国際社会、戦後最大の試練に
スタンド・オフ防衛能力の構築前倒し

 日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しくなる中、さらなる防衛力の抜本的強化が求められる。「戦略(安保)3文書」の改定から2年目を迎えた令和6年。防衛省・自衛隊は、改めて部隊・艦艇の射程外から攻撃する「スタンド・オフ防衛能力」やドローンといった「無人アセット防衛能力」などを将来の防衛力の中核と位置付け、その態勢づくりを本格化させる年でもある。周辺諸国の脅威にどう立ち向かうのか。南西諸島の守りや、日米同盟の今後の行方はーー。新春特別インタビューでは、木原稔防衛大臣に登場してもらった。「自衛官は日本の宝」と語る木原氏に、日本の防衛の今、そしてこれからについて聞いた。(聞き手=防衛日報社取締役・岳中純郎)

木原 稔氏(きはら・みのる) 
昭和44年8月12日生まれ、54歳。熊本県出身。早稲田大卒業後、航空会社勤務を経て、平成17年の衆議院選挙で初当選。自民党安全保障調査会幹事長、総理大臣補佐官(国家安全保障担当)、防衛大臣政務官などを歴任。衆院熊本1区選出。当選5回。茂木派所属。

 ーー明けましておめでとうございます。令和6年度は防衛力整備計画の2年目となります。まずは、防衛力抜本的強化に向けた意気込みをお聞かせください。
 木原稔大臣 「令和9年度までの最優先課題は、現有装備品を最大限活用するための可動率向上や弾薬・燃料の確保、主要な防衛施設の強靱(きょうじん)化への投資に加え、スタンド・オフ防衛能力や無人アセット防衛能力といった将来の中核となる能力の強化です。このような課題に対し、令和6年度についても全身全霊、職務に邁進(まいしん)していく所存です」

 ーー昨年、米国の「トマホーク」の納入や国産スタンド・オフ・ミサイルの製造態勢の拡充に向け、前倒しする方針を決定しました。改めて大臣のご見解は。
 木原大臣 「国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、東アジアにおいても、国際秩序の根幹を揺るがしかねない深刻な事態が発生する可能性が排除されません。中国は、わが国周辺での軍事活動を活発化させ、北朝鮮は、固体燃料推進方式の新型ICBM級弾道ミサイルの発射や衛星打ち上げを目的とした発射を強行し、ロシアとの連携強化の動きを見せるほか、ロシアは、わが国周辺で中国とともに艦艇の共同航行や爆撃機の共同飛行を実施するなど、活発な軍事活動を継続しています。いついかなる形で力による一方的な現状変更が生起するかは、予測困難です。スタンド・オフ防衛能力の構築の前倒しを行うことが必要と判断し、その旨指示をしました」

同盟は安全保障政策の基軸
日米抑止力・対処力強化を具体化

 ーー日米同盟の強化は欠かせません。米国のカウンターパートともなる常設の「統合作戦司令部」(仮称、今年度末設置)などを含め、日米の連携に向けてのお考えは。
 木原大臣 「日米同盟は、引き続きわが国の安全保障政策の基軸です。昨年10月の訪米でオースティン米国防長官との間で、日米同盟の抑止力・対処力の強化に向けた具体的取り組みを着実に進めていくことを確認したところです。その会談の結果も踏まえ、統合作戦司令部の設置を見据えた日米間の連携要領の在り方を含め、同盟の役割・任務・能力について、しっかりと議論を進めたいと考えています」

 ーー「自由で開かれた太平洋」に向けた日米豪印4カ国の取り組みが進められています。
 木原大臣 「4カ国の防衛当局間でも昨年8月、4年連続で共同訓練『マラバール2023』を実施しました。今後も4カ国の防衛当局間での具体的な協力の機会を追求してまいります」

◆東南アジア

 ーー東南アジア、とくにフィリピンとの連携については。
 木原大臣 「東南アジア諸国は、わが国のシーレーンの要衝を占めるなど、戦略的に重要な地域に位置しています。また、フィリピンは米国の同盟国でもあり、防衛協力・交流を進展させることは重要です。これまで、ハイレベル交流のほか、艦艇の訪問や防衛当局間協議など実務者交流、軍種間交流を頻繁に行ってきました。また、能力構築支援を通じ、フィリピン軍の災害対処能力や海洋安全保障の向上を支援してきています」

