います。本当にありがとうございます。

ブルーインパルス2022ツアー 図:伊藤宜由

オススメの展示飛行は?

 さて、この中でどれがお薦めかと聞かれたら、それは人それぞれに出来る範囲で観る、ということに尽きるのですが、筆者の場合であれば、秋田はフェリーで入港して船から町を見たけど上陸してないから行ってみたい、とか、滋賀県高島市ってどんな土地だろう、とか、今治は行ったことないしブルーインパルスグッズのバスタオルは今治製のものが多いから一度行ってみたい、といった考え方で、あとは実際に費用や都合で行けるかどうかで考えます。ブルーインパルスが初めて飛ぶ場所で自分も行ったことがない場所となるとかなりモチベーションが上がります。

 感謝飛行をテレビやYouTubeで観たけれども実物を見たことないという方も多くブルーインパルスファンネットに来られますけれども、そういう方はいちばん近いイベントを一つ見られたらとても良い経験になると思います。その時飛んだメンバーはその後ずっとその感動と共に自分にとってのベストメンバーになると思います。

 体力的にも経済的にも余裕のある人は全部行った方が良いと思います(笑)。

 テクニカルな面では、宮古島が日程に入ったことは興味深いですね。宮古島には滑走路2000mの宮古空港がありますから、そこまで展開すれば最南端の展開先として興味深い展開になります。那覇基地から飛来するリモート展示か現地展開か、注目の展示飛行です。
 他には何度も見に行っていますけれども、航空学生の故郷・防府北基地は格別です。山に囲まれた防府北基地でその山の間を縫って飛ぶブルーインパルス。そのフライトは難易度も高く、玄人受けする展示飛行が見られるはずです。
 さらに別格で忘れてはならないのはホーム松島基地。松島基地航空祭では午前午後と二回アクロバット飛行を実施してくれます。通常の飛行場上空訓練と違うランウェイ33基調の特別なパターンを実施してれるのも松島基地航空祭ならでは。往年のファンは松島基地を訪れることを「聖地松島詣」と言います。我々にとっては楽しみなだけでなく神聖な場所でもあるのです。

 SNSでは「入間航空祭がない!」「九州がない!」といった絶叫にも似た(笑)コメントが寄せられていますが、秋からの大型航空祭はやはりまだ新型コロナウィルス感染症の推移を見守るなど調整や判断が必要なのかもしれません。実際、6月5日の防府航空祭は入場者数が一万人に制限されることが発表されました。こうしたコロナ対策を設定することで開催可能か、調整がなされている可能性は十分にあります。通年発表の日程であっても、その隙間に追加日程が発表されることは往年にもありましたので、これからひとつひとつのイベントで主催者の示すコロナ対策などに協力していくことで、後半が拡充されていく可能性が広がっていくのではないでしょうか。

名久井新隊長のデビューとそれまでの2年間を振り返る

西武ライオンズ開幕戦当日。西武球場(べリーナドーム)に向かって西武園上空をフライバイするブルーインパルス(写真:今村義幸)

 新年度日程が発表される直前の3月25日には西武ライオンズ開幕戦当日西武球場ベルーナドーム上空でブルーインパルスの展示飛行が実施され、新隊長の名久井朋之2空佐が展示デビューを飾りました。そのほぼ2年前の2020年3月20日、東京2020オリンピック聖火到着式でオリンピックシンボルを描いたブルーインパルスは、それまでのT-4ジェット練習機のエンジン改修による機数減少の困難な時期を乗り越え、満を持して東京五輪開会式を迎えるはずでした。ところが4月には1回目の緊急事態宣言が発令され、5月には所謂「感謝飛行」で東京上空をフライトし一躍国民の注目の的になりました。しかし、TOKYO2020オリンピックは皆さんご存知の通り一年延期となり、ブルーインパルスはエンジンを操縦学生教育過程へと捻出し、再び機数削減で訓練を進めることとなりました。そして、やっと展示を再開したのが翌年の砺波チューリップフェアでした。いよいよTOKYO2020オリンピック・パラリンピックへと続いていくのですが、途中決まっていた三重国体が中止になるなど決して楽な道のりではなかったことは、皆様ご記憶の通りかと思います。

 聖火到着式から西武球場までを振り返りますと、ブルーインパルスの注目度が上がる度に、報道ヘリなどが展示飛行の空域近くを飛行し空撮取材をするケースも増えてきました。自衛隊といえども、こうした取材機を強制的に排除することはできません。これはブルーインパルス自身が撮影機を飛ばして同じ方向で同じ速度で飛行し撮影する空撮とは明らかに異質のもので、空撮のためのセットアップの打ち合わせもしていませんから、危険が伴う可能性があります。危険が少しでもあると判断されればブルーインパルスはその場から離れて空中待機、さらに演目を変えるなどして安全を確保します。できればそうなるような空撮は遠慮して欲しいと地上から見上げる多くの観客が思っているのではないでしょうか。

