令和4年末に策定された安保3文書では、「自衛隊と海上保安庁の緊密な協力・連携強化」が明記されました。日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しくなる中、両機関の連携がますます重要となっています。防衛日報デジタルをお読みの会員の方々は海上自衛隊のことはご存じだと思いますが、海上保安庁のことをあまり知らない方も少なくないはず。そこで日本の領海を守る海保について解説していきます。

Q 海上保安庁はどんな組織?

A 海の安全と治安を守る「海の警察」です。戦後まもない昭和23年5月に発足。全国を11の管区に分け、さらに71の海上保安(監)部や61の海上保安署、7の海上交通センターなどがある。職員数は1万4681人(令和5年度末現在)、巡視船艇474隻、航空機92機を保有(5年4月1日現在)。船の安全航行に必要な灯浮標(ライトブイ)や灯台などの航路標識5134基も、海保の所有物なんだ。国土交通省の外局で令和5年度の予算額は2431億円。ちなみに「海猿」で有名となった特殊救難隊は羽田特殊救難基地に所属しているよ。

船の安全航行に必要な灯浮標(提供・海上保安庁)

Q どんな役割を担っているのかな?

A 海難救助のほか、密航・密輸などの犯罪行為の取り締まり、尖閣諸島をはじめとした領海警備が主な仕事だ。これに加えて、災害対応や環境保全、海洋調査、船舶の航行安全など業務は多岐にわたるよ。四面を海に囲まれた海洋国家である日本は、貿易や漁業などで経済活動を行っている。こうした中で海保の業務は非常に重要な役割を担っているよ。

Q 武器は持てる?

A 海上保安官は武器を持つことが許されている。さらに、巡視船には機関が搭載されています。武器については海上保安庁法で明記されてるんだ。武器を使用する場合は警官と同じく警察官職務執行法に準ずるとされている。ちなみに「海の警察官」なので逮捕権もあり、鑑識官や国際捜査官もいるよ。

Q 怪しい船を発見した場合は?

A 「臨検」といって、船の立ち入り検査をすることができるんだ。陸上の警察で言う「職務質問」に近い活動だ。法律違反があれば、法に基づき逮捕することもできるんだ。平成13年12月には鹿児島・奄美沖で、北朝鮮の工作船が自動小銃を巡視船へ発砲する事件が発生。

 巡視船が正当防衛の射撃をすると、工作船は爆発して沈没。自爆したとみられている。この工作船は引き揚げられ、現在は海上保安資料館横浜館(横浜市中区)に展示されているよ。 

Q 自衛隊と海保の関係は?

A 自衛隊と海保は以前から共同訓練などを実施しているよ。平成27年には初めて、海自と海保が武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」を想定した共同訓練を実施したんだ。同訓練は11年に起きた能登半島沖での北朝鮮の工作船事件を機にスタート。今年10月4日には、同様の共同訓練を行い、大型無人航空機「シーガーディアン」を初めて投入。最新のレーダーやカメラを活用して対応能力の向上を図ったよ。

大型無人航空機「シーガーディアン」(提供・海上保安庁)

 また、ソマリア沖・アデン湾で活動する海賊対処行動では、海保の協力は欠かせない。海賊を逮捕するために、海自の護衛艦に海上保安官8人が必ず乗り込んでいるよ。

 最近では、中国の挑発的な活動の中、台湾有事を懸念し、有事の際に防衛大臣が自衛隊法に基づいて海上保安庁を指揮する手順を定めた「統制要領」を策定。武力攻撃事態と認定された場合、閣議決定を経て防衛大臣が海保長官を指揮し、海保を統制下に入れるんだ。

Q 有事が発生した際の海保の役割は?

A 自衛隊法80条には、日本が外国から攻撃を受けて「武力攻撃事態」などに陥った際に「海上保安庁の全部または一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」と定められているんだ。これが先ほど説明した「統制要領」のことだよ。今年5月にはこれを元にした机上訓練、6月には実動訓練が実施されたよ。

 この訓練では、海保法に規定された範囲内で非軍事的性格を保ち、人命保護や船舶の救難などを実施したんだ。海保はあくまで警察機構であるため、自衛隊のように最前線に立つのではなく、あくまでも後方支援をする立場なんだ。

 日本で武力攻撃事態が起きてほしくはないのですが、政府はもしもの時を想定し、自衛隊と海保の連携を今後も強化していく方針だよ。

取材後記

 安保3文書では、「自衛隊と海上保安庁の緊密な協力・連携強化」が明記されました。今後も自衛隊と海保の連携が強化されることは間違いありません。こうした中、防衛日報社では、海保の活動も伝えていきたいと思っております。

 両機関は「グレーゾーン事態」や「統制要領」などの共同訓練をはじめ、海賊対処行動でも共に活動しています。さらに、海保の大型無人航空「シーガーディアン」の拠点は現在、海上自衛隊八戸航空基地(青森県八戸市)にあります。領海警備においても自衛隊との連携は欠かせないのです。

 日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しくなっています。国民の生命、暮らしを守るために、自衛隊員、そして海上保安官らが額に汗し、活動しています。そんな彼らの姿をこれからも伝えていきます。