陸上自衛隊は10月9日、東富士演習場(静岡県御殿場市など)で、陸自の主要火砲、「155ミリ榴(りゅう)弾砲(FH70)」の近迫射撃演習を報道陣に公開した。「戦場の女神」などとも呼ばれるFH70。兵器が近代化する現代戦でも、火力支援を受けた近接部隊の重要性は変わらない。演習では、発射に向けた隊員たちの精緻な動作と正確な射撃を垣間見ることができた。

とどろく発射音ととも煙を吐くFH70

 「斉射用意。撃て~」―。指揮所からの号令に合わせ、展開した5機のFH70が榴弾を発射し、「ドカーン」と鳴り響く轟(ごう)音とともに体が震えた。

 榴弾砲は着弾直前に上空で炸裂(さくれつ)する曳火(えいか)射撃と、着弾以降に爆発させる着発射撃がある。いずれも、初速が音速を超え広範囲に無数の金属片などが飛び散る。

9人一組で、息の合った動作を見せる隊員たち

 1機につき9人の陸自隊員で操作する。その発射作業は職人技だ。発射した瞬間、隊員たちは次の発射に向けた作業に移る。約40キロの榴弾を手で持ち上げ、素早く砲身に装填(そうてん)し、2人がかりで鉄の棒で奥に押し込む。砲身の向きはレバーを手動でぐるぐる回して調整した。そして、隊員が手でレバーを引いて発射する。榴弾は3キロ先の着弾地に正確に打ち込まれた。

厚いコンクリートで造られた射弾下掩蔽部

 演習場内にある「射弾下掩蔽(えんぺい)部」と呼ばれる見学用の施設からも、その威力を間近に見ることができた。掩蔽部から約200メートル離れた着弾地の目標付近で、榴弾が破裂した。

貫通したマネキンを前に榴弾砲の威力について説明する陸自隊員

 数十発の射撃後、着弾地点へ立ち入ることができた。鋭利な榴弾のかけらが、あちらこちらに散乱していた。着弾地点近くに置かれたマネキンの頭にはかけらが貫通した痕が見られたほか、人を模したゼラチンの塊の中には複数のかけらが、めり込んでいた。

複数のかけらがめり込んだゼラチンの塊。榴弾の威力を垣間見ることができた

 陸自幹部は「ドローン攻撃など新たな戦い方が起きている中でも、こうした火力支援は重要だ。日本を守るため、そして抑止力を高めるため、隊員たちは日々訓練に励んでいる」と話した。