戦時中における兵たちへの呪いの言葉として、歪曲された「生きて虜囚の辱めを受けず」があります。
戦陣訓ではこの一節の後にも言葉が続いているのですが、勝手に独り歩きしてしまうのが言葉の恐ろしいところ。恐らく作った本人でさえ意図していなっかった方向へ行き、まるで生が呪いであるかのような風潮を生み出しました。実際この呪いが広まったことで「実際捕まった時、尋問に対する訓練をそもそも行っていないので敵に情報を渡してしまう」という見事な粗も生み出しているのですが、それは少し横に置いておきましょう。
とはいえ全部が戦陣訓のせいというわけでもなく……こちらも以前第十八回にて紹介した「葉隠」などもあり、日本人の間にはうっすらとした呪いが以前から漂っていました。
そしてその呪いが嫌な形で大きく爆発したのが玉砕であり、自決だったのです。思えば全員が全員、その呪いをビリビリにするだけの構え方が……なんと言いますか、伊藤桂一マインドだったらこうはならなかったのかも……なんて思います。(詳しくは第三十六話を参照ください)
消えることない歴史の傷に向き合うこと
今回のテーマのひとつである「沖縄」。日本とアメリカ軍の激しい地上戦により、罪もない一般住民や戦争に協力させられた若者たち、朝鮮半島から連れてこられた人達が亡くなりました。
沖縄戦で特筆すべきはその悲惨さ。戦場に貴賤なんぞありませんが、住民たちは日本軍から食料を奪ったり殺害したり、アメリカ軍から虐殺を受けたりと、その死者数は約20万人という大変な数となったのです。
そして悲惨な出来事のひとつとして、集団自決がありました。そう、呪いは兵だけではなく、一般人にまで及んでいたのです。なお、沖縄戦における住民の1%が集団自決で亡くなったという脅威の数。
しかしこの集団自決、「日本軍から強制されていたものであり、自決ではなく殺害であった」……という説もあります。このあたりは今も議論されていますが、どちらにしてもひどい話だ……
戦争による物理的な死というものは多くありますが、この「呪い」によって死を選んだ人間もまた多いのが恐ろしい所であり、沖縄ではその呪いがより濃くなり結果をもたらしてしまったのは、今後も語り継いでいかなくてはならないことだと思うのです。
なんだか前置きで終わってしまいそうな雰囲気が出てしまいましたが、それを踏まえて紹介したい本がこちら。
「沖縄戦 衝撃の記録写真集」(発刊:月刊沖縄社)
1988年に初版が発行された写真集。目で見る歴史こと写真を多数掲載、詳細な解説と共に戦争の悲惨さを伝える一冊。沖縄戦だけではなく、戦争の始まりからスタートすることで全体資料としても読むことができます。
よくもまあこんな写真が残っていたな……と思わされるものが多いのですが、写真の提供元が各国の防衛省や国立図書館からだと言うのですから驚きです。そりゃあるわ。
戦争の悲惨さ、人間性が失われた人間たちの惨さがこれでもかと記載され、読んでいるうちに「もうやめて……」と懇願してしまうほどのショッキングな真実たち。
万人にお薦めできるわけではありませんが、戦争の避けて通れない部分の書籍化でもあると思うのです。耐性がある、それでも知りたい、きちんと逃げずに戦争のすがたを見たい。そういう思いがある方はぜひご覧いただけたらと思います。
(個人的に、気になってその生涯について調べたり本を読んだりしていた川島芳子さんの遺体のお写真があったのがショックだったり……)
「写真記録 これが沖縄戦だ」(編・著 大田昌秀)
さて、こちらも発売・発行共に沖縄が携わった写真集。こちらはほぼ沖縄戦に特化しています。こちらは前述の書よりも全部ダイレクトにひどい写真、というわけでないので(あるにはありますが)沖縄戦について調べるなら、まずはこちらからが良いかもしれません。前述した集団自決の写真もあるのでご注意。
その代わり沖縄戦に関しての資料の多さ・解説の淀みなさは流石と言うほかありません。悲惨さだけを前面に押し出すのではなく、資料的に冷静に、淡々と解説が行われている所も魅力のひとつ。あくまで客観的に沖縄戦について学ぶことができる貴重な書です。
