防衛省統合幕僚監部は9月23日、ロシア軍の「IL38」哨戒機1機が同日、北海道・礼文島付近の領空を3度にわたって侵犯したと発表した。航空自衛隊の「F15」戦闘機などが緊急発進(スクランブル)し、強い光と熱を発する「フレア(火炎)」を発射した。フレアの使用は、昭和33年に対領空侵犯措置を開始して以来初めて。木原稔防衛大臣は24日の閣議後会見で、「挑発的な行動と考えてもおかしくない」との見方を示した。

 政府は官邸の内閣危機管理センターに情報連絡室を設置し、関係省庁で対応にあたった。外交ルートを通じてロシア側に「極めて遺憾」と厳重に抗議するとともに、再発防止を強く求めた。

 統幕によると、ロシアのIL38哨戒機1機は9月23日午後1時3~4分ごろ、同3時31分ごろ、同3時42~43分ごろの計3度にわたって領空侵犯。対応した空自機は領空に近づかないように無線を通じて呼び掛けたほか、自らの機体を揺らして退去するよう警告を続けた。

北海道・礼文島付近の領空を3度にわたって侵犯した「IL38」哨戒機の飛行ルート(統幕発表資料から)

 ロシア軍機はジグザグと碁盤の目を描くように飛行しており、齋藤海上幕僚長は24日の定例会見で、一般論と前置きした上で「対潜水艦戦訓練の時にこのパターンで飛行する時がある」と話した。

 3度目の侵犯の際、強い警告の意思を伝えるためにフレアを発射した。フレアはミサイル攻撃を回避する際などに機体から射出されるもので、強い警告の意思を示す時にも用いられる。防衛省はフレアの発射は武器使用にはあたらないとしている。

 木原防衛大臣は24日の閣議後会見で、今回のロシア軍機の領空侵犯について「挑発的な行動と考えてもおかしくない」と説明した上で、「今後も警戒監視、対領空侵犯措置に万全を期していく」と強調した。また、22日、北海道・奥尻島付近で中露艦艇8隻が確認されたことを踏まえ、木原氏は「関連している可能性がないとは言えない」と分析した。

 防衛省によると、旧ソ連時代を含めてロシア機(推定を含む)による領空侵犯を確認し、公表したのは昨年10月以来で44回目。このうち、えい光弾と実弾を発射する「信号射撃」を実施したのは昭和62年に旧ソ連の電子偵察機が沖縄本島などの領空を侵犯した時のみ。

 今回の領空侵犯事案を含め、日本を取り巻く安全保障環境が近年は一層厳しくなっている。8月26日は中国軍機が領空侵犯したほか、同月31日は中国海軍測量艦が領海内、9月18日には中国海軍空母が接続水域内で初めて航行しているのを確認した。

 こうした中、防衛省は中露の軍事動向を引き続き注視し、警戒監視を実施する考えだ。

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