スタートアップ企業の株式会社AirKamuy(エアカムイ)は固定翼VTOL(垂直離着陸機)の実用化に向け、開発を進めている。固定翼VTOLはマルチコプタードローンよりも速度が速く、航続距離や飛行時間が長いといった利点があり、自衛隊や海上保安庁なども関心を寄せている。同社が開発する固定翼VTOLはその利点に加え、離着陸時に主翼を折りたたむことができ、狭い場所も運用できるのが特徴だ。同社の代表取締役兼CEO(最高経営責任者)を務める山口拓海氏は令和9年の完成を目指し、「さらなる改良を進める」と意気込む。

電動とハイブリットの両タイプを開発

 株式会社AirKamuyが開発している「AirKamuy Σ-1(エアカムイ シグマワン)」は警戒監視や捜索救助、物流など幅広い用途での活用を想定。現在は電動タイプに加え、電動とガソリンのハイブリッドタイプの2種類の開発を進めている。

5月5日の飛行実験で大空を舞う「AirKamuy Σ-1」の試作機

 全長は縦1・9メートル、横3・5メートルだが、離着陸時は主翼を折りたたむことで横が1・4メートルとコンパクトなサイズとなり、狭い船上などでの運用も容易にできるという。機体の重さは約28キロ(ハイブリッドタイプ)で、両タイプともにペイロードは約10キロで、電波を使って地表の詳細な画像を作成する合成開口レーダー(SAR)やカメラなどの装備品を搭載することもできる。

 巡航速度は約85キロと、通常のマルチコプターよりも速い。5キロの荷物を搭載した場合の航続時間は、電動タイプは約1時間半、ハイブリッドタイプは約6時間の飛行が可能だ。航続距離は同様の条件で、電動タイプが約125キロ、ハイブリッドタイプが約510キロとなる。

ジェット燃料対応の機体も

 サイズをさらに大きくし、ジェット燃料にも対応できる機体の開発も視野に入れる。海上自衛隊や海外の海軍の艦船では戦闘機などの航空機に使用するジェット燃料が積載されている。同社が開発する機体もジェット燃料を活用することができれば、効率的に運用することができる。

砂ぼこりをあげて力強く飛び立つ試作機(5月5日の飛行実験の様子)

 機体の開発にはバッテリーと燃料の重さがカギを握る。軽すぎると遠くまで飛ばす、重すぎても同様で、装備品を搭載することもできない。山口氏は「その最適解を見つけたい」と開発の難しさを語る。今後の開発については「大手自動車メーカーでハイブリットの研究開発に従事した人物を新たに迎える」と研究開発を加速させる考えだ。

鳥人間コンテストの仲間たちが再結成

「仲間たちと世界最高性能の固定翼ドローンをつくりあげたい」と語る山口氏

 令和4年8月19日に設立された同社。山口氏の出身大学である名古屋大学の機械・航空工学科(現:機械・航空宇宙工学科)時代に鳥人間コンテストに参加した仲間たちが集まり、ドローン開発に挑んでいる。山口氏は「若い技術者が集まり、機体やソフトウェアも自社で開発している。その分時間はかかるが、納得のいくものができあがる」と話す。

 5月5日には愛知県犬山市で飛行実験を実施し、電動タイプを中心に飛行データの収集を行った。山口氏は「今回の試験飛行では多くのデータを集めることができたほか、課題も洗い出した。実用化に向けて着実に進んでいる」と語り、さらに実証実験を進める考えを示した。また、同社は6月5日から7日まで、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催される「Japan Drone 2024」にAirKamuy Σ-1の試作機を展示予定だ。山口氏は「試験飛行で実際に大空を舞った試作機を多くの方々に見てもらいたい」と来場を呼び掛けている。

株式会社AirKamuy

 アイヌ語の「神威」をもとにした社名を持つ同社には、航空機メーカーで無人機設計や、学生時代に人力飛行機の設計製造の経験を持つエンジニアたちが集まった。部品は一貫して自社開発するほどのこだわり。エンジニアたちは日本から世界最高性能のドローンを誕生させるために日々、開発に汗を流す。

ホームページ=https://airkamuy.com/about/

本社所在地=愛知県名古屋市緑区ほら貝1-38-1