陸自中央音楽隊(隊長・志賀1陸佐)は9月19日、東京芸術劇場コンサートホールで「第176回定期演奏会」を開いた。
テーマは「祈り」。志賀隊長は「さまざまな角度から音楽で『祈り』を表現したい」と語り、演奏会全体に平和へのメッセージを込めた。
陸自中央音楽隊(隊長・志賀1陸佐)は9月19日、東京芸術劇場コンサートホールで「第176回定期演奏会」を開いた。
テーマは「祈り」。志賀隊長は「さまざまな角度から音楽で『祈り』を表現したい」と語り、演奏会全体に平和へのメッセージを込めた。
演奏会の目玉は、作曲家の八木澤教司氏に委嘱した新作「遙か祈りの書」の世界初演。同作は、戦後80年の節目に合わせ、中音が平和への願いを込めて委嘱したものだ。
ステージであいさつした八木澤氏は、「歴史には多くのかけがえのない命が失われてきた記憶があるが、決して忘れてはならない。『祈り』は世界中の人々が分かち合う平和への願いの象徴。困難な時代にも私たちを一つにする力を持っている」と語り、「作品はそうした記憶を音楽に書き留めたもので、そこから生まれる希望を感じ取ってもらえればうれしい」とした。
演奏会は2部構成。第1部はヴェルディの歌劇「ナブッコ」序曲、ヤマタノオロチ伝説に取材した樽屋雅徳作曲「斐伊川に流るるクシナダ姫の涙」、アメリカのマーチ王・スーザの行進曲「美中の美」、八木澤氏の「遙か祈りの書」。
第2部は福島弘和作曲「祈りは時の流れに輝く」、ラフマニノフ「ヴォカリーズ」は中央音楽隊のために新たに編曲され、披露された。さらに1990年(平成2)に海上自衛隊佐世保音楽隊が委嘱初演・隠れキリシタンを題材にした壮大な楽曲「ぐるりよざ」が取り上げられた。プログラム全体を通じて、古典から現代邦人作品まで幅広く「祈り」の形を描いた。
アンコールでは、この日入隊後初舞台となる新隊員51人が参加した。
演奏されたのはジョン・ウィリアムズ作曲、映画「プライベート・ライアン」から「戦没者への讃歌(Hymn to the Fallen)」。新隊員たちはそれぞれ異なる楽器を専門としながら、この日は声を合わせて美しいハーモニーを響かせ、会場に鎮魂の祈りを届けた。
<編集部より>
陸上自衛隊中央音楽隊は、陸自最大規模。外国の要人が来日した際に行う特別儀仗(ぎじょう)を日本の音楽隊で唯一行っている「トップランナー」です。全国各地では演奏会や音楽指導などを行い、さまざまな趣向で音楽の素晴らしさや音楽を通した広報活動を続けています。
その活動といえば、定期演奏会です。防衛日報の本日(10月16日付)2面に掲載した「第176回定期演奏会」には、「さまざまな趣向」が散りばめられていました。
メインは、作曲家の八木澤教司氏に委嘱して完成した新作「遥か祈りの書」の世界初演です。戦後80年に合わせ、中音が平和への願いを込めて委嘱したということです。
その八木澤氏は、フェイスブックでリハーサルに立ち会ったことを紹介していました。「柴田副隊長の華麗な指揮と見事な音楽づくり、隊員の皆さんの卓越した技術と誠意ある気持ちで作品に向き合う姿に、すでに感動の時間を体感」とも。本番前とはいえ、共有できるパートナー(中音)への思いが伝わる、すばらしいコメントだと思いました。
別のフェイスブックなどによれば、八木澤氏は自らも音楽大学出身のため、近年はいろいろな場所で大学の同期や先輩・後輩に偶然に会う機会が増えたり、以前の10音楽隊(名古屋)との懇親会の際は、中学、高校、音大時代に八木澤作品の演奏経験がある隊員が多く、「いろいろなつながりやご縁を感じる楽しい時間でした」などと綴(つづ)っているのも見かけました。デビュー当時から、陸自音楽隊にかかわってきたという八木澤氏ならではです。
今回の作品について、世界でいまだ続く戦争や内乱などを鑑(かんが)み、演奏会当日、八木澤氏は世界中の人々が分かち合う平和への願いの象徴としての「祈り」が、「困難な時代にも私たちを一つにする力を持っていることを込めた作品」だと語っていました。
それは、すべての日本国民が願うはずの平和へのメッセージは共有できるものであり、会場に足を運んだファンならばとくに、音楽で表現するとしたその思いは確実に共有できるものだったことでしょう。
中音と八木澤氏のコラボを象徴する写真を紙面で掲載しました。ステージ上で握手を交わす八木澤氏と志賀隊長、その隣でほほ笑む柴田副隊長、後ろで見守るその他隊員…。中音とのこれまでの経緯や隊員たちとの関係性が良く表れたカットでしたので、メインの写真として使わせていただきました。
もう一つは、最後のアンコールです。入隊後初舞台となる新隊員51人の歌唱による参加でした。声を合わせて美しいハーモニーを響かせ、会場に鎮魂の祈りを届けました。自衛隊音楽隊への憧れや希望を胸に門を叩(たた)いた若き精鋭たちにとっては、緊張の時間ながらも、自らの選択を実感できた瞬間ではなかったかと思います。
中音の定期演奏会は応募者が多く、開催ごとに公式SNSなどで倍率が紹介されており、たとえば第171回は約3.5倍、第173回は5.8倍だったようです。これだけの人気を誇る中音です。新戦力が加わり、パワーアップした姿をこれからも先頭でリードしてもらい、日本各地はもとより、世界にその音楽を大きく発信してほしいと願うばかりです。