防衛力整備計画の3年目となる令和7年が明けた。日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増し、さらなる強化が求められる。中国の海洋進出が続く中、とくに南西諸島対策は喫緊の課題となる一年でもある。海上保安庁との「統制要領」、今年度末にも編成される統合部隊「自衛隊海上輸送群(仮称)」など「海の守り」の動きも活発化するだろう。一方で、3月にも発足予定の「統合作戦司令部」は日米同盟のさらなる強化に向け、新たな一歩となる。新春特別インタビューでは、山村浩元海上幕僚長に登場してもらい、海上防衛を中心に7年の日本の防衛を占ってもらった。
(聞き手=防衛日報社顧問・岳中純郎)

南西諸島
「輸送力」と「陸上防衛力」が必要 海自の役割は確実な安全確保
海保との統制要領一元指揮の強みを生かせる演練を

▶中国の動き

 ーー今年も「海の防衛」はかつてなく重要となってきます。まずは、中国の動きについてお聞きします。

 山村浩氏 「20年前、(日本周辺海域に)中国の艦艇を見ることはありませんでした。あっという間に増えてきた印象です。今、重要なのは『365日、警戒監視をし、いつでも姿を見ているぞ』という動きを見せて『抑止力』を高めていくことです」

 ーー南西諸島対策では、「自衛隊海上輸送群(仮称)」が発足し、「南西シフト」へ向けた態勢が取られます。

 山村氏 「まずは早期に『事態認定』をしてもらい、短時間に装備品や弾薬などを運ぶこと。そして、組織として統合輸送をしっかりと行うことです。島から島へのピストン輸送なども人員が多い陸自が任務にあたるのが効果的です。『陸上防衛力』をいかに強化していくのかが大きなポイントです」

《「自衛隊海上輸送群」は陸自隊員が中心。陸自の部隊や装備品を輸送するケースが多く想定されるためだが、艦艇を運航できる隊員の養成が必要となるため、令和元年から陸自隊員を海自の術科学校に派遣し、知識や技術を習得した人材を育成している》

 山村氏 「南西諸島の防衛で必要なのは、第一に輸送力です。これまで、海上作戦輸送は海自の任務として輸送艦を整備してきましたが、前線とは違い、後方としての海上輸送は数も量も莫大ばくだいな輸送量が必要。そのため、島嶼しょ部への端末輸送には、陸自自らも実施してもらうことになったのです」

《島嶼部対応では、昨年10~11月に小型輸送艦「にほんばれ」や中型輸送艦「ようこう」が相次いで進水し、海上輸送船舶を取得した》

 ーー海上輸送力には、車両やコンテナの大量輸送に特化した「民間資金等活用事業(PFI)」の活用も重要となりますね。

 山村氏 「船舶はまだまだ足りていません。PFI船舶の『なっちゃん』や『はくおう』への期待するところ大です。船の数は多ければ多いほどいいのです。これまで、船会社や船主、船員組合、港湾労働組合の方々とは、必ずしも意思疎通ができていたとはいえない状況もありましたが、わが国防衛のためぜひ、成功させていただきたいと思います」

▶海自と海保 

 ーーそこでの海自の役割は。

 山村氏  「海自そのものは、輸送に関する能力は少ないのですが、南西諸島への往復する海上輸送の安全確保を確実に実施する必要があると思っています」

 ――有事の際、海上保安庁が防衛大臣の指揮下に入って対応する「統制要領」に向けた訓練が実施されています。海を守る上で、海保との連携強化については。

 山村氏  「海保は『領域警備』、海自は『海上防衛』が任務です。海保とは平成11年の能登沖で発生した不審船の対応にあたりました。その後も海賊対処などで連携に努めています。ただ、有事の際、別々の指揮系統ではごちゃごちゃになりかねないので、『統制要領』はとても重要です。要は、エリア的に強い部分と弱い部分をうまく補完し合うことなのです」

▶国民保護

 ーー統制要領では、自衛隊と海保が分かるような標示を船艇に掲げますが、有事となれば、相手の認識はどうなるのか。また、現場では住民をどのようにして安全に運ぶのかという「国民保護」が大きな問題となります。

