お叱りがくるかと思います。第0話でコーナーごとの紹介をするよ!と言いましたが、まさか第6話で早くもコーナーを逸れるとは。しかし、この機会を逃すと「カテゴライズされていない本も魅力的な数々で云々」で済ましてしまいそうな気がするのです。一言で「全部いいよ」と言うにはあまりにも鮮烈な本がそこにあります。

 というわけで連載7回目となる今回はいわゆる番外編。とは言ってもいつもと変わらない店番のコラムなので、気負わずにどうぞ。

手に取りやすいけど、咀嚼に時間がかかります

 さてこのカテゴライズされていない本、基本的には雑誌や図録などの大型本がほとんどです。これは言ってしまえば棚の大きさの関係でその場所に置いてあるという裏方的な理由です。しかしこの場所、入ってすぐの大棚の中央配置。すなわち入ってすぐ目に入る場所。来館者様が手に取りやすいスペースであります。

 それだけではありません。滞在時間数時間だけで小説を読み切ることは不可能です(厚さや読むスピードにもよりますが)。しかし図録や雑誌だと、写真も読み物も摂取できる。なおかつそれらは「その時代」にしか載せられなかったもの、書けなかった表現も多数あります。まず最初にそれらに手を取る理由もうなずけるというものですね。

 というわけで今回の裏テーマは「手に取りやすい!読みやすい!咀嚼に時間がかかる本たち」です。咀嚼に時間がかかるとは一体どういう意味なのか。ではどうぞ。

 今回紹介します一冊目は「毎日グラフ 日本の戦歴 満州事変から太平洋戦争まで 秘められた20年の戦場写真集」です。

 表紙には大きめに「不許可」という判子があります。いわゆる「不許可写真」とは、軍に検閲されたり、削除を命じられたり、映っているとまずい(表に出すとまずい)ものの事を言います。ちなみにこの本が発刊されたのは1965年なので、戦後20年ですね。

 めくると一ページ目に「この『日本の戦歴』には英雄(ヒーロー)は登場しない。ここに戦争の悲劇がある。戦争は繰り返してはならない。これが『日本の戦歴』を世におくる趣旨である」とあります。まさにその通り。兵隊さんの死体写真や眼をそむけたくなるような写真もありますが、それはひとくくりに「グロ」として片づけていいものではありません。「グロ」の追及はカストリ誌にお任せするとして、この本を見るときは戦争について思考しながら、どういうものだったかを目の当たりするのが良いと思われます。毎日新聞の特派員の方々が守り抜いたものを、ぜひその目に焼き付けてください。

 不許可写真繋がりだと「1億人の昭和史 10 不許可写真史」も併せてどうぞ。こちらには「カットシーン映画史」という一風変わったコーナーもあります。基本的に切られているのは女性の裸やラブシーン、キスシーンまで猥褻の一言でばっさりといかれております。これは本筋に関係ないちょっとした疑問なのですが、この時代映画においての裸が卑猥とされたということは、ダビデ像とか裸婦画とかはどういう位置づけだったんでしょうかね?それはそれ、なんでしょうか。

 ちなみに「着物の端から太ももが見えてる!カット!」といった、そこまで……? と思うようなものまでカットされています。現代でも表現の規制を求める声というものは大きいものですが、当時はもっと大きかったのでしょうね。範囲も声も。余談ですが「東京オリンピック」でおなじみ市川崑の作品も規制をくらっております。

 さて三冊目は「死者が語る戦争」1983年発刊。タイトルが内容を表しております。もう少し具体的に言えば、ここに収められているのはすべて死体の写真です。

 よく二階級特進…という言葉を聞きますが、死んだ瞬間人間はそこでぷっつりと「終わって」しまいます。それは国籍も、年齢も、役職も関係ありません。ここに収められている写真は、等しく「戦争」の中で命を落とした者たちを収めたものです。死までの経緯はきっと個々で違うのでしょう。けれどここにあるのは骸(なきがら)です。その骸から、なにを「視る」か。それはきっと読んだ人次第なのだと思います。

 とはいえここまで等しく「死」の羅列を見ると、一枚だけで様々なことを頭に描いてしまい、心臓を思い切り殴られたような感覚になります。とてつもなく恐ろしいのに、ページを捲る手が止まらない。かく言う私もこの本を見たときにそんな反応になりました。その夜はなかなか寝付けませんでした。

 なのでこの本は安易にお勧めはできません。かなり人を選びます。しかし、不思議とそれを手に取る人は多く、それまで色んな本を見ていた人がその場で固まるということもしばしば。とても恐ろしい本です。ただ、そのおそろしさは実際にあったこと。きっと手に取った人こそが、歴史の側面を見る勇気のある人なのだと思います。

 実際のところ、今回はこの本の存在をどうしても書きたくて書いたようなものです。「戦争の悲惨さがわかるので読んでください」とはどうしても言えません。感動だとか、そういうものでもありません。ただ、写真という媒体に殴りつけられる、という表現が一番正しいかもしれません。ただこの本の存在は、どうあれ知ってほしかった。そんな本音があるのです。咀嚼に時間、かかりますよね。

 ここまでで三冊、いつも以上に劇薬めいた本が多かったので、最後は昭和という時代の復興と、戦争、飢餓、肉親や大事な人たちとの別れ、貧しさ……そういう、時代の生み出した昏い場所から明るい場所へ、それでも走ってきた彼ら彼女らが行きついた平和の祭典、「東京オリンピック」の本の紹介です。ちなみに先ほど市川監督の話題を出したのもここへの布石でした。実は。

 こちらの正式タイトルは「アサヒグラフ 東京オリンピック」。ページを捲るとまさに秋晴れ、10月10日の空気がこちらまで漂ってくるようです。ちなみにオリンピック前日の9日は翌日雨予報だったらしく、空に五輪を書く役割だったブルーインパルスのパイロットの皆さんも「この天気じゃダメだろ!酒飲も!」といったテンションだったようで。一晩明けたらまさかの晴天、大慌てで酒を抜き気合を入れ、練習の時はうまくいかなかった五輪マークを見事青空に描いた……という話があります。

 開会式、各競技の迫力ある写真、女子バレー(あの大松監督の笑顔の写真も!)、そしてかの有名な、国も人種も入り乱れた閉会式。どれもが目を奪われ、これをリアルタイムで追っていた人が羨ましい!と思うほど。隙あらば「いだてん」の話を挟み込む店番ですが、この舞台の裏でオリンピック委員会や嘉納先生やまーちゃんが頑張っていたのだな…と思うと感無量ですね。

 そんなオリンピックですが、実は一度返還しています。1938年、一度は開催国に決まった日本でしたが、戦争により五輪は中止になりました。しかしそれでも諦めなかった人々が、もう一度平和の祭典をつかみ取ったのです。

 これを書いている時は、「オリンピックはやる!」と言う政治家さんもいるけれど、状況的には厳しい。しかし、いつだって、一番しんどくて、一番頑張っているのは選手の皆さんなのです。だから私は有益だのなんだの、そういう観点ではなく。選手の皆さんが安全で、全力を出して、国籍も人種も関係のない「スポーツの祭典」が開けたらいいな、と思うのです。

 昭和という時代につかみとった平和は、令和の世では、まさかの疫病に蝕まれております。また平和な日々が戻ってくることを、一個人として祈っております。

 今回は図らずも「戦争と平和」という大きめの結論にたどり着いてしまったような気がします。ですが、戦争と平和、どちらも内包した昭和という時代に発刊された本について今回書くことができて良かったです。それではまた!

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