電気設備の保安管理業務などを担う全電協(本社・東京都中央区)は元自衛官を積極的に雇用している。50歳台半ばで退職する若年定年者(幹部、准尉、曹)のほか、任期制自衛官など若年退職者(20~30代半ばで退職)の多くが勤務している。保安管理業務で必須となる「電気主任技術者」(電験)の資格を持っていれば一生涯働けるのが同社の特長だ。高齢の元自衛官も現役を貫いている。かつて国を護(まも)った自衛官は今、社会のインフラを支える防人として24時間体制で日本の電気設備を見守っている。

高圧受変電設備(キュービクル)

  国内の病院や学校、商業ビルなどの大型施設では高圧の電気を受けており、使用設備に応じた電圧に変換する「高圧受変電設備(キュービクル)」を通じて施設内に電気を供給している。こうした施設で、定期的に高圧受変電設備の点検を行い、異常がないことを確認するのが電気主任技術者の仕事だ。必ず配置しなければならないと法律で義務づけられている。

〝レジェンド〟86歳の小林さん
 全電協では、電気主任技術者の資格を持った人材が24時間体制で大型施設の高圧変電施設の保安管理業務を担う。その中には現在、在籍している18人の元自衛官の存在が大きい。社内最高齢の86歳で現在も第一線で活躍する小林進さん(元3空尉)もその一人。社内では〝レジェンド〟と呼ばれ、埼玉県南部や東京都北部を担当しており、月間約30件の仕事をこなす。これまでのキャリアもあり、後輩OBの相談に乗ることも少なくない。

電験3種取得は自衛隊のおかげ
 小林さんは21歳で自衛隊に入隊。航空自衛隊入間基地に配属され、無線通信士として多くの時間を過ごした。「第3種電気主任技術者(電験3種)」の資格を取得したきっかけは、「自衛隊のおかげです」と笑顔を見せる。小林さんが27歳の時、当時の上官から「第1級総合無線通信士の資格獲得に専念させるため、優秀な人材2人を委託する学校で学ばせる」と言われたという。約40人いる部隊からの2枠は狭き門だが、負けん気の強い小林さんはこれまでの業務や訓練などが評価され、候補の3人に選ばれた。しかし、最終的には選考から漏れてしまった。

「悔しさが資格取得につながった」と話す小林さん

 小林さんは「本当に悔しかった。何とか見返してやりたかった」と当時を振り返る。小林さんは第1級総合無線通信士に替わる資格として電験3種の勉強を始める。勤務の傍ら、月曜日から金曜日までの午後11時からの30分、短波ラジオから流れる「電験3種講座」を聴きながら机にかじりついた。泊まり勤務の時は、給料3カ月分の値段もしたテープレコーダーに講座を録音し、仕事終わりや休日にはテープがすり切れるほど繰り返し聴いた。そして、昭和38年4月に1次試験、8月に2次試験を受けた。その年の11月に合格発表があった。結果は見事、「合格」

 小林さんは「合格発表の日は3空曹の内示をもらった日でもあったが、昇任よりも合格の方がうれしかった」と当時の心境を明かす。現役の時は無線通信士の傍ら、基地内の電気設備の保守管理にも携わった。28歳で取得した資格は、86歳になった今でも生かされている。

元自衛官だからできることがある
 小林さんは元自衛官として、また、自衛官だったからこそ今、思うことがあるという。「自衛隊時代には常に『5分前行動』が当たり前だった。それが今では習慣化し、30分前に現場に到着し、準備する。事前に準備もしているので緊急対応もできる。そういう意味では、危機管理能力が身についたとも言える」と。その上で、「第二の人生」を目指そうとする現役の自衛官たちに対し、「今は人生100年時代。自衛隊を経験してきたが、86歳の今でも現役として働いている。長年、勤めることができる会社なので、自衛隊の経験を生かしてぜひ、入社してほしい」とエールを送ってくれた。まだまだ意気軒高。小林さんは「体が元気なうちは100歳まで働きたい」と新たな目標を見据えている。

「まだまだ元気ですよ」と笑顔を見せる小林さん

保守管理は縁の下の力持ち 全電協には多くの元自衛官が働いている

 同社の取締役で保安本部長も務める森島哲さん(元1陸尉)は防衛大学校時代の恩師に勧められ、電験3種の資格を取得。「卒業の証しに取った資格が、偶然にも今の仕事に役立っている」と話す。現役時は陸上自衛隊で輸送業務を担当していた森島さんは、「自衛隊の頃は縁の下の力持ちとして後方支援をしていた。今の仕事も同じ。皆さんの生活を支えるために電気を安全に供給している」と仕事のやりがいについて語る。
 

 総務・情報部長の吉原方人さん(元1空佐)は航空自衛隊でレーダーサイトのメンテナンスなどを担っていた。56歳で自衛隊を定年退職後、電験3種を取得。2回目の転職として、63歳で同社に入社した。吉原さんは「当社は一生現役で働ける。さらに自衛隊と同じように社会貢献できるのが魅力だ」と強調する。

 安心・安全に電気を供給することは社会を支えることでもある。日本の国防を担った元自衛官たちは電気という社会インフラを今、守っている。

  平成元年10月に設立。主な業務は高圧電気を低圧に変換して照明器具などに電気を供給する「高圧受変電設備(キュービクル)」の保安管理業務や電気工事。従業員は1~3種電気主任技術者などの有資格者を含め、約350人を抱える。
 同社は関東1都6県と静岡県、愛知県、大阪府に16の拠点を持ち、24時間体制で保安管理業務に携わっている。特に東京電力管内は100%カバーできる自社ネットワークを生かし、緊急時にも即座に対応できる体制を整える。令和3年1月には、保安管理実績1万件を達成するなど、保安管理業務の案件が拡大している。
 電気工事サービスでは、一般的な保守管理会社が対応できない「電気機器の修理・交換」や「電気設備の改修」なども実施。月次点検・年次点検で発見した不具合箇所の修理・交換も行っている。このほか、特定労働者派遣事業の許可を持ち、技術者派遣・紹介サービスを提供。ビルの常駐設備管理員の派遣や電気主任技術者の正社員雇用を検討するビル管理会社への人材紹介も行っている。

全電協株式会社
〒103-0025
東京都中央区日本橋茅場町2-1-13
03-3808-2411
https://www.zendenkyo.co.jp/

求人・募集情報

【募集業務】
 電気設備の保安管理業務(補助者)
【業務内容】
 年次点検の支援、竣工検査の支援などを行っていただきます。
【求める人材】
 電気の測定・試験に興味がある方
 自動車運転免許保有者(ない方は応談)
【ポイント】
 働きながら知識・技能を磨き資格取得ができる。
 自衛隊OBが多数在籍しております。

【連絡】
 全電協株式会社
 総務部長 吉原 方人(空自OB)
 03-3808-2411
 k.yoshihara@zendenkyo.co.jp

→【日本を護る VOL.05_2】「元自衛官は優秀な人材」 全電協株式会社・山口社長インタビュー

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