自衛隊初の統合輸送部隊「海上輸送群」発足 南西諸島防衛強化へ|海上輸送群

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自衛隊「海上輸送群」の発足式典で、中谷防衛大臣から隊旗を授与される群司令の馬場1陸佐(防衛省提供)


 中国の海洋進出が続く中、喫緊の課題となっている南西地域への機動展開能力の強化として、離島などに部隊や人員、装備などを迅速に運ぶための海上輸送を専門とする自衛隊「海上輸送群」の発足式典が4月6日、司令部を置く広島県呉市の海上自衛隊呉地区で行われた。


 艦艇を運用する陸海空共同の部隊は、自衛隊発足以来初めてで、3月24日付で立ち上げた。式典で中谷元防衛大臣は、「陸自と海自が力を合わせて海上輸送にあたる部隊の新編は、歴史的に極めて重要な一歩。新しい時代の統合運用の象徴となる」などと述べた。


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編成された新たな部隊を激励する中谷氏(防衛省提供)


 海上輸送群は、緊張が高まる「台湾有事」を念頭に、南西諸島の離島への輸送力増強や部隊の展開力を高めることなどが狙い。

 防衛大臣直轄の共同部隊として、統合作戦司令部の設置と同じ3月24日、陸自隊員を中心とした約100人態勢で発足した。陸自の部隊や装備品を輸送するケースが多く想定されるためだが、艦艇を運航できる隊員の養成が必要となる。このため、令和元年から陸自隊員を海自の術科学校に派遣し、知識や技術を習得した人材を育成していた。

 部隊の編成は、司令部、1海上輸送隊、2海上輸送隊など。防衛省によると、この日の発足式典では、中谷氏から海上輸送群司令の馬場1陸佐へ隊旗が、小型輸送艦「にほんばれ」艦長へ自衛艦旗が授与された。その後、中谷氏は、所在部隊を視察し、隊員を激励した。


 陸自などによると、すでに配備済みの「にほんばれ」に2輸送隊が、また、5月に就役する中型輸送艦「ようこう」に1輸送隊の各隊員らが乗り込む予定だ。また、実際の任務では、統合作戦司令官の指揮の下、全自衛隊の輸送の任務にあたることになる。

 離島周辺は水深が浅く、港湾への接岸や砂浜への上陸を可能とするため、まず、中型艦が本土から南西諸島へ人員や物資を輸送し、車両も運ぶ。その後、小型艦が南西諸島間の砂浜に乗り付けるなどを想定している。 

 中谷氏によると、艦内はデジタル化されており、ハイテク化によって省人化が図られているため、少ない隊員でも運用が可能となる。また、小さな島にも上陸しやすくなることで、車の卸下(しゃが)などが可能だという。

 防衛省によると、今年度末には小回りが効く小型艦をさらに2隻増強して160人態勢とするほか、海自阪神基地(神戸市)も拠点とし、2027年度(令和9)までに計10隻を配備する計画だ。


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自衛隊「海上輸送群」の発足式典で、中谷防衛大臣から隊旗を授与される群司令の馬場1陸佐(防衛省提供)

 

 陸自は公式Xで編成完結式の様子を紹介。「陸上自衛隊は、引き続き機動展開能力を強化していきます」とコメントしている。

 発足式典終了後、臨時会見を行った中谷氏は「自衛隊の機動展開能力を大きく向上させるものと期待している。今後、海上輸送群であらゆる事態に対応できるよう、各自衛隊とさまざまな訓練を行い、自衛隊の統合輸送能力を向上させていく考えだ」と述べた。

 海上輸送群発足の背景については、元海上幕僚長の山村浩氏が防衛日報社の新春インタビューで、「南西諸島の防衛で必要なのは、第一に輸送力。前線とは違い、後方としての海上輸送は数も量も莫大な輸送量が必要。そのため、島嶼しょ部への端末輸送には、陸自自らも実施してもらうことになった」と説明。

 その上で、「船舶はまだまだ足りない。PFI船舶への期待するところ大なので、船の数は多ければ多いほどいい。わが国防衛のためぜひ、成功させてもらいたい」と期待していた。


<編集部より>

 日本の安全保障政策は、おおむね10年後までの基本指針を定めて策定される「防衛計画の大綱(防衛大綱)」に基づいて施策が実行されますが、以前は「基礎的防衛力」として日本全体に均等に防衛力を配備してきた経緯がありました。

しかし…です。緊張が高まる台湾有事、日本周辺の海空をわが物顔で行き交う中国、相変わらず弾道ミサイルなどを飛ばす北朝鮮…。距離的に言えば、こうしたさまざまな脅威を最も身近に感じざるを得ない場所こそ、多くの離島が集まった「南西地域」です。

奄美大島から日本最西端の与那国島まで全長約1200キロメートルにおよぶこの地域こそ、日本の防衛の行く末を決めかねないほどの重要な場所となっている以上、自衛隊は、人員の増強のみならず、組織の新編・改編などの「南西シフト」を取らざるを得ない状況となってきました。

そのための新編こそ、4月6日に発足式典が実施された自衛隊「海上輸送群」です。南西有事に本土から支援に向かうため、多くの人員や船、装備、弾薬、食料その他、多くのものを運ぶ手段として欠かせない輸送を専門とした部隊。機動展開能力の強化につなげるもので、防衛日報では、以前から取り上げてきた話題なのです。

なぜ、群が必要なのかといえば、無数の離島周辺の海は水深が浅く、大きな船が横付けできる港湾施設もまだまだ整備途中。沿岸は砂浜が多いのも特徴の一つです。島民が避難するためには、まず、中型艇が本土から人員や物資を輸送。車両も運び、その後、小型艇が砂浜に乗り付ける―。中型艇は沖合に停泊しながら、小型艇が島までのピストン輸送で保護する想定です。無数にある島々ですから、輸送群の「需要」は計り知れません。とくに小回りが効く小型艇は令和9年度までに計10隻にする計画ということです。

100人態勢の9割が陸上自衛隊員なのは、現地での活動には陸自の人員、技術や知恵、装備などが必要不可欠だからです。「陸自隊員が船乗りになる!」などとメディアにも取り上げられました。船の操縦から何からすべてを行うため、海自の術科学校などでみっちりと訓練を受けた精鋭たちなのです。

私事ながら、与那国島には旧社在籍中に取材経験があり、穏やかな島としての印象を持っています。もちろん、今も変わることはありません。

しかし、地理的な状況は南海の楽園に少しずつ、影を落としているのも事実です。もともと、過去の戦争などの影響もあって、防衛、自衛隊に対する見方はさまざまだった地域ともいえますが、もう、そうも言っていられないこそ、自衛隊の力が必要となっているのです。

部隊が次第に新編され、「初動」の態勢に向けた防衛態勢はできつつありますが、広範囲にわたる有事となれば、そうはいきません。今回の海上輸送群の新編は南西地域を、日本を救う大きなもの。3月24日に発足した統合作戦司令部と同様、自衛隊にとってのかつてない大きな組織の今後に、しっかりと向き合い、伝えていきたいと思います。