8月1日付人事に伴う自衛隊の統合幕僚長、陸上幕僚長、航空幕僚長の離着任行事が同日、防衛省内で実施された。
制服組トップに就任した内倉浩昭統幕長は着任式で、「複合的な脅威に直面し、統合運用の重要性が一層高まっている」とし、体制の最適化と実効性の向上を目指すことを表明。
また、荒井正芳陸幕長は「積極進取と信頼強化を」、森田雄博空幕長は「変化に適応し、進化し続けることが不可欠」とそれぞれの決意を力強く語った。
新体制では統合運用の強化や即応力の向上、組織の進化を掲げ、防衛力の実効性向上に取り組む姿勢を3氏ともに鮮明にした。
新たなリーダーの下、自衛隊は厳しさを増す安全保障環境に、真正面から立ち向かう覚悟を新たにした。
第8代統幕長となった前空幕長の内倉空将は就任にあたり、「統合運用体制の最適化と実効性の向上」を目標に掲げ、統合幕僚監部、統合作戦司令部をその中核と位置づけた。
その実現に向けて、内倉氏は
①統合(Integration)
②相互運用性(Inter-operability)
③連結性(Inter-connecyivity)
④強度(Intensity)
⑤変革(Innovation)
の「5つのI」を指針の5本柱に掲げた。
①は統合防空ミサイル防衛に象徴されるような、高度な統合作戦能力の強化が急務、
②は日米同盟の枠組みを軸に、連携の深化を通じて抑止力・対処力を高める必要性を示した。
また、③は欧州やインド太平洋の安保環境が相互に影響し合う現実を踏まえ、国際的パートナーシップの強化を要請。
④では、質の高い訓練と即応態勢の強化を通じて、部隊の実戦的能力の向上を図ること、
⑤では、AIや無人機といった先端技術を活用し、柔軟かつ効率的な防衛体制を構築するとした。
「5つの『I』を胸に、率先して行動する」と述べ、部隊に対しては「統幕の一人ひとりが国家全体を見通す戦略的な視座を持ち、全身全霊で任務に臨んでほしい」と呼びかけた。
内倉氏は統幕長への就任に先立ち、同日午前、空幕長としての離任式に臨んだ。今年5月には、愛知県で発生したT4練習機の墜落事故の際、速やかな初動対応と誠実な記者会見を実施。現場感覚に根ざした指揮ぶりは、隊内外から「的確で信頼感のあるリーダーシップ」と高く評価された。
今後は、進化する統合作戦体制の中核として、日米連携や多国間協力の強化を担う役割が期待されている。
第40代陸幕長の荒井陸将は着任の辞で、「身に余る光栄。全身全霊で臨む」と決意を述べた=写真。
その上で、国際情勢については、「力による一方的な現状変更、国際秩序への深刻な挑戦が進み、世界は新たな危機の時代に突入している」と指摘。米中対立の激化やロシアのウクライナ侵略など、日本周辺にも危機が及んでいるとの認識を示した。
また、南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模災害にも言及し、「全隊員が危機感を改めて認識しなければならない」と強調。「強靱(きょうじん)な 陸自の創造」を継承し、あらゆる事態に即応し、任務を完遂し得る、「戦いに勝てる陸自」を目指すと語った。
その実現に向け、「積極進取」と「信頼強化」の2点を部隊に提示。「事態の進展は速く、複雑化する。各隊員が主体性と意欲をもって物事に臨む姿勢が求められる」「任務は人と人との関係で成り立つ。隊員同士はもちろん、海空自や米軍、国民・地域との信頼強化が不可欠」と訴えた。
荒井氏は西部方面総監として南西諸島への部隊展開や装備配備に尽力した。
第38代空幕長には森田空将が就任=写真。着任の辞では、「わが国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」と述べ、情勢の変化に適応するためには「空自自らが進化し、統合運用に資する精強な存在であり続けることが肝要」と強調した。
また、空自が新たに掲げた組織理念「コア・バリュー」にも言及。
①誠実(Integrity)
②即応(Readiness)
③挑戦(Challenge)
の3本柱を掲げ、任務への真摯しんしな姿勢、即応力、先進分野への挑戦が不可欠と訴えた。
森田氏は「全隊員が価値観を深く理解し、自らの足元を固め、さらなる高みを目指して進化に挑んでほしい」と呼びかけ、「私自身もその先頭に立つ」と決意を述べた。
統合幕僚監部では補給処長も務めるなど、装備調達や運用にも精通する森田氏は、戦略眼と現場経験を併せ持つ指揮官として、空自を統合運用時代の中核へ導くことが期待されている。