過去最大8兆8454億円前年度比1.7%増|防衛省

8年度予算案・概算要求(防衛省分)

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防衛日報 2025年9月11、12日付


 防衛省は8月29日、令和8年度予算案の概算要求を発表した。要求額は過去最大の8兆8454億円(SACOS=米軍再編経費など=を除く)を計上し、前年度当初比約1.7%増となった。「防衛力整備計画」の4年目となり、無人機を活用した監視や偵察能力の向上に向けた調達規模を大量に増やすほか、空や海上、海中から多層的に沿岸を防衛する無人アセットによる「多層的沿岸防衛体制(SHIELD)」の構築を進める。「スタンド・オフ防衛能力」の強化には過去最大額を配分。現有装備・施設の効率的活用、自衛官の処遇改善や勤務環境の充実など、人的・物的両面での施策も併せて進め、防衛力のさらなる強化を明確に打ち出す狙いだ(写真、図、グラフなどは発表資料から)。


無人アセットで多層的沿岸防衛「SHIELD」構築

宇宙1768億円、サイバーに2493億円「領域横断作戦」を進展


令和8年度予算案・概算要求の主なポイント


〇総額は過去最大の8.8兆円

〇無人機を使った多層的沿岸防衛体制「SHIELD」を構築

〇国産スタンド・オフ・ミサイルの量産・配備急進

〇空自に「宇宙作戦集団」新設

〇処遇・勤務環境改善でさらなる人的基盤を強化

〇GCAP(次世代戦闘機)開発に2066億円


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○無人機の活用を促進○


 概算要求では、ドローンなど「無人アセット防衛能力」関連に前年度の1110億円の約3倍に相当する3125億円を計上した。

 ウクライナ戦争などにおける無人機の戦術的有用性を踏まえ、安価なUAV(無人飛行機)、USV(無人水上艇)、UVU(無人水中艇)を組み合わせた多層的沿岸防衛体制「SHIELD」の構築が急務とされ、この整備に1287億円を要求。

 さらに、無人アセットを統合的に指揮・管制するシステム実証に23億円を投じる計画のほか、陸海空自衛隊で10種以上の無人機を大量に取得し、9年度中の運用開始を目指す。


○「スタンド・オフ」を強化○


 敵の射程圏外から打撃可能な「スタンド・オフ防衛能力」には過去最大の1兆246億円を計上。地上発射型「12式地対艦誘導弾能力向上型」の取得に1798億円が充てられ、前倒しで今年度より配備される予定だ。


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 また、「島嶼(しょ)防衛用高速滑空弾」取得には392億円を投じ、すでに8月に最終発射試験を終え、配備も決定済みだ。


加えて、音速の5倍を超え、迎撃困難とされる「極超音速誘導弾」の量産に向けても新たに305億円を要求。抑止体制の強化を図る。


○領域横断作戦の底上げ○


 宇宙・サイバー・電磁波という新たな領域を統合し、立体的な守りと優勢確保の構造を構築する「領域横断作戦」進展のため、宇宙関連に1768億円を配分。次期Xバンド通信衛星(きらめき)運用に903億円、衛星妨害状況把握装置の整備にも12億円を投入予定だ。

 また、8年度から空自は航空宇宙自衛隊(仮称)へと改編され、空将指揮官の宇宙領域専門部隊「宇宙作戦集団」の新編や、新部隊設立の準備も進む。サイバー領域には2493億円を要求。外部人材の確保にも0.5億円を充て、巧妙化するサイバー攻撃に備えた態勢強化も視野に入れる。

 一方で従来の陸海空領域にも1兆39億円を要求。新型哨戒艦建造やF35戦闘機の取得、AI搭載の多目的誘導弾システム(改)の取得に248億円を投じるなど、既存部隊の能力強化・近代化も同時進行で進める構えだ


○統合的な防衛体制へ○


 統合防空ミサイル防衛能力強化に5174億円を計上。探知・追尾能力や迎撃体制の充実を図るともに、センサーと迎撃機能のネットワーク化によって、統合的な防衛体制の早期実現を目指している。

 まず、イージス・システム搭載艦の整備に802億円を充て、離島や外洋での防衛力中核を強化する狙いだ。ペトリオット・システム改修には79億円を割り当て、戦力底上げにも取り組む。

 さらに、センサー・ネットワーク機能強化の一環として、次世代JADGE(仮称)警戒管制システムの整備に565億円を投入し、リアルタイムな情報共有と即応体制の強化も進めている。


