「災害関連死」-災害による外傷などの直接的な原因と、厳しい環境やストレスなどの間接的原因によりなくなる方々を指す言葉だが、今回は今も続いている災害関連死、特に間接的原因について考えていただきたい。災害発生後、生き残れたにもかかわらず生き続けられないとはどういう事か。それは、私たちの意識を変えることで救える命かもしれない。

トリアージ(応急危険度判定)

 能登半島地震から半年が経つ今もまだ、過酷な避難所生活を強いられている被災者が多く存在する事をご存じだろうか?

 被害を受けた家屋は8万棟弱、そのうち10%強が全壊と発表されているが、半壊とされていても住む事の出来ないほど損傷を受けている家屋は多くある。

 参考までに、解体しなければならないとされている家屋は2万棟以上あると言われており、ざっと計算するだけで25%は確実に住めない家屋という事になる。

 家屋調査のトリアージ(応急危険度判定)は、緑「調査済み」黄「要注意」赤「危険」とこの3つに分けられる。もし、あなたの家に貼られた判定ステッカーが黄色だった場合、そこで生活する勇気はあるだろうか?

 解体が必要とされる家屋には全て赤色の「危険」が貼られている。黄色まで住めないと考えたら発表されるより多くの被災者が家を失っている事となる。

 そして解体は全く進んでおらず、現時点で解体完了しているのは一桁%と先行きは全く見えない。この影響もあり1月から断水のままの家屋がまだ43,800戸弱もある。(2024年6月末時点)

被災者が抱えるストレス

 自分の家があり、部屋があり、ゆったり過ごせる空間が当たり前にある。電気も水も当たり前に使え、飲食もトイレも気にする事はない。

 が、被災者はどうだろうか?

 自分の家に帰ることはできす、プライベートスペースがない避難所で過ごすこととなる。発災直後はパーテーションの仕切りすらなく、仕切られたとしても、盗難や性被害などの犯罪を防ぐ観点から、高さは低くされており、立ったら他人のスペースが丸見えとなる。

 たとえ知っている人、仲良くしている人であっても、自分の寝ている姿などは見られたくないだろうし、人の話し声も耳障りとなる場合もある。小さな子どもはじっとしていられないし、恐怖や不安から小学生でさえ夜泣きをする子もいる。

 四六時中、人の目を意識しながら、迷惑をかけないように気を遣ったり、我慢をしたりするのは、かなりのストレスがかかっている。

 そしてトイレ問題。

 仮設トイレが使用できるのは健常者だけである。高い段差だけでなく、排泄物を流す際に、よく見かける踏み込むタイプは足の力が必要となる。そして、多くが和式なので高齢者だけでなく若い世代の人たちも使えない(使いたがらない)場合がある。

 最近は普通の水洗トイレと変わらないような仮設トイレも出てきたが、圧倒的に少く、やはり仮設なので段差は出来てしまうのと、トイレまでの距離、人の目や、臭い、音、排せつ物の処理など通常と違う様々な課題が起こることから、なるべくトイレに行かないようにしてしまう。

 私は被災地へ赴く際、オムツを履き、簡易トイレの用意ももちろんして行くのだが、朝現地入りする前にトイレに行ったきり、夜まで履いてきたオムツや簡易トイレを使わなかった。排泄コントロールをしたのである。

 私の場合は数日間だが、被災者は先が見えない長い期間、人の目を気にしたり使いにくさや不衛生などの理由から排泄をなるべくしないようにと、食べる飲むの制限を意識し排泄コントロールをしてしまうのである。

災害関連死の原因

 災害関連死の多くは気管支炎、肺炎、心不全や脳卒中などで、高齢者が中心となるが、よく耳にするエコノミークラス症候群は若年者でも発症している。

 気管支炎や肺炎は、細菌やウイルスを吸い込むことから発症する。細菌やウイルスは空気中に舞うだけでなく床にも落ちた埃とくっつく。そして、人の動きに比例して空気も動くので、避難している人数が多ければ多い程、空気は動き、埃が舞いそれらを吸い込んでしまうのである。

 上記に挙げたストレスと排泄コントロールも、災害関連死を招く大きな原因となる。

 人はストレスを感じると血管が収縮してしまう。血管が収縮すると、血流は悪くなり、臓器の働きも悪くなる。そこに水分を取らないなどの排泄コントロールが加わると、血液はドロドロになる。特に血管の収縮が堅くなっている高齢者は循環器疾患を起こしてしまう。

 加えて避難所生活は狭い空間にずっといるため、身体を動かさないことでエコノミークラス症候群も起こしやすい。

 平時には起こらないこの「災害関連死」は、簡単にお伝えすると「生き残れても生き続けられない命」である。

生き続けられなかった命、とは?

