出雲駐(司令・小松2陸佐)は10月10日から12日の間、「駐屯地創立72周年記念行事」を実施した。市中パレードや観閲式のほか、13音楽隊が華麗な演奏を行うなど「島根県唯一の陸上自衛隊」として、多くの市民にその雄姿を披露。「地域と共に歩む駐屯地」をアピールした。
出雲駐(司令・小松2陸佐)は10月10日から12日の間、「駐屯地創立72周年記念行事」を実施した。市中パレードや観閲式のほか、13音楽隊が華麗な演奏を行うなど「島根県唯一の陸上自衛隊」として、多くの市民にその雄姿を披露。「地域と共に歩む駐屯地」をアピールした。
【市中パレード】
2005年(平成17)に始まったパレードは今年で19回目。出雲市駅前中央通りには約2000人が詰めかけた。
オープニングを飾ったのは、13音楽隊の演奏。出雲市大社町出身のシンガーソングライター、竹内まりやが作詞、作曲した「愛しきわが出雲」を男性ボーカルの張富(はりとみ)3陸曹が披露。歌唱後、会場は温かい雰囲気に包まれた。
続いて、空自高尾山分屯基地(松江市)の自転車アクロバティックチーム「高尾山レッドクラブ」が演技を披露し、デルタ隊形やタイムエッジなどを展開。
草場3空曹の軽妙なマイクパフォーマンスとともに会場を沸かせた。観客からは「年々、完成度が高まっている」との声も聞かれた。
観閲式では、小松司令が式辞で、駐屯地開設の歴史を振り返るとともに、2024年(令和6)に新編された13偵察戦闘大隊、13後方支援隊偵察戦闘直接支援隊の訓練状況を「現在は戦力化の途上にある」と報告。近年の災害派遣にも触れながら、「島根県唯一の陸上自衛隊として与えられた任務を完遂していく」と決意を示した。
また、「皆と共に、地域と共に」をスローガンに掲げ、「全国でも珍しい市中パレードが開催できるのは、地域の理解と諸先輩方の努力の賜物」と深く感謝を述べた。
観閲行進には、出雲駐所在部隊のほか、8普連(米子駐)、中部方面特科連隊3大隊(日本原駐)、13通信隊、13特殊武器防護隊(海田市駐)、13飛行隊(防府分屯地)など周辺部隊が参加。車両43台、航空機1機、約120人の隊員らによる威風堂々とした行進に、沿道の観客から歓声が上がった。
思いのほか間近を通過する装備品の迫力に驚く来場者の姿も見られた一方で、「毎年楽しみにしているんです」と慣れた様子で隊員に手を振り、それに笑顔で応える隊員の姿もあった。
パレード終了後は、出雲市駅前中央通りが歩行者天国となり、装備品展示や各種イベントが行われた。装備品展示では、運転席に乗車できる体験コーナーが人気を集め、順番を待つ親子連れの列が途切れることはなかった。
【オープンキャンプ】
翌12日は駐屯地を一般開放し、「オープンキャンプ」を開催。会場には家族連れを中心に約2500人が来場し、快晴の空の下、終日活気に包まれた。
訓練展示では、オートバイドリルと模擬戦闘訓練がそれぞれ2回ずつ実施された。オートバイドリルでは、隊員が息の合った動きで操り、正確な旋回や停止を披露。
模擬戦闘訓練では、16式機動戦闘車を含む装甲車などによる威力偵察の場面が展示され、緊迫感あふれる隊員の動きに観客の視線が釘付けとなった。
体験コーナーでは、装輪装甲車や軽装甲機動車への体験搭乗が人気を集めたほか、映像視聴やVRゴーグルを使った「陸自魅力発信ブース」も設けられ、多くの来場者が足を止めた。
また、地元高校3校や地域団体によるコーラス、神楽の披露、ふわふわドームや輪投げなどの子供広場、キッチンカーの出店もあり、幅広い世代が自衛隊を楽しめる一日となった。
オープンキャンプは、地域に自衛隊の活動を身近に感じてもらう貴重な機会となり、市中パレード前日に近傍商業施設で行われた13音楽隊によるミニコンサートを含め3日間で延べ約5000人が訪れ、地域と自衛隊の結びつきを改めて感じる機会となった。
<編集部より>
駐屯地のトピックスを記者の取材を通して特集する「Zoom 駐屯地」と記念行事の報告をまとめた「記念の日 新たな誓い」。防衛日報の本日(11月19日付)2面では、2つの企画を一緒にした「ハイブリッド」の紙面を初めてつくってみました。
主役は出雲駐屯地。創立72周年記念行事です。市中パレード、観閲行進は晴れやかに、華やかに、そして凛々(りり)しく進んで沿道を沸かせ、翌日の駐屯地を開放した「オープンキャンプ」には2500人が来場。模擬戦闘訓練や体験コーナーなどで自衛隊を楽しんでいました。
長い海岸線を有し、砂浜が続く島根県は国防面で重要な地域の一つといえます。海岸には中国語や韓国語が書かれたごみが多く打ち上げられます。駐屯地取材ではありませんが、かつて出雲を訪れた際、地元住民から聞いた話です。
一昔前であれば、「砂浜=小舟を止めやすい=拉致するのにいい場所」とされることもありました。事実、似たような海岸線となっている日本海側の自分の郷里は、当時の公安当局の調査で「候補地」の一つとされていたほどですから。
もちろん、現代では拉致の言葉は「死語」になりつつあるのかもしれません。ここで言いたいのは、砂浜に流れ着くごみの数々を見るまでもなく、いくら離れていようが海の向こうがすぐ外国だという地理的な環境だということです。話を聞いた住民の言葉は、こうしたことを実感しているからこそなのだという気がしました。
観閲式で小松司令(2陸佐)は「島根県唯一の陸上自衛隊」であることを強調していました。中国だけでなく、北朝鮮やロシア、韓国などの周辺国と多くは海を挟んで対峙(たいじ)する地域にあり、ましてや陸自は島根県に出雲しかないという現状なのです。
決して有事が迫っているわけではありません。あくまでも、可能性。ここはまず否定しておきます。ただ、台湾有事などを背景に、南西諸島への防衛対策が最優先課題となっている一方で、「日本海側の海岸線の有事はゼロではない」と指摘する専門家もいます。一言でいえば、「上陸しやすい」地形ということのようです。
四方を海に囲まれた日本列島は、どこからでも上陸しやすく、ごみが流れ着く波の動きも見るまでもなく、出雲にとって周辺諸国は「遠くて近い」存在。「いざ鎌倉」となれば、唯一の陸自である出雲駐が対応する一方で、行事にも参加した周辺部隊が加わることになるでしょう。そこでイニシアチブ(主導権)をとるのは、出雲駐となるわけです。
記念行事の開催は駐屯地側にはたしかな決意を示す上で重要なイベントなのであり、集まった地元住民にとっても、「お祭り的」なイベントとしてとらえるだけでなく、出雲駐への大きな期待、信頼を寄せているのだという意志を表す場となっていたように思います。
市中パレードのオープニングを飾った13音楽隊はパレードの前日、近傍の商業施設でミニコンサートを実施しました。コンサート、市中パレード、オープンキャンプの3つの行事は「皆と共に、地域と共に」のスローガンを体現していました。
そこにあったのは、個別の環境を持つ出雲ならではです。「任せてください!」(駐屯地)と「頼んだよ!」(住民)…。両者の気持ちが重なったものにほかなりません。