 ーー防衛装備協力では、海外への初の完成品移転案件もありました。
 木原大臣 「日本製警戒管制レーダー・4基をフィリピンに納入する契約が2020年に成立し、昨年10月に1基目が納入されました。ほかにも、海自練習機TC90や多用途ヘリコプターUH1Hの部品の無償譲渡をしてきたところです。昨年6月には日米豪比防衛相会談を行い、また、8月には南シナ海で日米豪比4カ国の海軍種共同訓練、米哨戒機に4カ国の艦隊司令官らが搭乗した状況視察を実施しました。東南アジア諸国との防衛協力・交流をより強化するとともに、日米比3カ国、日豪米比4カ国の防衛協力をさまざまなレベルで継続・強化してまいります」

◆南西防衛

 ーー南西地域の防衛強化についてのお考えは。
 木原大臣 「島嶼(とうしょ)防衛に万全を期すためには、全国各地から島嶼部に各自衛隊の部隊や装備品などを輸送する必要があり、海上輸送力の強化が重要です。島嶼部へは、海上自衛隊の輸送艦(「おおすみ」など)やPFI船舶(「はくおう」など)といった大型級船舶に加え、『自衛隊海上輸送群(仮称)』(6年度)を新編し、本土と島嶼部間の輸送を実施可能な中型級船舶、水深の浅い島嶼部の港湾にも輸送を実施可能な小型級船舶、小型級船舶では接岸できない島嶼への輸送を実施可能な機動舟艇の各種輸送船舶を導入することにより、大小多くの島々が点在する南西諸島において、より迅速かつ確実な輸送が可能になると考えています」

防衛装備品の輸出
防衛産業の強み生かし連携

◆新領域

 ーー宇宙・サイバー・電磁波の新領域の組み合わせによる能力の強化が求められています。具体的な対策は。
 木原大臣 「宇宙領域では、情報収集、通信、測位などの機能の向上や、宇宙領域把握(SDA)能力の強化、宇宙専門部隊の増強など。サイバー領域では、『リスク管理枠組み』などの新たな取り組みの導入や、サイバー専門部隊の約4000人体制への拡充など。電磁波領域では、通信妨害やレーダー妨害能力の強化などによる電子戦能力の向上や、レーザーなどを活用した小型無人機への対処など電磁波の利用方法の拡大などに取り組んでいるところです。これまでのやり方にとらわれない柔軟な発想を持つことが重要と考えています」

 ーー防衛装備品の輸出へ向けた動き、英伊との次期戦闘機の共同開発など日本に大きな期待が寄せられています。
 木原大臣 「民生品の製造における高い技術水準や産業競争力を背景として、わが国の防衛産業における生産能力や技術水準についても国際的に高い評価を受けていると認識しています。こうした強みを生かし、自由で開かれた国際秩序の維持・発展と同盟国・同志国などとの連携の強化を進めてまいりたいと考えています。他方、サプライチェーン上のリスクなど、防衛生産・技術基盤を取り巻くさまざまなリスクが存在しており、対応も必要です。サプライチェーンの強靱化、製造工程効率化といった取り組みを進めています。また、企業の適正な利益を確保するため、今年度から、企業における生産管理に係る努力を評価し、結果に応じて5~10%の幅において利益率を設定するほか、契約履行期間に応じ、1~5%のコスト変動調整率を付加して予定価格を算定する方式を導入するなど、防衛事業の魅力化のための取り組みも行っています」

「自分は自衛官」胸張れる環境作る

 ーー地本や部隊のイベント参加者から「自衛隊のイメージが変わった」という声がよく出てきます。国民にアピールする上で、自衛隊に必要な心構え、気持ちをお聞かせください。
 木原大臣 「世論調査などをみると、自衛隊が『一番信頼のおける組織』との回答が多いのです。日頃の地道な活動の表れです。災害対応のほか、鳥インフルエンザや豚熱などの疫病にも対応している。有事以外の任務で、国民と密接に関係する機会が増えました。自衛官の真摯しんしな態度や真面目に取り組む姿勢などが国民に直接伝わったという側面もあると思います。われわれの活動は国民の理解が不可欠です。その上で、国を守るという意識が国民の皆さんに根付いていくものだと思っています。そういう意味では、自衛官一人ひとりが常に、国民から見られているという意識を持たなければならない。自衛官の立ち居振る舞いは、防衛省・自衛隊の立ち居振る舞いにつながります。それこそが将来、自衛官になりたいと思う子供たちや学生たちが増えていく要因にもなると思います」