○防衛施設の強靭化○


 防衛施設の耐久性にも重点が置かれ、既存施設の改修に5365億円、司令部の地下化に364億円、部隊再編に伴う施設整備には4107億円を充当。有事や自然災害にも耐える防衛基盤の早期整備を進めていく構え。


○先端技術の取り込み○


 研究・技術関連の予算には7790億円を計上。防衛イノベーションや画期的装備創出を狙う「ブレークスルー研究」(293億円)、「先進技術の橋渡し研究」(150億円)などを盛り込み、民間発の先端技術を防衛に積極的に取り込もうとする動きがみられる。 

 また、令和2年度より日英伊3カ国共同で開発している次期戦闘機(GCAP)には2066億円が計上され、機体やエンジン設計、性能試験を含む共同開発体制で大きな役割を果たすとみられる。AI活用の強化にも重点が置かれ、海自通信基盤へのAI導入に23億円、無人機のAIによる自律判断の研究にも49億円が投入される見込み。


○人的基盤への投資○


 引き続き厳しさを増す自衛官募集状況を踏まえ、人材の確保と処遇の改善には7658億円を計上した。

 宿舎の老朽化対策に1050億円、隊舎・庁舎などの整備に6061億円を配分し、生活・勤務環境の充実につながる施設整備に7527億円を投じる。臨時託児(シッターサービス)の運用に2億円を確保するなど、子育てと職務の両立を支援するといったソフト面でのサポートにも資金を充当。ハード・ソフト両面で支援体制を整備していく構えだ。

 中谷元防衛大臣は8年度における全分野への投資は、15区分に分けて進捗をしんちょく 厳密に管理するとしている。今回の概算要求は、物価高騰や円安など厳しい財政環境の下でも、経費の精査を徹底し、装備品の効率的取得を一層推進する姿勢が打ち出されている。


「スタンド・オフ」長射程化を前倒し

艦・空発型・島嶼防衛用も一部配備


 防衛省は侵攻勢力を遠距離から迅速に排除できる国産スタンド・オフ・ミサイルの整備計画を前倒しで進める。対象となる「12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型)」の配備は当初の令和8年度予定から7年度からの前倒しが確定し、開発も順調に進んでいる。

 29日に発表された8年度予算の概算要求では、反撃能力の柱となる「スタンド・オフ防衛能力」の強化として、過去最大となる1兆246億円、「12式地対艦誘導弾能力向上型」(地発型)の取得にも1798億円を計上した。

 前倒しで決定した配備拠点としては、地発型は健軍駐(熊本県)の5地対艦ミサイル連隊へ7年度より配備。9年度には富士駐(静岡県)の特科教導隊へも追加配備される見通しだ。

 艦発型と空発型については、ともに9年度に艦発型が護衛艦「てるづき」へ、空発型は百里基地(茨城県)のF2に搭載される見込み。「島嶼防衛用高速滑空弾」も7年度内に富士駐の特科教導隊、8年度に上富良野駐(北海道)とえびの駐(宮崎県)に配備を進める方針だ。

 中谷大臣は9月2日の閣議後会見で、「国産スタンド・オフ・ミサイルは前倒しで9年度までの配備先が決定した。この開発と配備の進捗を示したことは、相手の攻撃への抑止力を高めるもので、わが国に対する武力行為の可能性を低下させる」と強調した。


令和8年度予算案・概算要求

基本的な考え方


 ○「防衛力整備計画」の4年度目となる令和8年度の概算要求にあたっては、「防衛力整備計画対象経費については、『防衛力整備計画』を踏まえ、所要の額を要求」する、という概算要求基準に基づき、防衛力整備計画期間内の防衛力の抜本的強化を実現するため、令和8年度中に着手すべき事業を積み上げるとともに、計画期間におけるこれまでの事業の進捗(しんちょく)状況や予算の執行状況も踏まえ、歳出予算の要求額を着実に増額。

 ○「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」に基づき、防衛力の抜本的強化にあたって重視する7つの分野について、重点的に推進。

 例えば、無人アセット防衛能力として、無人アセットによる多層的沿岸防衛体制「SHIELD」の構築を進めるとともに、スタンド・オフ防衛能力、統合防空ミサイル防衛能力、領域横断作戦能力などの将来の防衛力の中核となる分野において抜本的強化を引き続き実施。

