「女性の視点」から防災を変える―防衛省、WPSシンポジウム開催|防衛省

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防衛省WPS国際連携室長・松沢朝子氏が会場の進行を担った

防衛日報 2025年8月14日付


    防衛省は7月31日、女性・平和・安全保障(WPS)の視点を防災や災害対応に生かすことを目的としたシンポジウムを東京都内で開催した。国連安全保障理事会決議1325号の採択から25年を迎える中、関係省庁や国際機関、学生13人ほか関心を持つ一般市民、関係者ら計102人が一堂に会し、今後の取り組みの方向性や課題を共有した。


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出席者は100人を超え、国際色豊かな催しとなった


 シンポジウムは「防災・災害対応における女性・平和・安全保障(WPS)現在と未来」がテーマ。市ヶ谷アルカディア私学会館(東京都新宿区)で、決議1325号(記事下部に別枠で紹介)の採択から25周年を記念し、WPSの理念を防災分野で具体化する試みとして実施された。

 

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UN Womenの戦略軍事顧問タイソン・ニコラス氏


 防衛省のほか内閣府、外務省、総務省消防庁、国際協力機構(JICA)、国連女性機関(UN Women)との共催で行われ、国内外の関係者が参加。防衛省WPS国際連携室長の松沢朝子氏や関係省庁の担当者らが登壇し、各機関の取り組みを紹介したほか、UN Womenの戦略軍事顧問であるタイソン・ニコラス氏が、国連におけるWPS関連の国際的な活動について説明した。

 

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会場からの質問に飛び交い活発なディスカッションに

 パネルディスカッションでは、防衛省のHPやSNSアカウントでの募集から参加した大学生らからも質問が寄せられ、


総務省消防庁の女性職員比率(3.7%)の低さに対する指摘に、同庁の担当者が「改善に向けて努力している」と応じる一幕もあった。


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WPS協力プロジェクトで来日したASEANの代表も参加

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パネル討論には一般の大学生なども参加し、質問や意見が交わされた

 

 防衛省は昨年11月に東北6県を対象に実施した大規模防災訓練「みちのくALERT 2024」の成果も報告。自衛隊員約3400人が参加し、津波避難タワーへの誘導、孤立地域への展開、ドローンや犬型ロボットの活用に加え、女性や外国人、障がい者を想定した救援活動を行うなど、WPSの視点を取り入れた訓練が行われた。

 

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松沢氏は自衛隊員・職員全員にWPS教育を行うと力強く発表した


 松沢氏は「自衛隊は中央・地方での災害対応訓練を通じ、自治体や関係機関と連携しながら、WPSの視点を取り入れた活動を推進している」と述べた。

 今後、防衛省は自衛隊員のほか、事務官、一般職員も含め全国約27万人全員にWPSの基礎教育を義務付け、スマートフォンで視聴可能な動画教材やハンドブックを整備する。また、ジェンダー・アドバイザーの配置や災害対応計画へのWPSの明記など、制度面の強化も進める方針だ。

 

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翌1日に惜しまれながら退任した、増田前事務次官もWPSの意義を強調


 閉会のあいさつで、防衛省の増田和夫事務次官(当時)は「女性の視点を取り入れた強い組織をつくる。自衛隊が率先してWPSを推進する意義は極めて大きい」と強調した。



防衛省、WPS教育を全隊員に義務化―女性の参画拡大へ制度整備進む

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統合幕僚監部はWPS推進計画を策定。統幕のジェンダー担当官たち(写真は統合幕僚本部HPより)

 防衛省は、「第3次女性・平和・安全保障(WPS)行動計画」(2023-28年度)に基づき、防災・災害対応分野における女性の参画拡大と制度の定着を推進している。

 2024年3月末時点で女性自衛官は約2万人に達し、全自衛官の8.9%を占める。30年度までにこの比率を12%へ引き上げることを目標とし、採用者に占める女性の割合も17%以上を維持する方針だ。

 防衛省WPS国際連携室長の松沢朝子氏は、「自治体などと連携し、日常の訓練からWPSを実践していく」と述べ、現場への浸透を図る考えを示した。


「国連安全保障理事会決議1325号」って何?