そして膨大な解説の中には、「日本軍に殺された・集団自決をした」という情報だけではなく、逃げ場を失った住民たちがお互いに殺し合った……と、いう苦しい新情報も入っていました。
戦いの舞台となってしまったからこそ語れること、情報の出し方の綿密さ。それらがひとつになった一冊です。
「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」(仲宗根政善)
沖縄戦で従軍看護婦として参加したひめゆり学徒の女性たち。
彼女らの体験を集め、編集した生の声の記録集です。ひめゆり学徒たちはまだうら若い十六~二十歳。そんな彼女らの悲痛さと慟哭、生々しい戦場の記録に、読んでいて胸が締め付けられる思いになりました。
そして彼女たちの声もさながら、これを纏めた著者・仲宗根氏はひめゆり学徒隊を引率していた先生だったのだそうで。かわいい教え子たちを目の前で亡くしたことを思うと、この一冊にどれだけの鎮魂と祈りが込められているか……打ちのめされる程の衝撃ですが、それを受け止めるのも後世を生きていく私たちの世代の役割なのかもしれません。
そして個人的に、戦争の描写もそうなのですが看護が本当に大変そうで……。大怪我は勿論ですが、手当をしてもお礼どころか横柄な患者さんの相手をしなければならない様子を見ていると、それも胸が痛みます。
患者さんは一人の人間、精神的に余裕が無く、メンタルケアなんて遠い場所にあるとは理解しているのですが、読んでいて苦しくなりました……改めて、医療に従事している人達はすごいな……と思うのです。お医者さんも看護師さんも介護士さんも、皆すごい。もしこれを読んでくださる方の中に医療従事者さんがいたなら、ひとりの店番の言葉を受け取ってくださったら嬉しいです。本当にありがとうございます。毎日お疲れ様です。
「沖縄の戦記」(著:仲程昌徳)
数多く出版された沖縄戦に関する書籍。それらを年代・書き手・体験記や作品等に分けて考察していく一冊。
最初にご紹介した三冊は沖縄戦を真正面から伝えていくものでしたが、これは執筆されたもの・残されたものから「沖縄戦はどう表現されたか?」、「どのような言葉で綴られ、何が書かれたのか?」を見、そこから実像を明らかにしていきます。大変多角的な視線で読み解かれ、語られていくのがポイントですね。戦後に出されたさまざまな書籍を仲程先生が取り扱っていくことで、冷静に、良い意味で一歩引いて沖縄戦を知ることが出来るのです。
沖縄戦じたい、とても重く苦しい戦いです。真正面から学ぼうとすると、折れてしまう人だっていると思うのです。
しかし、だからといってそれが間違っているわけではありません。別のアプローチから物事を知ることも、また正しさのひとつ。薬だってそのまま飲むと苦いですが、オブラートやゼリーに包むと飲みやすくなるように、「知る」ことが大事なのであって、その手順はなんだってよいのです。文学から見た沖縄戦の姿、必見です。
そしてそのほかにも、以前図書室通信でも書いた著者・城山三郎が描く栄光と悲劇「硫黄島に死す」、著者・吉村昭が書く戦禍に身を投じた少年の戦争体験「殉国 陸軍二等兵比嘉真一」もございます。以前ふたりの記事で興味を持たれた方、ぜひこちらもどうぞ。
沖縄という、海の美しい土地。しかしそこで起こった事は消えることない歴史の傷です。
ひめゆりの塔やひめゆり平和祈念資料館(前述の仲宗根さんが館長をされていたそうです)、平和記念公園やガマなど、今でもその傷痕の多くを見ることができます。
私も沖縄に行く際には足を運んでみようと思います。
アクセス
永遠の図書室
住所:千葉県館山市北条1057 CIRCUS1階
電話番号:0470-29-7982
営業時間:13時~16時(土日祝のみ17時まで) 月火定休日
システム:開館30分までの滞在は無料、それ以降は一時間ごとに500円かかります。
駐車場:建物左側にあります、元館山中央外科内科跡地にお停めできます。
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