ごあいさつ

 はじめまして。ヨメナルドと申します。

 私は、(当時)陸曹候補士として入隊し、野戦特科部隊(大砲を運用する部隊)の隊員として勤務をした元女性陸上自衛官です。

 結婚後、子育てをし、議員事務所勤務を経て、ただいま中央大学法学部通信教育課程にて法律を学んでおります。子育てと仕事の傍ら、防災士の資格も取得しました。今は主に、災害にまつわる法律について勉強中です。

法律にまで定められている災害への「備え」

 さて、私が防災士の試験の勉強をしているときに、驚いたことが一つあります。それは、「災害への備蓄や備えることが、法律で定められている」ということです!

 これを定めているのは、「災害対策基本法」という法律です。この法律は、国や都道府県等の責務や組織を定めた日本の防災対策の基本となるものです。この法律が制定される前は、災害、危機管理の場で国、自治体がどのような対策を行うか、その根幹を定めたものがありませんでした。そこで、1959年の伊勢湾台風を契機として、1961年に制定されました。

 この法律の中で、現在、国や都道府県等の責務と一緒に、以下のように住民等の責務も定められています。

 このように、私達住民には、①食料品・生活物資の備蓄等の備え、②防災訓練等の防災活動への参加、③災害から得られた教訓の伝承、を行う努め(努力義務)があるとされています。

なぜ、法律に明記されたの?

 備えることまで国で決められなきゃいけないの?という意見も多々あるかと思います。

 この住民等の責務にある備えについて細かく規定されたのは、平成25年改正の際です。この改正は、平成24年に最終報告を行った「防災対策推進検討会議」での検討を受けて改正されました。これによると、災害時の行政の対応には限界があることや、自らの命と生活を守ることができるように「市民」の力を皆で高めていかなければならないこと、自分自身が身を守る「自助」と、地域や周りの人と助け合う「共助」、公的な機関に支援をもらう「公助」が機能する社会を作りだすことが、東日本大震災を経験した私たちが次世代に対する責務であるとされているという理由があります。

 備えというのは、自分のためだけではなく、災害時、「自助」「共助」「公助」がうまく機能するために、また、次世代への責任としてということでもあるのです。

「自助」として備えるということ。

 法律で定められている住民等の責務は、「自助」の促進であるともいえます。自助としての備えは、物的なものはもちろん大事ですが、知識的な備えもとても大きな役割を果たします。

国土交通省関東地方整備局「『社会経済の壊滅的な被害の回避』に向けた取り組み~ 最大クラスの洪水・高潮による被害想定について ~」
www.ktr.mlit.go.jp

 表は、ハザードマップを事前に確認していたかどうかで、台風時にどの様な行動をとったかを示したものです。ハザードマップを見て自宅に危険があると知っていた人のおよそ半数は、何らかの避難をしています。しかし、ハザードマップを見たことがない人は、16%ほどしか行動に移していません。被災可能性の知識の有無により、行動にも影響します。

 また、首都圏を流れる荒川に想定されている最大規模の洪水が起こった場合、誰も避難をしなければ、3日後に59万人が孤立しているという予測がありますが、その地域の浸水想定を知り、80%の人が避難をした場合、孤立者は12万人まで抑えることができます。

 このように、災害時に自分の地域にどのような危険があるかという確認をする「備え」をするだけで、実際の災害時にとる行動が変わり、万が一、災害が起こったときに、被災する可能性が減少するのではないでしょうか?

「公助」には限界がある。

 被災した場合、共助または公助による助けが必要となります。しかし、「共助」ではどうにもならない際に行う「公助」は、その支援に人的・時間的限界があります。この「公助」が最大限に発揮されるためにも、自助に基づき「備える」ことで、自助だけではどうしようもない人々に対し、自衛隊を含む「公助」を振り向けることが可能となります。

出典:統合幕僚監部「令和2年(2020年)7月豪雨に係る災害派遣について」
www.mod.go.jp

まずは、「備え」てみること。

 災害対策基本法で書かれている「住民等の責務」は努力義務です。努力義務とは、やらないからといって罰せられることはない規定です。しかし、災害は他人事ではなく「自分ごと」なのです。

 自分ごととして主体的に行動し、まずは自分自身の身の回りだけでも災害に「備え」てみることから始めてみる。これを皆がすれば自分だけではなく、周りの人、そして誰かも助けられることにつながるのではと思います。

 今年は東日本大震災から10年の年でもあります。これを機に、備蓄品の確認、ハザードマップの確認、防災訓練に参加、昔の地域の災害を家族や地域の人に聞いて調べてみることなどを行ってみませんか?

参考文献:
・生田長人『防災法』信山社、2013年
・中邨章『自治体の危機管理』ぎょうせい、2020年
・日本防災士機構『防災士教本』
・内閣府 防災情報のページ「令和元年台風第19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ 令和元年台風第19号等を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)(令和2年3月31日公表)」 http://www.bousai.go.jp/fusuigai/typhoonworking/
・国土交通省関東地方整備局「『社会経済の壊滅的な被害の回避』に向けた取り組み~ 最大クラスの洪水・高潮による被害想定について ~」 https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000680525.pdf
・内閣府 防災情報のページ「『防災対策推進検討会議』最終報告」 http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/suishinkaigi/pdf/saishuu_hontai.pdf

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