 2000年(平成12)10月、武力紛争下における女性や少女の保護と平和構築への参画を初めて明記した決議を全会一致で採択。今年で25周年を迎え、国際社会ではWPS(女性・平和・安全保障)アジェンダの再評価が進む。決議は「安全確保」「防止」「参加」「復興」の4本柱で構成され、各国が行動計画を策定。日本でも第3次行動計画(2023~28年度)に基づき、防衛省・自衛隊が災害対応や国際協力活動への女性の参画を拡大し、全隊員対象の教育などを進めている。


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<編集部より>


 本日は「女性・平和・安全保障」(WPS)について紹介してみたいと思います。

    WPSは紛争や災害時における女性の保護、紛争解決や平和構築への女性参画を重視する国際的な枠組み。紛争や災害によって影響を受ける女性や女児を保護するとともに、女性の積極的な参加を促すという大きなねらいがあります。

    防衛日報は本日(8月14日付)2面のトップ記事として、このほど都内で開催されたシンポジウムの記事を掲載しました。各地本や部隊からの報告とは別に、防衛省がこの種のシンポを共催とはいえ実施したところに大きな意義を感じて取材したところです。

 「女性の参画」「女性の活躍推進」となれば、まずは自衛隊となります。防衛省がこの10年来、積極推進している重要施策の背景には、女性自衛官が全体の8.9%に過ぎないという現実です。このコーナーで度々書いてきましたが、「そもそも、『精強化』であるべき自衛隊は男性がやること」的な過去の遺物のような意識が続いていた気がします。

    時代は変わりました。職種は増え、女性の配置や登用への対策が進み、女性管理職が登場しました。男性社会だった(現在も比率的にはそうなのですが)自衛隊でも女性が参画できる、というより参画しやすい環境が少しずつ整いつつあります。それでも、まだまだです。

    今回のシンポでは、全国官庁のほか、国際協力機構など内外の関係機関による共催でした。それだけでありません。学生やWPSに関心を持つ一般市民らも参加できるシステムでした。ここがすばらしい。シンポならではです。

とにかく、女性をテーマにしたイベントは注目されやすく、WPSという世界にもつながる内容であれば参加意欲は増します。当然ながら、防衛省・自衛隊のPRにもつながります。

    2000年(平成12)10月に採択された「国連安全保障理事会決議1325号」がスタートとなり、各国でさまざまな取り組みを実施することになったWPSです。日本政府とともに、防衛省でも推進本部を立ち上げました。

    昨年4月2日、その推進本部がまとめた「推進計画と今後の予定」を読むと、こんな文言が随所に出てきます。「防衛省全体の意識改革」「主体者としての認識の醸成」「ジェンダー視点を取り入れた業務・活動の基盤の一層の拡充」「高官はWPSの重要性などを認識することに留意する」…などなどです。

    WPSの推進を考えれば、当然かと思うような文言なのですが、見方を変えれば、過去を振り切り、時代に合わせた取り組みを進めていかなければならない。でないと、一般社会との「距離感」が縮まらない―。そんな覚悟と決意が感じられる計画でもあると思うのです。

    昨年元日に発生した能登半島地震では、多くの女性自衛官が現地で活躍しました。避難所では、女性ならではの視点やアプローチで被災者に寄り添ったニーズに把握や必要な物資を届け、入浴を支援しました。

    日本なりにWPSの推進を掲げる中で、実行に移せなくては元も子もありません。自衛隊でいえば、多くの割合を占める男性自衛官や男性管理職にその任は託されているのではないかと思います。それは宿命ともいえるものです。

防衛日報でもWPS関係の話題は今後も積極的に取り上げていきたいと思います。