 現有装備品の最大限の活用のための可動数向上や弾薬確保、防衛施設の強靱(きょうじん)化への投資を引き続き重視。

 ○また、令和7年度に引き続き、自衛官の現下の厳しい募集状況に鑑(かんが)み、「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」に基づき、人的基盤の強化に係る施策に迅速に取り組み、自衛官であること、また、自衛官であったことの誇りと名誉を得ることができるような、令和の時代に相応(ふさわ)しい処遇の確立を推進。

 さらに、いわば防衛力そのものである防衛生産・技術基盤の維持・強化のため、防衛生産基盤強化法に基づく措置を含めた各種の事業を着実に実施するとともに、研究開発や民生の先端技術の積極的活用に向けた取り組みを推進。

 ○15区分の配分額の中できめ細やかに進捗状況を管理。足下の物価高・円安の中、引き続き、経費の精査と装備品の効率的な取得を一層推進。


■防衛力整備計画の進捗状況(一例、令和7年1月以降)■

(防衛省発表資料から)

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令和8年度予算案・概算要求の主な内容(防衛省発表資料=要約版=から、写真も)


■重要ポイント

 

 (1)無人アセット防衛能力=無人アセットによる多層的沿岸防衛体制(SHIELD)の構築(1287億円)

 ・SHIELD構築のために取得する無人アセット=(1)モジュール型UAVの取得(陸自)(2)小型攻撃用UAVⅠ型の取得(同)(3)小型攻撃用UAVⅡ型の取得(同)(4)小型攻撃用UAVⅢ型の取得(同)(5)水上艦発型UAVの取得(海自)(6)艦載型UAV(小型)の取得(同)(7)艦艇攻撃用UAVの取得(空自)(8)レーダーサイト防衛用UAVの取得(同)(9)小型多用途USVの取得(陸自・海自)(10)小型多用途UUVの取得(陸自)


 (2)スタンド・オフ防衛能力

 【各種スタンド・オフ・ミサイルの整備】

 ・引き続き、射程や速度、飛翔(しょう)の態様、対処目標、発射プラットフォームといった点で特徴が異なるさまざまな国産のスタンド・オフ・ミサイルの研究開発・量産を実施


 (3)領域横断作戦能力(陸領域)

 【15師団(仮称)への改編】

 ・南西地域における防衛体制を強化するため、1個普通科連隊などを新編し、15旅団を師団に改編

 (4)領域横断作戦能力(宇宙領域)

 【航空宇宙自衛隊(仮称)への改編など】=航空自衛隊における令和8年度の宇宙領域に係る主な取り組み

 ・宇宙作戦集団(仮称)の新編/SDA衛星の打ち上げ/SDA能力の強化により「指揮統制・情報通信などを妨げる能力」の本格的な運用が可能に


 【次期防衛通信衛星などの整備】(903億円)

 ・現在運用中のXバンド防衛通信衛星(きらめき)の後継機として、通信能力などが向上された次期通信衛星を整備/令和8年度は、「きらめき1号」後継機の製造に着手するとともに、同7年度から製造を開始する「きらめき2号」後継機の打ち上げに向けて地上器材などを整備


 (5)機動展開能力・国民保護

 【民間海上輸送力の活用】(2隻・113億円)

 ・南西地域の島嶼しょ部へ部隊などを輸送する海上輸送力を補完するため、主として補給品など(コンテナ)の輸送に特化したPFI船舶を確保


 (6)防衛生産・技術基盤

 【次期戦闘機の開発】(2066億円)

 ・令和2年度から開始した次期戦闘機の開発は、日英伊3カ国共同で設立したGIGOを通じた開発に移行する計画/令和7年度より、日英伊が3カ国それぞれで実施していた機体およびエンジンの設計などの作業をGIGOの下に一元化し、3カ国で緊密に連携して実施/次期戦闘機の開発と並行して、次期戦闘機と連携する無人機の構想設計を実施


 (7)人的基盤の抜本的強化に関する取り組み

 ◇自衛官の処遇・勤務環境の改善および新たな生涯設計の確立=(1)自衛官の処遇改善(61億円)(2)生活・勤務環境の改善(7527億円)(3)新たな生涯設計の確立(24億円)(4)その他(45億円)


■主な事業(※は新規)


(1)スタンド・オフ防衛能力(約1兆246億円)

 【国産スタンド・オフ・ミサイル関連】

 ・12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型)および地上装置などの取得(1798億円)/12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)の取得(362億円)/潜水艦発射型誘導弾の取得(162億円)/島嶼防衛用高速滑空弾および地上装置などの取得(392億円)/極超音速誘導弾および地上装置などの取得(305億円)※=極超音速(音速の5倍以上)の速度域で飛行することにより、迎撃を困難にする誘導弾を取得

