防衛省のシンクタンク、防衛研究所は11月24日、中国の安全保障に関する動向を分析した年次報告書「中国安全保障レポート2024」を公表した。力による現状変更を強める中国は、既存の国際秩序に対して挑戦するために戦略的パートナーのロシアとの関係を強化し、対米けん制の観点から日本周辺地域での共同軍事活動を活発化すると分析。さらに中国、ロシアは「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国・発展途上国を取り込み、「権威主義的」な秩序を構築していくと指摘した。

 報告書のテーマは「中国、ロシア、米国が織りなす新たな戦略環境」。力による現状変更を強める中国とパートナー国であるロシア、両国の対立国である米国。今回は、この3カ国の安全保障政策動向を比較検討した。

中国が既存の国際秩序を打破

 報告書では、中国の習近平政権は台湾の統一、南シナ海、東シナ海における支配の拡大など「核心的利益」を重視していると説明。その上で、力による現状変更を認めない既存の国際秩序のルールを打破する動きを強めていると指摘した。

 また、中国軍は海・空・ミサイル戦力を中心に接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を大幅に強化し、「中国周辺地域における米軍のプレゼンスの弱体化を図っている」とした。一方で、中国の戦略的パートナーであるロシアに関しては、ウクライナ侵略後も両国の関係強化に「変化はない」と指摘。

ポストプーチン問題が今後のカギ

 ロシアについては、ウクライナ侵略中の同国は民間軍事会社など「非公式・自立的アクター」の影響力が伸張しているとの見解を示した。さらに高齢のプーチン大統領の後継問題に触れ、ロシアの政治体制の動揺は「国際秩序への重大な不確実要素の一つ」と強調した。

 中国、ロシアは今後、自由主義や民主主義などの普遍的な価値を共有しない権威主義的な新興国・発展途上国を取り込み、「グループ化を図っていくだろう」と予想。

米国、軍事的課題克服へ

 中国との地政学的競争に打ち勝ち、ロシアを抑制する戦略を打ちだしている米国は、今後、10年間は将来的な国際秩序を左右するとの認識の下、軍事的課題を克服するための政策を進めると指摘。同盟国・パートナー国との協力深化のほか、新興国・発展途上国との連携強化を追求するとも分析した。

 軍事面では、国防政策「基準となる挑戦」で、中国の人民解放軍への優位性確保を目標に掲げ、武力紛争未満の競争への対応▽米軍の戦力投射・作戦遂行能力・キルチェーン(敵の攻撃の構造を破壊)防御の確立▽将来的な核戦略バランスの変化への対応などの――課題解決を進めるとした。

 こうした中で報告書では、中国の力による一方的な現状変更の試みを抑止するため日本は防衛力のさらなる強化を図るべきだと強調。これに加えて、米国との連携をさらに深化させるほか、国際秩序を守るという「共通力」の拡大を目指すために、外交面で東南アジア諸国との結び付きを強化するべきとの考えを示した。