人材確保の最前線から② 部隊と地域が近いからできる!熊本地本の強み|熊本地本

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高校の文化祭などで防災教育に協力する熊本地本

防衛日報 2025年12月24日付


 熊本地本(本部長・矢野1陸佐)は、募集・援護・予備自衛官の3分野と各地域事務所が、募集会議や募集広報会同を通じて情報交換と連携を重ねる「課横断型」の運営を強みとしている。

 また、県内に方面総監部、8師団などの陸自の部隊が多く存在しており、イベントや各種説明会でも部隊や熊本出身隊員の支援が得やすいこと、平成28年熊本地震や令和2年7月豪雨を含め、地域の災害対応などで部隊と地域が密接に関わってきたことから、自衛隊に対する感情が良好という特性もあるという。


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募集対象者と年齢層の近いリクルータが積極的に活動

 募集活動では若年層の理解促進を重視し、計画的に説明会を実施している。

 説明会では募集対象者と年齢の近いリクルータや自衛隊家族会などの保護者を招へいし、対象者や保護者に寄り添うとともに、


 「自衛官の処遇、生活・勤務環境の改善」などの情報発信を行った。女子限定座談会も年2回開催し、生活面の不安や疑問に丁寧に対応した。

 学校との連携強化に加え、矢野本部長ら経験豊富な部隊長などの自衛隊幹部を「ハイレベルリクルータ」として派遣し、大学や高校などを訪問して講話を実施。陸自高等工科学校副校長による説明も組み合わせ、多角的な情報発信を進めている。

 

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女子限定の座談会も和気あいあいの場に

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熊本出身のブルーインパルスパイロットによる説明会

 さらに、空自のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」の熊本出身パイロット、松永1空尉を起用したイベント型説明会や、大学生向けに自衛隊オープンカンパニー(インターンシップ)としての体験型部隊研修、


アンケートを基にデザインしたオリジナル文房具の制作など、親しみやすさを高める工夫も取り入れた。

 こうした取り組みの積み重ねが、特に自衛官候補生、曹候補生の入隊実績の伸長につながったと地本は捉えている。


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説明会には多くの募集対象者が集まった

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アンケートの希望を取り入れてデザインした熊本地本オリジナル文房具

 援護活動にもさまざまな工夫がある。令和6年度は、熊本運輸支局と連携した「運輸業合同説明・運転体験会」を北熊本駐で初めて開催した。大型トラック、路線バス、タクシーを実際に駐屯地内で運転できる企画で、参加した隊員は119人に上った。

 自衛官の技能を企業ニーズに直結させる試みとして評価が高く、当日はテレビ4社、新聞2社から取材が入るなど反響も大きかった。


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第5地対艦ミサイル連隊の新隊員訓練見学

 再就職支援では、令和6年度に約100人超を支援。元隊員の実績が企業の評価につながり、「自衛官を採用して良かった」という声から新たな求人が生まれるケースもみられる。

 熊本地本は、こうした動きを「地域における信頼が広がり、求人につながる好循環が生まれつつある」と受け止めている。就職援護率は100%を維持した。


 予備自業務では、部隊との連携を強めるとともに、元自衛官への粘り強い意向確認や丁寧な説明を継続し、「予備自衛官等の処遇改善」を含む制度普及、志願勧誘、訓練出頭促進を推進した。その結果、管理する人数を維持するとともに、訓練出頭率の目標も達成したという。


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第1級賞状を授与される熊本地本。増田前事務次官や斎藤海幕長も参列 


 熊本地本の活動には、部隊・学校・自治体・企業・自衛隊協力団体など地域と地道に築いてきた「顔の見える連携」が息づいている。募集・援護・予備自が課を越えて結び付き、地域の声を確実に業務に反映させる体制は、人材確保の実効性を支える基盤となりつつある。

 こうした取り組みの積み重ねは、人口減少期における地域密着のあり方として、熊本地本の取り組みに独自の色合いを与えている。


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第1賞状授賞式の記念写真

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自衛隊熊本地方協力本部

自衛隊熊本地方協力本部【公式X】

自衛隊熊本地方協力本部【公式Instagram】


<編集部より>

自衛隊のことを知る上で、一つの「近道」といえば災害派遣活動で奮闘する隊員たちの姿があります。人命救助から物資の供給、医療活動、避難所での食事や入浴支援…。被災地に、被災者に徹底して寄り添う、これ以上ないありがたく頼もしい姿です。

そこに生まれるのは、短期間とはいえ声を掛け合い、顔の見える関係からでき上がった信頼関係に他なりません。

防衛日報1面で前日から掲載している企画「人材確保の最前線」。本日(12月24日付)はその2回目。熊本地本の募集・援護などのさまざまな活動を紹介しました。

その中で地本が強調するこんな内容がありました。「地域の災害対応などで部隊と地域が密接にかかわってきたことから、自衛隊に対する感情が良好という特性があります」と。

背景には、熊本県の自然災害の多さがあります。阿蘇山の火山活動があり、有明海沿岸の地盤の弱さや活断層の影響で地震や土砂災害のリスクなどが指摘されています。

記憶に新しいのは、熊本地震(平成28年)、令和2年の集中豪雨などですが、こうした地形的・地質的に災害の危険性が高いとされる中、自衛隊の存在と迅速な対応は復旧・復興において不可欠な存在となっているわけです。

決して、災害を肯定化するものではありません。言いたいのは、地震大国・日本とはいえ、その中でも大きな自然災害がもたらされた地域があります。大切な人や家などを失い、絶望感にさいなまれ、何とか「次」に向かえる気持ちになった時、多くの教訓を得たことを心に留(と)め、予防的な「防災」にかける意識の高さは当然のように高くなるものです。

当然のように、防災へ向けたイベントは、ほかの地域以上に頻繁に実施されることになります。そこに自衛隊が参加すれば、「あの時(災害時)は、ありがとうございました」のあいさつから始まります。幼い子供には「ジエイタイ」は格好良く映り、大人たちにとっては「感謝」の気持ちとともに、コミュニケーションづくりにも大きなプラス材料となるのです。

熊本地本に話を戻します。いつしかこうした関係性が構築されることでベースができ、募集対象者である若年層に限らず、保護者世代にもアピールできているのです。

繰り返しますが、決して良いことではありません。ただ、①災害が発生すればいつでも駆け付けてくれる自衛隊はある意味、有名②活動自体も知っている人が多い③自衛隊からすれば、活動する上で実にやりやすい―という仕組みは募集にとどまらず、援護活動にもいい影響を与えているようです。

就職援護率100%という数字は素晴らしいこと。募集でも自衛官候補生や曹候補生の入隊実績の伸長につながっているとのこと。報告ににじみ出ているように思います。

さらなる強みは、本部と各地域事務所とによる会議や会同を重ねる「課横断型」です。地本の活動への強い意欲の表れですが、そこには、日頃からの活動、とくに「防災」関係で接する被災体験者でもある住民たちの熱心な姿があります。

「次は何をやろうか…」。提供する地本にとっては、今一度奮い立たせてくれる気持ちが地本全体で共有されている。そんなことを感じてしまいます。