 【外国製スタンド・オフ・ミサイル関連】

 ・JSM(64億円)、JASSM(17億円)の取得/トマホーク発射機能の艦艇への付加(12億円)


 (2)統合防空ミサイル防衛能力(約5174億円)

 【迎撃アセットの強化】

 ・ペトリオット・システムの改修(79億円)=弾道ミサイルなどへの対処能力を向上させるための改修を開始/03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上型への改修(51億円)

 【センサー・ネットワークなどの強化】=警戒管制能力の強化

 ・FPSー5(19億円)およびFPSー7(4億円)の能力向上/次世代JADGE(仮称)の整備(565億円)


 (3)無人アセット防衛能力(約3128億円)

 ・UAV(広域用)の取得(5式・111億円=水上艦艇などを遠距離から早期に探知し、指揮官の状況判断および火力発揮に必要な情報を収集可能なUAVを取得/水際障害探知UAVの取得(6式・7億円)=海底地形を含む水際部の障害情報を迅速に収集し、水陸両用作戦に寄与可能な水際障害探知UAVを取得/目標情報収集用無人機の取得など(20億円)=4機の目標情報収集用無人機を改修・取得するとともに、機体の整備作業、修理作業、機体の輸送および教育訓練などを包括的サービスとして取得


 (4)領域横断作戦能力

 【宇宙領域における能力強化】(約1768億円)

 ・多国間の衛星通信帯域共有枠組み(PATS)対応器材などの整備(88億円)/衛星妨害状況把握装置の整備(12億円=わが国の人工衛星に対する電磁妨害状況を把握する装置を取得

 【サイバー領域における能力強化】(約2493億円)

 ・サイバー防衛体制の強化=防衛省・自衛隊のサイバー業務を支える外部人材の確保(0.5億円)=国防に関与し、防衛省・自衛隊のサイバー業務を支える意思・能力のある省外のサイバー人材による、防衛省・自衛隊のサイバー業務への支援の確保

 【電磁波領域における能力強化】

 ・小型無人機などへの対処=高出力レーザーや高出力マイクロ波といった指向性エネルギー技術の研究などを推進

 ・ミサイル対処用レーザーシステムの研究(10億円)=低コストでミサイルに対処するため、高効率なビーム集光技術や高度なターゲット追尾技術を備え、ドローンなど対処用レーザーシステムの10倍以上の出力を可能とするメガワット級レーザーシステムを実現するために必要な技術の研究

 【陸海空領域における能力】(約1兆39億円)

 ・多目的誘導弾システム(改)および地上装置などの取得(11式・248億円)=96式多目的誘導弾システムなどの後継として、敵の着上陸侵攻などに対処/新型FFMの建造(1隻・1048億円)/潜水艦の建造(1隻・1199億円)/戦闘機(F35A)の取得(8機・1525億円)など


 (5)指揮統制・情報関連機能(約5399億円)

 ・新たな防衛情報通信基盤(仮称)の整備に向けた実証検証(10億円)=防衛省次世代情報通信戦略に示した新たな防衛情報通信基盤(仮称)の整備に向け、各種技術の調査・実証検証を実施/防衛省クラウド基盤などの整備(718億円)=統一的なセキュリティを確保しつつ、情報共有機能を強化し、各自衛隊の一元的な指揮統制を可能とする防衛省クラウドを整備/陸自AI基盤の整備(25億円)=より迅速かつ的確な情報・統制のため、陸自クローズ系クラウドにAIを活用するための基盤を整備


 (6)機動展開能力・国民保護(約1974億円)

 ・空中給油・輸送機(KC64A)の取得(2機・912億円)=南西地域などの広大な空域において戦闘機などが粘り強く戦闘を継続するために必要な空中給油・輸送機を取得/多用途ヘリコプター(UH2)の取得(8機・372億円)=UH1Jの後継として、空中機動、航空輸送などの航空輸送能力が強化された多用途ヘリコプターを取得


 (7)持続性・強靭性(きょうじん) 

 【弾薬の確保】(約949億円)

 ・各種弾薬・誘導弾の整備=155ミリりゅう弾砲用弾薬、23式艦対空誘導弾、23式空対艦誘導弾、中距離空対空ミサイル(AIM120)、中距離空対空ミサイル(AAM4B)など/AIM120国内基盤の整備(3億円)=AIM120の国内製造基盤整備に係る基本検討に着手

