電気設備の保安管理を担う全電協(本社・東京都中央区)には、かつて日本の国防を担った元自衛官たちが「電気主任技術者」として国民生活を支える電力の安定供給のために汗を流している。自衛隊で培った機敏な動作や状況を把握し、自らの判断で行動する能力は社内外でも高く評価されている。元自衛官たちの結束力も固く、笑顔が絶えない職場だ。『日本を護る』のコーナーで紹介した全電協の第3弾は、社会貢献を続ける企業などを取り上げる特集『支える』の一つとして、元自衛官たちに焦点を当てる。そこには、元自衛官の積極採用のきっかけとなった陸上自衛隊元幹部の存在があった。

保安管理は24時間体制

全電協株式会社ホームページより

 全電協では、電気主任技術者の資格を持った人材が24時間体制で大型施設の高圧変電施設の保安管理業務を担う。

 元自衛官は18人いるほか、予備自衛官の社員も2人いる。

 社内における元自衛官の評価は高い。基本的な作業に加え、周囲の状況を把握し、どんな作業が必要か、自ら判断することができる。高圧変電施設の保安管理業務はチームで行う場合もあるが、基本的には点検作業や結果報告は全て一人でこなす。

 作業内容で分からないことがあれば、先輩OBが懇切丁寧に指導してくれる。こうしたこともあり、元自衛官の点検作業による事故はゼロだ。

指差呼称(指差し確認)

 山口政雄代表取締役社長は「元自衛官たちは常に指差呼称(指差し確認)を実施するなどの基本的な作業ができている。こうしたことが無事故につながっている」と語る。

活気あふれる「OB会」~分かり合える仲間~

 同社では元自衛官の日頃の業務をねぎらうために「OB会」を毎年6月と11月の2回開催している。今年5月31日にも本社ビルの1階にあり、グループ企業が運営するアウトドアカフェ「REWILD OUTDOOR TOKYO(リワイルド アウトドア トーキョー)」で開催され、元自衛官ら約20人が出席した。

和やかに始まったOB会

あいさつをする山口社長

 山口社長が会の冒頭、あいさつをし、「多くの元自衛官がわが社で働いている。これは誇るべきことだ」と強調した。その後、元自衛官を雇用するきっかけをつくった同社顧問で陸上自衛隊中部方面総監(元陸将)を務めた松島悠佐氏(85歳)が「人間が大事だ」と語り、人材を大切にする同社の在り方に賛同した。

 歓談のひとときを過ごした参加者らは、最後には肩を組み「同期の桜」を合唱し、会を締めくくった。

「同期の桜」を合唱

肩を組み分かち合うOBたち

80会会長の小林さんを見送る山口社長

 「一生現役」を標榜(ひょうぼう)する同社では80歳以上の社員を集めた「80会」も存在する。現在は13人が会員。年に1~2度集まり、親交を深めている。会長を務めるのは86歳の小林進さん(元3空尉)だ。

 国民の生命を護(まも)った元自衛官は今、国民の生活を支えるために奮闘している。

OB会集合写真

きっかけは松島元陸将との出会い|山口社長

 全電協が元自衛官を積極的に雇用するようになったきっかけは、同社の山口政雄社長と元陸将の松島悠佐氏との出会いがある。山口社長は先輩の紹介で松島氏が主宰する「松島塾」の勉強会に参加した。自ら考え、判断する優秀な自衛官の姿を松島氏から教えてもらったという。

左から:顧問会長の金野氏、松島氏、山口社長

 阪神淡路大震災(平成7年)の発生当時、松島氏は、中部方面総監として自治体との連携が不十分な中、未曽有の大規模災害派遣を指揮した。山口社長は松島氏について、「自分の判断で災害派遣の準備を進め、多くの人々を救った人物。そこに感動した」と語る。

 地震発生直後、松島氏は派遣準備を始め、いつでも被災地入りできるように態勢を整えた。数時間後、兵庫県が派遣要請を出した。山口社長はこのエピソードを聞き、地本援護課に連絡を取り、退職自衛官の求人を募るようになり、松島氏を同社の顧問として迎え入れた。

インタビューに応える山口社長

 元自衛官の働きぶりを山口社長は「真面目で、規律性もあり、優秀だ。そして松島さんのように自分で考え、判断する行動が身についている」と評価する。

 全電協では、電気施設の保安管理業務を行う「電気主任技術者」の資格を持っていれば一生、現役で働ける。山口社長は「今後は60人まで増やしていきたい」と期待を寄せる。

自衛隊と全電協の共通事項は「安全」

 松島悠佐氏は、自衛隊での経験、知見を踏まえ、社員ら向けの特別講演などで自らの思いを伝えている。

 阪神淡路大震災の際、知事からの派遣要請がなかなか出なかった。その間、松島氏は指示を出せない状態でいた。そんな中、各地の部隊から神戸へ続々と向かっているという情報が寄せられる。

 「普段から『指示待ちの人間にはなるな』」と教えていた松島氏は、準備の重要性、いざというときの即動できる態勢づくりがいかに大事なのかを改めて強く思い、覚悟を持って示した(令和4年7月27日の全電協特別講演)。

講演会の様子

 当時、地域には「自衛隊は嫌いだ。来なくていい」などの意識があったという。しかし、自衛隊の活動が始まり、自衛隊の存在の大きさを人々が認識することとなった。こうした経験は、東日本大震災(平成23年)に初動に向けた態勢づくりなどの教訓として生かされた。

 令和3年8月23日の特別講義では、自衛隊と全電協の「共通事項」は「安全」にほかならないことを強調。「安全を確保するというのは、『安全を作り出すこと』と、『安全を実行すること』だ」と。そこには、「安全を作るのは会社の仕事。安全を実行するのは皆さんの仕事」の言葉があった。

 安全は実行しないと何もならない。いくら安全教育をしても、実行されなかったらおしまいという。「2つががっちりと合えば、すごい会社になる」。松島氏はそう力説し、従業員を鼓舞し続けている。

 松島 悠佐氏(まつしま・ゆうすけ)昭和36年、防衛大学校卒業(第5期生)後、陸自に入隊。ドイツ連邦共和国防衛駐在官、北部方面総監部幕僚副長(札幌)、陸上幕僚監部防衛部長、8師団長(熊本)などを経て、平成5年から7年まで中部方面総監(伊丹)を務めた。7年に退官。23年春の叙勲で瑞宝中綬章を受章。29年7月に全電協顧問に就任した。

食事会の席にて

【自衛官OB特集】今も昔も、そしてこれからも㊤㊦

 平成元年10月に設立。主な業務は高圧電気を低圧に変換して照明器具などに電気を供給する「高圧受変電設備(キュービクル)」の保安管理業務や電気工事。従業員は1~3種電気主任技術者などの有資格者を含め、約350人。関東1都6県と静岡県、愛知県、大阪府に16の拠点を持ち、24時間体制で保安管理業務に携わっている。特に東京電力管内は100%カバーする自社ネットワークを生かし、緊急時にも即座に対応できる体制を整える。 

全電協株式会社
〒103-0025
東京都中央区日本橋茅場町2-1-13
03-3808-2411
https://www.zendenkyo.co.jp/

→防衛日報7月31日付PDF