防衛研究所は4月9日、日本周辺の東アジア情勢を分析した「東アジア戦略概観2020」を発表した。

 貿易摩擦から覇権争いへと転換する米中の対立や、デモに揺れる香港への中国・習近平政権の対応、「危機回帰」をめぐり揺れ動く朝鮮半島情勢などについて分析。核軍備管理では、軍縮より軍拡が進む「第2の核時代」に入ったとの認識を示した。今回が24回目の刊行。

 戦略概観は、「覇権争いへ転換する米中関係」として両国間で貿易交渉が長引いている原因について触れ、これは「単なる貿易不均衡是正の条件闘争ではなく、科学技術力を含めた総合的国力を争っている」ためと分析。米国側が競争的姿勢を強めていると指摘した。一方、対米関係で難しいかじ取りを迫られている習近平国家主席は、「米国との長期戦を覚悟している」とした。

 また、2019年2月に香港立法会に提出された「逃亡犯条例」の改正案をめぐって発生した香港住民によるデモは、香港警察の鎮圧活動が過激さを増す中でも収束の方向性が見えておらず、これが台湾の総統選挙にも影響を与えたとしている。台湾では、香港情勢を見て将来に危機感を覚えた独立派の心をつかんだ蔡英文総統が、2020年1月の総統選挙で史上最多得票を獲得して再選を果たした。

 朝鮮半島では、第2回米朝首脳会談が共同声明を出せずに終わり、北朝鮮がミサイル発射を再開した。戦略概観では、金正恩国務委員長が米国に対して核をめぐる危機に回帰する能力を強調するとともに、中国を在韓米軍の将来に関わる平和体制協議に再び引き込もうとしていると解説している。これに対して、第1回日朝会談をセッティングした韓国の文在寅政権は、朝鮮半島の平和構築のためには南北相互の信頼と対話が重要との立場を取っているが、南北関係は進展しなかったと指摘した。

 2019年の日韓関係は、韓国海軍の海自哨戒機に対する火器管制レーダー照射や、国際観艦式における自衛隊旗掲揚をめぐる韓国政府の否定的な対応、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了通告などがあり悪化したと分析。しかし、日韓GSOMIAの終了通告は韓国自ら取り下げた。

 日本は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想の下、法の支配や航行の自由に基づく海洋秩序の維持と強化に取り組んでいると解説。現在は海上自衛隊を中心にインド太平洋地域におけるプレゼンスとパートナーシップの拡大に取り組んでいるが、厳しい財政状況や海自の人員不足が続く中で、事業の拡大が可能なのかという問題点があると指摘している。

 今回は、昨年8月に終了したINF全廃条約の終了とその影響についても記述。新戦略兵器削減条約(新START)の失効期限も2021年に迫る中、核兵器やミサイル技術は拡散しており、すでに日本を取り巻く安全保障環境は大きく変化していると分析した。東アジアにおいて、今後はミサイル分野での軍拡競争が発生する可能性があることにも言及している。

 戦略概観の日本語版全文は、防衛研究所のホームページで閲覧できる。英語版は7月に公開予定。