 【装備品などの維持整備】(約2兆147億円)

 ・三次元積層造形技術(3Dプリンタ)の活用に関する調査など(3億円)=装備品の可動数向上や安定的かつ計画的な取得を行うために必要となる品質の検証などを含む、3Dプリンタの活用に関する調査などを実施

 【施設の強靭化】(約1兆738億円)

 ・既存施設の更新(5365億円)、主要司令部などの地下化など(364億円)/火薬庫の整備(692億円)/陸自後方支援学校(仮称)の施設整備(51億円)/北大東島への移動式警戒管制レーダーなどの受け入れ施設整備(144億円)/ドローン対処器材の導入(102億円)=基地警備能力を高めるべく、違法ドローンの探知・識別・対処を可能とする、より能力の高いドローン対処器材を整備


 (8)防衛生産基盤の強化(約1010億円)

 ・防衛装備品の生産基盤強化のための体制整備事業(338億円)/防衛装備移転円滑化のための基金に充てる補助金(400億円)など


 (9)研究開発(約7790億円

 【防衛イノベーションや画期的な装備品などを生み出す機能の抜本的強化】

 ・安全保障技術研究推進制度(137億円)/ブレークスルー研究(293億円)など

 【スタンド・オフ防衛能力】

 ・新地対艦・地対地精密誘導弾の開発(418億円)/極超音速誘導弾の開発(742億円)

 【HGV(極超音速滑空体)など対処能力(統合防空ミサイル防衛能力)】

 ・GPI(滑空段階迎撃用誘導弾)の日米共同開発(556億円)=極超音速滑空兵器に対し、滑空段階において対処するための誘導弾の日米共同開発を継続

 【ドローン、スウォーム攻撃など対処能力(統合防空ミサイル防衛能力)】

 ・高出力マイクロ波(HPM)に関する研究(14億円)

 【無人アセット防衛能力】

 ・UAV連携型AI駆動オフロードUGVの研究(45億円)=UAVエッジAIを搭載することにより、広大かつ悪路の多い戦場で、物資輸送、偵察、攻撃支援などを自律的に行うUGVを研究

 【次期戦闘機】

 ・次期戦闘機の開発(2066億円)/次期戦闘機と連携する無人機の研究開発(49億円)※=Aを活用し、自律的な状況認知や飛行をはじめとする行動判断を可能とする連携無人機の構想設計を実施

 【その他抑止力の強化】

 ・MIRAGEコンセプト(2億円)=対艦ミサイルの攻撃効果を劇的に向上させるため、エッジAIを用いて飛行経路を生成するなど、複数の誘導弾などを効果的に制御する「最適制御ミサイルシステム(MIRAGE)」のコンセプトの有効性および実現可能性を検証/PLASMAGICの研究(2億円)=EMP弾頭の出力を、理論上、従来技術の数十倍以上に向上させる可能性が見込まれるEMP弾用電源(爆縮式プラズマジェネレータ=PLASMAGIC)の仮作やデータ取得を実施


 (10)AI活用の推進に係る施策

 【AI活用の推進】

 ・海自通信基盤へのAI導入(23億円)=海自の基幹システムに対してAIを活用するための基盤を整備/UAV連携型AI駆動オフロードUGVの研究(45億円)/AI活用による教育支援機能の強化(1億円)/次期戦闘機と連携する無人機の研究開発(49億円)


 (11)人的基盤の強化

 【優秀な人材確保のための取り組み】

 ・地本の体制強化(26億円)/優秀な人材を早期に確保するため、自衛隊奨学生の採用枠を拡大(1億円)/北海道の道北・道東の一部で勤務する陸自の隊員の処遇改善/艦艇乗組員の処遇改善/陸海空自衛隊の主要司令部の隊員の処遇改善/現場部隊の電気主任技術者、警務隊の警務官などの専門的知識・技能を有する隊員の処遇改善/訓練・演習に関わる隊員や装備品などの整備員のうち特殊な勤務に従事する隊員の処遇改善/防大、防医大の学生、高等工科学校の生徒の処遇改善

 【新たな生涯設計の確立】

 ・再就職に向けた職業訓練機会の一層の充実(9億円)/65歳に至るまでの再就職支援に向けた体制の整備(12億円)/若年定年退職者給付金の給付水準の引き上げなどの制度の見直し

 【教育・研究体制の充実】

 ・高等工科学校の各自衛隊の共同化・男女共学化に必要な施設整備(236億円)