 ーー最後に、現役の職員、隊員へぜひ、これだけは伝えたいということがあれば、ぜひお話しください。
 木原大臣 「年末年始でも休まず働いている自衛官もいます。海外派遣中の自衛官や、24時間、365日、交代勤務でレーダーサイトでの防空任務や、サイバーセキュリティーなどを担う自衛官たちです。こうした全ての隊員に対しては心から敬意と感謝を表したいと思います。基地や駐屯地を視察した時は、『防衛力の中核は自衛隊員である』と訓示しています。自衛隊員一人ひとりがいるからこそ、日本を守りぬくことができる。働きやすい環境を構築することが私の仕事だと思っています。今年はそれを大きな柱にしていきたいと思います」

 ーー具体的にはどのような取り組みを。
 木原大臣 「パワハラ、セクハラなどのハラスメントを一切許容しない組織にしていきます。防衛省・自衛隊では、今年1月を『防衛省職員ハラスメント防止月間』と定め、ハラスメント防止教育などを集中的に行います。また、自衛官の生活環境や勤務環境を整えるためにも、さまざまな手当を増やすなど処遇の改善を進めます。これに加え、援護にも力を入れていきます。自衛隊は一般の職業に比べて定年が早い。再就職の支援をしっかりやっていくことで、自衛官の高い士気と誇りを保ち続けることができると思っています。退職後も胸を張って『自分は自衛官だった』と言えるような環境を作っていきたいですね。今、申し上げた側面から『日本の宝』である自衛官とともに、今年1年もあらゆる施策を講じていきたいと思います」

全て撮影は防衛日報社

<編集部より>

 令和6年が明けました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 新年早々、正月気分を一気に吹き飛ばすような大きなニュースが続きました。日本酒大好き人間としては、おいしいお酒が入っている徳利を一瞬、手放さざるを得ないほどの緊張感にあふれました。自分のことはさておき、「能登半島地震」では自衛隊が人命救助などの活動に懸命に取り組んでいます。大変な状況の中、今回の地震では警察、消防などの応援要員を運ぶため、支援物資を運ぶため、手厚い装備を持っているからこその自衛隊には国から、国民から大きな期待が寄せられています。

 本日は防衛日報の新年初発行日。安全保障環境が厳しさを増す中、防衛力整備計画2年目となる今年は、日本の安心・安全を任される防衛省・自衛隊にとっては、まさに覚悟と決意の1年となります。1~2面ではその重大な責務を抱え、陣頭指揮を執る木原稔防衛大臣に登場してもらいました。12月のある一日、国会などで多忙を極める中での取材でしたが、快く応じてもらい、日本の防衛の今、これからについて存分に語っていただきました。不肖・私自身も同席し、大臣の「日本を守る」熱き思いに触れることができました。

 詳細はご覧になっていただければと思います。大臣は党の安全保障調査会の幹事長や国家安全保障担当の総理大臣補佐官だけでなく、防衛大臣政務官も歴任しています。インタビューに答えている姿、言葉を見て聞いていて感じたのは、「安全保障のプロ」だということです。大臣ですから、あまり踏み込んだことが言えないのは当然ですが、手元にメモは持っているものの、話が続くにつれ視線は取材陣に向けられ、われわれを見ながら持論、思いのタケを語ってくれました。日本の防衛について、ずっと前から考え、取り組んできた人なのだろう、と率直に思った次第です。

 昨年9月の着任後間もなく、南西諸島を視察したり、昨年4月のヘリコプター事故の犠牲者が所属する拠点の熊本にも足を運んでいました。日本の防衛にとって今、最重要課題の一つとなっている南西諸島を確認したり、「仲間」を失ったことへの追悼の気持ちを伝えるなど、真っ先にこうした動きを見せていたのは、大臣として、また、多くの自衛官を束ねる立場としての責任感があればこそではなかったでしょうか。    

 「自衛官の真摯(しんし)な態度、真面目に取り組む姿勢などが国民に直接伝わった」「全ての隊員に対して心から敬意と感謝を表したい」「自衛官一人ひとりがいるからこそ、日本を守りぬくことができる。働きやすい環境を構築することが私の仕事だと思っている」「退職後も胸を張って『自分は自衛官だった』と言えるような環境を作っていきたい」「自衛官は日本の宝」…。数々の言葉からは大臣の国防、自衛隊、自衛官への強い気持ちがヒシヒシと伝わってきました。

 本日は「編集後記」のような内容になり、失礼しました。日本をめぐる安全保障環境は戦後最悪といわれています。課題も山積しています。防衛日報でも新たな指揮官の動きや言葉を可能な限りお伝えするとともに、地本、部隊からの報告に感謝しながら、少しでも多く、より分かりやすい紙面の編集に取り組んでいく所存です。

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→防衛日報1月5日付PDF