日本を元気にするために社会貢献を続ける企業などを紹介する、防衛日報の特集「支える」。
「人生100年時代」は、リタイア後も働く意欲を持ち続け、社会に貢献する中高年が元気な時代でもある。少子化の影響や人材不足などを背景に、ベテランの豊富な知識と経験が貴重な社会となってきた。
日本を元気にするために社会貢献を続ける企業などを紹介する、防衛日報の特集「支える」。
「人生100年時代」は、リタイア後も働く意欲を持ち続け、社会に貢献する中高年が元気な時代でもある。少子化の影響や人材不足などを背景に、ベテランの豊富な知識と経験が貴重な社会となってきた。
電気設備の保安管理を担う全電協(本社・東京都中央区)にも多くの元自衛官が在籍し、高齢社員がしっかりと働ける職場でもある。社会貢献を続ける企業などを紹介する特集「支える」。
昨年7月に続く全電協特集の第3弾は、66歳で入社した元自衛官の「オールドルーキー」の思い、80歳以上の現役社員で構成される「80(ハチマル)会」の存在に焦点を当て、高齢化社会を牽引けんいんする一つの姿を紹介する。
全電協には、かつて国防の最前線に立っていた元自衛官たちが「電気主任技術者」として電力の安全供給を支えている。自衛隊で培った判断力やチームワーク、責任感は民間でも高く評価され、350人の従業員のうち17人が元自衛官だ(うち1人は予備自衛官)。
昨年11月、66歳で入社したのが元航空自衛官の小田延秋のぶあきさん。「まだ入社4カ月のホヤホヤの新人です」と笑顔を見せながら、インタビューに答えてくれた。
自衛隊を退官したのは2013年(平成25)10月。55歳で空自を離れた後、10年以上にわたり自衛隊援護協会で退職自衛官の再就職支援に取り組んできた。
「組織で動く意識や命令に従う姿勢は、民間企業でも重宝されます」と語る。実際、電気業界のほか警備業務などでも元自衛官の活躍は目立っており「年齢を問わず、必要とされる場面が多い」と実感しているという。
「自衛官の定年は55歳(階級による)。年金が支給されるまでの〝空白の10年〟をどう乗り切るかが重要です」。退官後に国家資格である「第3種電気主任技術者」を取得。自衛官の就職援助にたずさわる中で全電協を知り、66歳で入社を果たした。
「ここは年齢に関係なく給与が保障される貴重な職場。年金受給者でも給与が抑えられない点に魅力を感じました」。現在は点検業務の見習いとして現場を回り、3年後には主任技術者として独り立ちを目指すという。
電気主任技術者の資格取得については「理系でも難しいと言われてきたが、今は年2回の試験実施に加え、過去の問題が試験に出題されており、暗記問題に強い文系出身者にもチャンスが広がっている」と話す。
実務経験5年が必要だった経済産業省の認定も、保安管理業務講習の受講により3年に短縮され、挑戦しやすい環境になってきたという。
「前職に固執せず、素直に学ぶ姿勢が何より大切」と語る小田さん。「郷に入っては郷に従え」が座右の銘で、新人としてゼロから知識を積み重ねる毎日を過ごしている。
また、66歳での再出発にあたり、健康管理も重要な要素と捉える。
「現役時代は腕立てや腹筋、3キロ走が日課でした。今はたまにやる程度ですが、63歳まで日常的に鍛えていた体力は、再就職のアドバンテージにもなっています」
全電協では定年制度がなく、80代で現場に立つ社員もいる。長く働き続けられる環境も同社を選んだ理由の一つだ。
援護業務を通じて多くの退職自衛官と関わってきた。再就職先を選ぶ際「給料の額だけで企業を決めないことが大切」と強調する。「変化に対する不安が大きいが、意外と順応できるもの。焦らず、自分に合った会社をじっくり選ぶことが、長く働く秘訣ひけつです」と語る。
「全電協は利益追求だけでなく、社会の公器としての社会的使命も大切にしている企業。理念に共感できたことも、入社の決め手になりました」
定年後も社会とのつながりを持ち続け、謙虚に学び直す姿勢を貫く小田さんの姿は、今後、第二の人生を歩もうとする多くの退職予定自衛官たちにとって、一つの道しるべとなるだろう。
やりがいや悩みを共有するユニークな「80会」
全電協には、66歳の新人、小田延秋さんにとって、頼れる「人生の先輩」たちの集まりがある。80歳以上の現役社員で構成される「80会」だ。