 【女性活躍、働き方改革および生活・勤務環境改善の推進など】

 ・女性隊員が多く勤務する駐屯地・基地などの女性トイレに非接触型サニタリーボックスを設置(0.5億円)/臨時託児(シッターサービスの活用)の運用(2億円)/停泊艦艇業務の一部部外委託(0.9億円)


 (12)衛生機能の強化

 【DCS能力の強化】=戦傷者に対するダメージコントロール手術や術後管理態勢を強化するための資器材などの整備/艦艇搭載医療ガス設備の改修(3億円)


 (13)女性・平和・安全保障(WPS)の推進(略)


□主な組織編成


 (1)防衛副大臣を1人増員(2)15旅団の15師団(仮称)への改編(3)航空宇宙自衛隊(仮称)への改編(4)宇宙作戦集団(仮称)の新編(5)監督検査体制の見直し(海自)=潜水艦修理契約に関する特別防衛監察の最終報告を踏まえ、調達要求と監督検査を担う部門を分離し、確実な牽制(けんせい)・チェック機能を強化(6)整備計画局に「太平洋防衛構想室(仮称)」の新設=太平洋防衛にかかる自衛隊の必要な体制について専属的・横断的な検討を実施する



<編集部より>


手元に株式会社第一生命経済研究所の記事があります。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)がこのほど、公表した2024年の「世界の軍事費」を基に分析した資料です。

前年比は実質9.4%の増加、金額は名目で2兆7182ドル。国別では米国が圧倒的トップで36.7%。これに中国、ロシアが続き、米中露3カ国で全体の53.7%。ちなみに日本は10位でした。数字については論評する立場になく、知識も到底及ばないですが、一つ言えることは各国が安全保障への備えを強化し続けているという現実です。

ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢などを見るまでもなく、各地で地政学的な緊張が高まっており、その対応が「軍備増強」という形につながっているといえるでしょう。

こうした世界の安全保障環境の中、日本はどうあるべきなのか―。このほど、「防衛力整備計画」の4年度目となる令和8年度予算案に向けた防衛省の概算要求が発表されました。防衛日報では9月11日付1面に全体的な内容、同2面に関連記事、さらに本日(12日付2面)は主な要求の内容を具体的に1ページで特集するなど、大きく展開しました。

今回の概算要求には防衛省の強い意志、ヒントがありました。総額は過去最大の8兆8454億円。前年度当初予算と比べて1.7%の増加です。特徴は大きく言えば2つあります。1つは昨今、空を自由に飛び回ることができ、いつのまにか世界的な脅威となってきたドローンなどの無人機への対策です。

詳細はデジタル版でご覧いただきたいと思いますが、ウクライナ戦争を見るまでもなく、無人機の戦術的な有用性は立証されていると言っても過言ではありません。この防衛のための調達に前年度の3倍の3128億円を計上しています。

特筆すべきは、飛行機や水上艇、水中艇をリンクさせた多層的沿岸防衛「SHIELD」の構築にほかなりません。実に厄介な無人機を空から、水上から、そして水中から…と「連絡網」を強化した上で監視をし、偵察するものです。以前なら「そこまで、やるか」だったかもしれませんが、今では「そこまでやらないと、大変なことになりかねない」の時代。防衛省が今回の要求の最も大きな柱として考えたのが、「SHIELD」なのかと思います。

2つ目は、過去最大の1兆246億円を計上した「スタンド・オフ・防衛能力」です。防衛省が計画を前倒ししてまでも進める背景には、「専守防衛」との兼ね合い。周辺諸国をめぐる環境を背景に、「反撃能力」のためには、侵攻勢力を遠距離から迅速に排除できるミサイルの長射程化が必要不可欠であり、その対策に力点を置いた要求内容となっていました。

今、日本は戦後最悪の厳しい安全保障環境の真っただ中にあります。海洋進出を強める中国、相変わらずミサイルを撃ち続ける北朝鮮、ロシアは日本列島の上空や周辺海域で活発な活動を続けています。

個人的には防衛費はまったく足りません。「防衛力の抜本的強化」は当たり前のフレーズとなってきたとはいえ、そこは限られた日本の全体予算。日本を護(まも)るためには、実際に動く自衛官らの人的基盤の強化もまた、最重要課題です。いかに防衛費を捻(ねん)出できるのか―。改めて。与えられた責務のため、防衛省の要求は可能な限りの「必要経費」としてはじき出したな内容が織り込まれているのだと思います。