人材確保の最前線から① 千葉地本が示す「変える勇気」|千葉地本

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令和6年度第1級賞状を受賞した千葉地本

防衛日報 2025年12月23日付


 令和7年も残すところ1週間余り。今年も防衛省・自衛隊は防衛力の抜本的強化へ向け、国内外で多くの施策や活動を展開し、日本の守りを支えてきた。その防衛力の土台となるのは「人的基盤」だ。定員に対する充足率は89.1%(令和7年3月31日現在、防衛省まとめ)。

 自衛官不足が続く中、国は今年、自衛官の待遇改善に大きく舵を取り、環境の整備をスタートさせた。一方で、募集から援護、予備自衛官の管理まで、地域社会との窓口となる地本もまた、さまざまな広報活動を展開し、アピールを続けた。

 企画「人材確保の最前線から―2つの地本の報告」では、独自の取り組みで成果を挙げている千葉、熊本両地本に焦点を当てる。ともに今年6月、令和6年度の「第1級賞状」を受賞。活動へのこだわり、隊員らの思いなどをまとめ、2回にわたって紹介する。1回目は千葉地本(本部長・西川1海佐)の取り組みから。

(防衛日報社取材班)


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需品学校(松戸市)の見学ツアーに参加者は興味津々

 

 千葉地本では、若年層だけでなく保護者や将来の志願層も視野に入れた多層的な広報を展開している。各駐屯地や基地での研修ツアーを実施したほか、イベントでは「落下傘装着体験」など体験型の企画を取り入れ、自衛隊を身近に感じてもらう工夫を続けている。

 こうした取り組みの中で、大学生と高校生の保護者がツアーをきっかけに、学生とともに予備自衛官補を志願した例もあった。地本は、体験を通じて親子双方に理解が広がった手応えがあったとしている。

 また、県内でも駐屯地や基地から離れた地域のイベントにも積極的に参加し、住民との接点拡大に取り組んでいる。


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高射学校(千葉市)の募集対象者ツアーでも多くの参加者が熱心に見学


 援護分野では、防災・危機管理分野において自衛官の知識や経験がどのように生かせるかを自治体に丁寧に説明し、理解を広げてきた。その結果、防災監への再就職率の推進につながった。

 また、隊員一人ひとりの希望に寄り添う姿勢も重視。「海沿いで暮らし、サーフィンを続けながら地域に貢献したい」と話した退職予定隊員については、希望条件に合う自治体を選定し、地本が調整を実施。結果として、海沿いの自治体で防災監としての再就職が実現した。

 隊員は「退職後も仕事と趣味を両立でき、充実した日々を送れています」と感謝の言葉を寄せているという。

 予備自衛官制度についても、「即応予備自衛官だより」や「予備自衛官新聞」など、より専門的に、テーマを絞って分かりやすい内容にした新聞を発行。制度の理解を促すことで、充足実績は前年度(5年)を上回った。

 異色の取り組みもある。プロ野球・千葉ロッテマリーンズの協力を得て実施した音楽隊演奏会は、地域理解を広げる象徴的な取り組みとなった。君津市主催の演奏会では、音楽隊が地元チームの応援歌「WE LOVE MARINES」を披露し、来場者に自衛隊の活動を身近に感じてもらう機会となった。

 SNSによる情報発信にも力を入れている。県内の部隊と連携し、行事や地域活動の様子を継続的に紹介することで、「自衛隊は地域の日常にある存在」として理解してもらう取り組みを進めているのだ。


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第1級賞状の授与式


    千葉地本は、職員同士が率直に意見を交わし、改善提案を重ねる風土を育んできた。厳しい採用環境が続くが、それでも「下げ止まりの光も一部、見えてきている」との手応えもあるという。

 地域・学校・企業と歩みをともにし、自衛官の使命や「やりがい」を共有する姿勢は、変化の大きい時代に対応した地本の在り方を示している。

 チームワークを軸に、改善と挑戦を積み重ねる取り組みが、地域と自衛隊を結ぶ力として定着しつつある。


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自衛隊千葉地方協力本部

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<編集部より>

防衛日報は本日(12月23日付1面)から2回の連載を組みました。タイトルは「人材確保の最前線から―2つの地本の報告」。独自の取り組みなどで成果を挙げている千葉、熊本両地本の情報を基に一つの大きな具体例として紹介し、全国の地本にも参考となればという思いからです。2つの地本はともに令和6年度の「第1級賞状」を受賞していました。

自衛官をめぐる仕組みは「入り口(募集)」と「出口(援護)」。その任務こそ、地本が展開する広報活動です。2つは密接に関係するものです。現状はどうでしょうか。必要な数(定員)に対する自衛官の現員は89。1%(令和7年3月31日現在)。深刻な状況なのです。

これから社会で働こうとする人は、その職場の「今」はもちろんのこと、「将来」に向けての成長性も考えるのは当然です。自衛隊に置き換えてみれば、入ったはいいものの、最後まで勤めても50代半ばで多くの自衛官は退職します。その先への不安は募ります。一般社会では定年が65歳となりつつあり、70歳まで現役で働ける企業も出てきました。要因はさまざまですが、民間との人材確保に向けた争いは喫緊の課題となっているのです。

本日の千葉地本の特徴は、若年層にとどまらず保護者や将来の志願者も視野に入れた多層的な広報が目に止まりました。駐屯地などの見学ツアーに、ある時は体験型のイベントに…と親にも参加を求めることで、親子双方が実情を把握し、相談し合うことで理解を広げてもらいました。

また、退職自衛官の希望(海沿いでサーフィンができるところ)に寄り添い、周辺自治体への再就職を実現させるなど、一人ひとりに徹底的に寄り添いながら、やりがいを丁寧に伝え、退職後のサポートも前例にとらわれず、「変える勇気」を持ち続けたことが大きな成果と信頼につながったということです。柔軟な考え方にほかならないのです。

自衛隊をめぐるイメージといえば、以前なら「きつい」「転勤が多い」「休みが少ない」などがあったかと思いますが、運用・統制面では当たり前であるはずの「上意下達」に係る環境や、近年ではハラスメントなども加味され、募集世代となる現代っ子やその親世代から敬遠されてしまう―。そんな空気感も感じます。中には、ウクライナ戦争などをきっかけに「戦争に行きたくない」「行かせたくない」などと思う人もいることでしょう。

遅ればせながら、今、自衛隊をめぐる国としての考えが大きく変わろうとしているのです。昨年12月20日、石破茂首相(当時)が座長となって構成された自衛官の処遇と生涯設計を考える関係閣僚会議がまとめた基本方針では、「『厳しい環境に耐え続けることが当たり前』とされる組織文化では、人材確保はおぼつかない」と明確に指摘し、処遇や生活環境、やりがい、働きやすさを改善するよう求めました。

自衛隊の任務の特殊性はあります。規律や意識の高さなど絶対に必要なことも多くあります。そこは曲げてはいけません。すぐに改善できるわけでもありません。しかし、環境の整備はやりました。あとは少しずつ、できるところからです。若者たちに迎合するのではなく、コミュニケーションを取りながら理解することこそ現場の役割だと思います。