80会は2020年(令和2)に発足した。以来5年間、定期的に会合を開き、仕事のやりがいや悩みを共有しながら士気向上に努めてきた。
現在、在籍する会員は13人。80歳を超えてなお、現場で活躍を続ける社員もおり、社内では「レジェンド」と称されている。現在、在籍する会員は13人。会長を務めるのは金野勝英さん(82)だ。
オールドパワーに絶大の信頼を寄せる代表取締役の山口政雄氏はいう。「社員は80代になっても記憶力がしっかりしており、健康や家庭の事情で退職する例はあるが、認知症などが理由で引退した社員はいない」
年齢を重ねても現役を貫くことが、心身の健康維持にもつながっているのかもしれないという。
同社では高齢の技術者に対する感謝の意を込めた手当支給制度も導入している。これまでは80歳以上の社員を対象に、毎月の給与に加えて特別手当を支給してきたが、このほど制度を拡充。75歳以上の社員にも毎月、手当が支給されることになった。あわせて、80歳以上の手当も増額される。
背景には、「エイジフレンドリーな会社を目指す」との理念の下、高齢者が長く安心して働ける職場環境の整備を進める方針がある。さらに、「高齢者でも働くことができるという自信と誇りを育む」ことも目的とされている。
山口氏は、「この制度がさらにやる気につながれば」と期待を寄せる。高齢の社員に対する継続的な支援と評価は、モチベーションの維持・向上にも一役買っているのだ。
ベテランの知識と経験が求められる時代となり、高齢者からも熱い視線が注がれる全電協はトップの強い信念も加わり、社会に大きく貢献している。
電気設備の保安業務は、人々の安全に直結する重要な任務だが、重大な事故はゼロ。経験と責任感に裏打ちされた高齢技術者たちの活躍が、安全な社会インフラの一翼を支えている。
年齢を超えても誰もが活躍できる持続可能な社会へ
電気保安業務を担う全電協では、年齢に関係なく誰もが活躍できる環境づくりを進めており、持続可能な社会への貢献を目指している。
現在、電気技術者(電気主任技術者、電気工事士)を毎月2~4人程度採用しているが、それでもなお技術者の人材不足が続いている。
こうした背景を受け、全電協は人材確保の取り組みとして、以下の2点を重点目標に掲げている。
① 自衛隊OBの採用を年間60人まで増やす②高齢者が働きやすい環境を整備し、80歳以上の技術者を中心とした「80会」の会員増加を目指す
そこには、「人と電気の未来をつなぐ電気技術者」の募集でというこだわりがある。知識や技術に長(た)けているだけでなく、優れた人間性を備えていることを重視しているのだ。
また、電気主任技術者資格保有者や、電気工学を専門とする大学・専門学校・工業高校の卒業者も対象にしている。
技術職が採用の中心だが、事務職では必須条件を若干緩和することもあるという。
全電協では、今後も幅広い年齢層と背景を持つ人材が能力を発揮できる職場づくりと、社会インフラの安全を支える技術基盤の強化に努めていく方針だ。
■全電協■
平成元年10月に設立。主な業務は高圧電気を低圧に変換して照明器具などに電気を供給する「高圧受変電設備(キュービクル)」の保安管理業務や電気工事。従業員は1~3種電気主任技術者などの有資格者を含め、約350人を抱える。
同社は関東1都6県と静岡県、愛知県、大阪府に16の拠点を持ち、24時間体制で保安管理業務に携わっている。
特に東京電力管内は100%カバーできる自社ネットワークを生かし、緊急時にも即座に対応できる体制を整えている。
「人生100年時代」を照らす「スマート保安」の未来
全電協は、経済産業省が推奨するスマート保安の推進にも積極的に取り組んでいる。
すでにドローンによる太陽光パネルなどの点検を導入しており、効率性・安全性の面で優れ、減税対象施策としても活用。現在はスマート保安キュービクル向けの機器開発やDXを活用した保安システムの構築が進行中で、1年以内の実用化を目指している。
今後はAIやIoTを活用し、限られた人材資源の中でも高水準の保安体制を維持しつつ、次世代に向けた安全・安心な電力インフラの確立を目指すという。
全電協株式会社
〒103-0025
東京都中央区日本橋茅場町2-1-13
03-3808-2411
https://www.zendenkyo.co.jp/