平成7年に発生した地下鉄サリン事件で成分分析などを実施した陸上自衛隊化学学校(学校長・榑林陸将補)が、国際機関「化学兵器禁止機関(OPCW)」から、日本初となる指定ラボに認証された。同校の化学剤分析能力の高さが国際的に認められた。指定ラボとなったことで、紛争地域などで化学兵器の使用疑義が発生した場合に有毒物質を分析・調査することができ、国際貢献にも寄与することができる。

 OPCW指定ラボは、化学兵器疑義事案が発生した場合にOPCWからの依頼を受け、現地から採取したサンプルを調査・分析する役割を担う。指定ラボに認証されると、OPCWが蓄積した有毒物質に関する最新データを手に入れることができ、事態対処能力を向上させることができる。 

陸上自衛隊化学学校の研究部が入った研究棟

 指定ラボの認証分野は、水や土壌などを分析する「環境」と血液などを分析する「生物・医療」の2つに分かれている。今回、化学学校は環境分野における指定ラボの認証を受けた。

同学校の担当者は「最近の化学兵器は神経剤『ノビチョク』系の毒物など、さまざまな有毒物質が使用されている。OPCWで得られるデータは貴重だ」と話す。

 指定ラボとなるにはOPCWの技量試験に合格しなければならない。試験内容は化学兵器に使用されている有毒物質を分析し、どのような物質が含まれているかを判別する。試験は少なくとも年に1回は受験し、直近3回の試験で、評価「A」3回または、「A」3回と「B」1回の高評価を得ることが条件。

 同学校では6年ほど前から認証に向けた分析試験を受けていた。昨年からの技量試験で、3回とも「A」を獲得し、今年8月に指定ラボに認証された。このほか、国際標準化機構(ISO)が定めるISO規格の取得も義務付けられており、同学校では今年3月に取得した。認証を得てからも一定の照準を維持するために年に一度の技量試験を受けなければならない。

 OPCW指定ラボに認証されたことを受け、9月25日には陸自化学学校がある大宮駐で、記念行事が開かれた。木原稔防衛大臣も出席し、同校の指定ラボ認証を祝った。

木原防衛大臣や森下陸幕長らが記念行事に出席

 主催者を代表して化学学校長の榑林将補が「OPCWの協力を通じて、大量破壊兵器の拡散と防止に寄与していきたい」と期待を寄せた。

 また、木原大臣は「今回の指定ラボの認証を受けて、化学学校の新たな研究施設の建設など機能強化を図る」と明かした。

 OPCWラボ長のダニエル・ノート氏が来賓を代表してあいさつし、「今回の認証は日本にとっては大きな功績だ。OPCWの活動について、日本が継続的に貢献することは非常に重要なことだ」と同学校の指定ラボ認証を歓迎した。

 指定ラボとしての本格稼働は、国内手続きを経て、今年度末に日本政府とOPCWの間で技術協定書を締結してからとなる。防衛省は今後、同学校の研究施設を新たに建設するほか、分析機器の導入や人員の増員を進める方針だ。

OPCW

 1997年5月にオランダ・ハーグで設立され、世界的な化学兵器の全面禁止や不拡散のための活動を行っている。これまでの活動に加え、「化学兵器のない世界」を目指した広範囲は努力が評価され、2013年にはノーベル平和賞を受賞した。24年9月現在、米国や中国、韓国など25カ国、33機関の研究所が指定ラボとして認証されている。この中には国立研究所もあるが、主に軍事機関の研究施設が多いという。