 この平和で便利で住みやすく、清潔な日本で「生き続けられない命」とはどういうことか?災害関連死は過去の災害でもずっと起こっており、前例のない事ではない。

 発災後の日本の体制は毎回応急処置程度にしか過ぎず、無償ボランティアと寄付に頼っている。しかし、ボランティアは続かず、寄付も続かないのが現実だ。

 1か月もすれば、変わらぬ状況は報道すらされなくなり、「災害は流行りもの」と、解決する前に忘れられるのは日本独特と私は思う。だから何も変わらず、のど元過ぎれば熱さを忘れ継続的な対策を講じるまでいかないのである。

 そして当てにならないと知りながら、公的な補助に期待し、自分の命を他人に委ねる依存型となり、結果同じことが繰り返されては忘れ去られるのである。

 海外と比べては批判を受けるかもしれないが、海外は有償ボランティアの体制をしっかり作っているところが多く、発災後から復旧までの計画がしっかり整っている為、いつまでもダラダラもしなければ、寄付に頼りもしない。今年でいうと台湾の対応の速さが分かりやすい例である。

 過去に失われた命を無駄にしないよう、平時の内にしっかりと対策を整えておけば「生き続けられなかった命」を「生き続けられる命」に変えることができるのである。

意識を変える

 いろいろとお伝えしたが、私が変えたいのは「体制」ではなく「意識」である。

 有事に対するしっかりとした対策と法整備が成されることがいちばんの理想ではあるが、その理想がずっと後回しにされ繰り返す。毎年どこかで何かが起こり、解決する前にまたどこかで何かが起こる。そしてその多くは私たちの意識の薄さ「人災」が被害を大きくしてしまうという事実だ。

 「意識」が変われば「知識」を持ち、これらが変わる事で「行動(体制)」は変わる。

 いくら体制を変えようとしても、意識が変わらなければ活かされることは難しいのである。

 次の災害で失われる命が、もしかしたら自分の大切な人の命かもしれない。しかしそれは救える命かもしれない。

 だから一人ひとりに知って欲しい…自分の大切な命を救えるのは自分の意識と知識、そして行動力だという事を。


「Re防災project」災害対策のシートベルト化の実現に向けて

 時代の変化と共に災害対策をアップデートし続ける災害対策の日常化、「災害対策のシートベルト化」を実現させるためには、『強い地域づくり』が必要である。それには産官学民連携での意識改革と継続的な取組みが必須で、このどこが欠けても強い地域づくりは出来ず、災害弱者は増え続ける一方である。「産官学」が連携し「学民」の強化に繋げ、それが本当の意味での「国土強靭化」となる。

 アスプラウト株式会社代表取締役である喜多村建代さんは、これらの取組みを「Re防災project」とし、2024.3.15より社団法人を立ち上げた。

プロフィール

喜多村 建代

アスプラウト株式会社 代表取締役
一般社団法人Re防災project 代表理事
一般社団法人住環境創造研究所 企画広報部長
日本防災スキーム株式会社 パートナー

15年間専業主婦の経験から、主婦目線、母親目線、民間目線と、プロ目線だけでは見落としがちな部分に焦点を置き、同じ志を持つそれぞれのプロフェッショナルとタッグ組んで、あらゆる対策に対しての柔軟で的確なサポートを行う。

感震ブレーカー開発者との出会いから災害対策に関わる事業に加わり、その後会社設立。
震災時火災、停電対策、防災教育などを中心に活動を拡げる。

「防災~明日を考える~」

 「防災~明日を考える~」は、日頃からの防災意識を高めてもらい、いざという時のための役立つ情報発信の場として立ち上げた防災コンテンツです。
 防災には、「自助・共助・公助」があり、みなさんも耳にしたことがあると思います。自助は自分自身、共助は地域で、公助は国(公的機関)が行うものです。防衛日報社では特に“自助”に焦点をあて、防災アイテムや防災に携わる企業を紹介するとともに、実際に防災に取り組まれている個人、団体のみなさまのご意見をコラムとして配信していきます。バックナンバーは下記からご覧ください。