 山村氏 「戦争になったら、軍艦も公船も商船も『敵性船舶』として攻撃されかねません。軍艦しか狙わないなんていうことはありません。だからこそ、海自・海保が一元指揮の下で効率的、効果的にそれぞれの強みを生かし、国民保護などの作戦がうまく遂行できるように演練してもらいたいですね」

 ーー沖縄には先の歴史的な背景がありましたから、南西地域ではこれまで、自衛隊が訓練しにくい状況があったと聞きます。

 山村氏 「そうですね。守りに行こうと訓練をしようとしても、この70年間、南西地域では訓練がなかなかできなかったですからね。海自も海保もわが国防衛・領域の安全確保、国民保護に関する思いは同じなのです。ましてや、今は防衛の重要地域となっているわけですから」

▶艦隊改編 

 ーー防衛省は昨年、海自の改編計画を発表し、護衛艦隊と掃海隊群を廃止し、水上艦隊部隊を集約する「水上艦隊(仮称)」を新編することになりました。現在、未来に向けてどうとらえていけばいいのでしょうか。

 山村氏 「指揮官の職責が多くなり、作戦運用面で効率がよくなるでしょう。とくに、『FFM』という機雷掃討機能を持った護衛艦が登場するなど、機能別の編成よりもトータルで海上を見て練成管理、作戦指揮をする時代になっているように思います」

統合作戦司令部陸海空の相乗効果を発揮する指揮統制に

▶日米連携 

 ーー今年度末には陸海空を一元的に指揮する「統合作戦司令部」が発足します。米軍も「統合軍司令部」を再編成し、日米が「統合」の名の下、新たな連携の強化を図ることになりました。

 山村氏 「正直、やっと司令系統が米軍に並んだな、という感じです。米軍との連携は何も変わることはありません。統合作戦司令部には、しっかりと陸海空の強いところを相乗効果で出し、弱いところを補うような指揮統制を実施してもらいたいですね」

 ーーロシアによるウクライナ侵攻で明らかになった認知領域を含む「情報戦」への対応能力の強化が求められています。海自も部隊を整理・集約し、「情報作戦集団(仮称)」を新編する計画があります。

 山村氏 「米軍は大きな情報部隊を持っています。情報部門を格上げして大組織にするのは、現下の厳しい情報戦を勝ち抜くためには必要なことです。『戦わずして勝つ』ために、日々、重要なのは情報戦力ですから」

自衛官不足OB活用し大規模にアウトソーシング
不祥事から再起 99%は誠実・愚直「君たちは決して悪くない」

 ーー人的基盤の抜本的強化のため、自衛官らの待遇の見直しなどが進められていますが、海自の立場を含め、どのように思われますか。

 山村氏 「初任給の増加や乗り組み手当の割り増し、隊舎の更新など処遇改善に取り組んでいただき、感謝しています。国民の『海離れ』が著しい中、とくに海自の船乗りへの処遇向上には引き続き取り組んでもらいたいと思います」

 ーー自衛官の充足率が減る傾向が続いています。対策は。

 山村氏 「少子化は進行していきます。50年後の募集対象人口は今の半分になることが分かっています。海自なら今、4万5000人でやっていることを3万人でやることになるかもしれません。募集については、現状維持に努めつつも、隊員の減少に備え、OBを活用したアウトソーシングを大規模に進めていく必要があると思います。しかしながら、この分野はほとんど進んでいないのが大きな問題。港務機能を含むロジや、教育訓練分野など、OBの知見をそのまま活用できる分野は多くあります。しかし、それにはセキュリティークリアランスの付与が不可欠となります」

▶人間力 

 ーー時代の変化とともに、指揮官に求められる要素はますます重要なものとなっています。今、リーダーに必要なこととは何でしょうか。

 山村氏 「セクハラやパワハラのコンプライアンスが厳しい中、昭和式の統率では限界があります。同じ勤務をやっても多忙感・疲労感が残るのではなく、達成感・充実感が得られるようにしていく必要があります。とくに、SNSで情報を豊富に持っているZ世代の隊員たちに対しては、彼らを感化して、服従してもらえるような新たな統率力について研究していく必要があります。いずれにしても、指揮官には『この人にはついていきたい』と思わせるような、人間力がより重く問われる時代になったと思います」

 ーー最後に、海自は昨年の不祥事がニュースとなり、大きな反省の下、組織の体制を抜本的に変えて新たなスタートを切りました。今、現役の海上自衛官にはどんな言葉をかけてあげたいですか。