画期的な高田城址公園観桜会からの2022ツアーの始まり

 この2年間の中で感じてきたことが通じたのか、通年日程の発表とともに、新たな試みが目に入ってきました。ツアーの開始となる今週末の高田城址公園観桜会での展示飛行では、そうしたケースでの飛行の中止について、はっきりと条件が示されました。

飛行の中止等について
・新型コロナウイルスの感染拡大の状況や、当日の天候、飛行予定場所周辺での緊急ヘリコプターの飛行等の事由により、展示飛行の実施が困難と判断された場合は、直前であっても演目の変更や時間の短縮、または中止となることがあります。
・展示飛行中に半径10km以内に報道機関などの飛行機等が侵入した場合、展示飛行が中断となります。

 展示飛行実施にあたっては、航空自衛隊から国交省航空局へフライトプランが提出され「空域調整」が行われます。それは展示飛行の許可を得るためであり、空域を独占することができることを意味するわけではありません。管制からブルーインパルスが飛ぶエリアに近づかないよう推奨されるといったことはあるかもしれませんが、特別な管制区の中でない限り、あくまでもお願いあるいは推奨ベースにあたると思います。

 これに対し高田城址公園観桜会主催者は、現時点で最善の注意喚起をしてくれたのではないでしょうか。報道関係が主催者にPRESSとして特別な受付をして取材することは極自然なことであり、これは空からの取材でも同じであるべきではないでしょうか。主催者は当然取材のルールを設定することができ、そのルールに従わない場合には取材拒否することもできます。そうしたルールが初めて、しかもこのツアー再開の最初のイベントで提示されたことは、これからのブルーインパルスの展示飛行を成功させる上でたいへん画期的な試みと言えるのではないでしょうか。

 高田城址公園観桜会では2015年にも展示飛行がスケジュールされていました。北陸新幹線開通の関連したこの展示飛行は前日の事前訓練(予行)こそ実施されたものの当日本番は天候不良のため中止となりました。のちに2019年の台風19号の洪水被害で浸水した北陸新幹線も復活し、2024年には小松までの開通も控えています。北陸新幹線のためにも熱心にブルーインパルスの展示飛行を誘致した上越市の皆さんのためにも、今度こそ快晴の空の下、満開の桜の上に咲くブルーインパルスの「さくら」が開きますことを祈念いたします。

田中公司隊長の想い出とともに

入間航空祭にて(写真:今村義幸)

 この2年間で一番忘れられない出来事があったとしたら、小松基地に配置される飛行教導群の群司令・田中公司元ブルーインパルス隊長(空将補(特別昇任))が訓練飛行中の事故で殉職されたことです。航空自衛隊の表の顔がブルーインパルスだとしたら、裏の顔は飛行教導群アグレッサー部隊です。以前に、ブルーインパルスのパイロットは航空自衛隊の戦闘機パイロットの技量を内外に示すものであり、いわば航空自衛隊の戦闘機パイロットがエリートなのだ、と書きました。その戦闘機パイロットに戦い方を教導する部隊ですから、操縦技術は別格と言っていいでしょう。また飛行教導群司令はDuty Pilot(DP=現役パイロット)でなければならず、ベストオブベスト、最強の戦闘機パイロットでなければなりません。ブルーインパルスがフライトの原点を体系立てて見せるとしたら、アグレッサーはフライトの応用の究極を見せる部隊。その両方を体現した田中公司空将補、そして同事故で亡くなった植田竜生3空佐(特別昇任)を失った損失はあまりにも大きく、今はただただご冥福をお祈りするばかりですが、少なくとも事故調査結果が報告されるまでは、ブルーインパルスファンネットのFacebookページのトップ記事は、ずっとお二人の追悼スレッドのままにしておきます。

https://www.facebook.com/412165392221642/posts/4560447260726747/

 こうして防衛日報デジタルに寄稿するようになったのも、2013年の百里航空祭の朝、東京オリンピック2020が決まり、その日の展示飛行のナレーションで田中隊長率いるブルーインパルスが、東京オリンピックに華を添える決意を示してくれたからでした。あの時の、もう一度ブルーインパルスの飛ぶ空を見上げてみんなで一つになろうと思った志は今も変わっていません。

 そして、今年のツアーは田中隊長と一緒に見届ける。そう考えているファンは筆者だけではないのではないでしょうか。

文・写真:ブルーインパルスファンネット管理人 今村義幸