 山村氏 「不祥事はあってはならないことであり、再発防止に万全を期してもらいたい。しかしながら、99%以上の隊員は誠実・愚直に警戒監視などの職務に精励しています。決して卑下(ひげ)することなく、平素の闘いに従事してほしい。『頑張っている君たちは決して悪くない。胸を張って勤務に励んでほしい』と思います。そして、『愛国心』です。自分の国は自分で守る、という気概はしっかりと持ち続けてほしいですね」

山村 浩氏(やまむら・ひろし)
 昭和37年生まれ。山口県立岩国高校、防衛大学校(28期)を卒業し、59年に海上自衛隊に入隊。護衛艦「みねゆき」艦長、海上幕僚監部編成班長、同人事計画調整官、同防衛課長、4護衛隊群司令、海上幕僚監部総務部副部長、護衛艦隊司令部幕僚長、統合幕僚監部防衛計画部長、護衛艦隊司令官、海上幕僚副長を歴任し、平成31年4月、第34代海上幕僚長に就任。令和4年3月に退官。現在は公益社団法人「隊友会」常務理事、同「自衛隊家族会」理事、公益財団法人「水交会」理事。

 令和7年が明けました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 静かな正月でした。どっぷり、ゆったりとつかったナマケモノとなり、2、3日の「箱根駅伝」(正式には第101回東京箱根間往復大学駅伝競走)では、お屠蘇(とそ)状態で画面にかじりつき、母校の応援に声を枯らし(優勝した青山学院大ではありませんが)、酒量をアップさせてしまいました。

 つまらない余談はともかく、防衛省・自衛隊の活動を少しでも分かりやすく、時に熱く、また、時にユーモアとペーソスもちょっぴり加えながらお届けできるよう、これからも筆をふるってみたいと思います。本年も拙(つたな)い文章にお付き合いくださいませ。

 長年、新聞業界に身を置いていますので、新年は新年らしい紙面というのがこの業界の常。ということで、防衛日報の今年最初1月7日付1~27日付1~2面では、恒例の新春特別インタビューを掲載しました。ご登場いただいたのは、山村浩元海上幕僚長。「海のプロフェッショナル」に今年の海上防衛を中心にさまざまな話題について語っていただきました。

 四方を海に囲まれ、海産物など多くの恵みを与えてくれました。日本人の心と体を支えてくれた日本の海ですが、近年はその海が「脅威」の可能性を生み出しかねない舞台となっているのは、とても悲しく、厳しいことです。しかし、年末も相変わらず続いた周辺諸国の活発化する海洋進出の動きをみる限り、それが現実にならないとは言えません。

 山村氏には、海上保安庁との「統制要領」、南西地域の守りと国民保護などのため、新たに編成される「自衛隊海上輸送群(仮称)」、3月にも創設される陸海空が一体となった「統合作戦司令部」や日米同盟のこと、さらには人的基盤のこと、昨年、不祥事が続いた古巣の海上自衛隊員へのメッセージ…などなど、それぞれの話題を分かりやすく説明していただきました。

 心に残った言葉がたくさん、ありました。その中でも、統制要領では「それぞれの強みを生かして」、統合作戦司令部では「陸海空の強いところを相乗効果で出し、弱いところを補うような指揮統制を」と。複数のものが連携するにあたり、最も大事な部分なのかと改めて至言だと感じました。

 また、真摯(しんし)に任務を続ける多くの後輩たちには「君たちは悪くない。胸を張って励んでほしい」と熱い気持ちを伝えてくれました。

 冒頭の箱根駅伝のことで余談をもう一つ。駅伝はチームが一つになり、汗がしみ込んだタスキをつなぐスポーツです。つなぐこと=連携。そういう観点で見ると、自衛隊そのものだけでなく、同盟国・同志国などとの連携の強化もお互いの意志や気持ちをつなぐこととも言えます。

 防衛省・自衛隊にはさまざまな場でつないでもらうことを望むとともに、僭越(せんえつ)ながら、防衛日報は読者の皆さんとをつなぐメディア、広報紙としての役割をまっとうすることを年のはじめに改めてお誓い申し上げたいと思います。

→防衛日報1月7日付PDF