厳しさ増す安保環境 防衛力の抜本的強化 「安保3文書」改定・・・

統合幕僚長吉田圭秀陸将
統合運用体制を抜本強化

 吉田新統幕長は、防衛大学校出身者以外として初めての着任。また、陸幕長が2代続けて統幕長に就くのも初のことだ。吉田氏は着任の訓示で、「統合運用体制の抜本的強化」を目標に掲げた。その実現に向けて「3つの融合アプローチ」を挙げた。

 その一つである「戦略レベルと作戦レベルの融合」では、「宇宙、サイバー、認知領域、反撃能力など、戦略レベルでの状況判断が必要な分野が拡大している。作戦レベルとの融合が不可欠だ」と強調した。

 また、「防衛力整備と防衛力運用の融合」では、「防衛力の抜本的強化は、新たな組織や装備が実装されるだけで実現するものではない。運用体制が確立されて初めて実現する」と説明。統合運用体制の抜本的強化の目標年度である2027年までの実現に向け、「新組織や新装備を先取りして指揮所演習に組み込み、防衛力整備と運用体制の構築を同時に進めていく」との方針を示した。

 さらに、「統合、日米共同、多国間連携、省庁間協力の融合」では、「かつてないほどの危機は、かつてないほどの同盟国、同志国が結集する機会を生み出す。インド太平洋地域では、これまで2国間などで実施してきた演習が、統合化・多国間化する。自衛隊もこれに積極的に関与していく」と国際連携の重要性を示した。

 最後に、吉田氏は統合幕僚監部の隊員に向けて、「統合幕僚監部の使命の誇りと矜持(きょうじ)を持ち、常に国家的観点という大局観を持ってもらいたい。また、統合スピリッツをいかんなく発揮し、一人ひとりが主体的に、はつらつと職務に邁進(まいしん)することを期待している」と激励した。

陸上幕僚長森下泰臣陸将
あらゆる機会に即応

 森下新陸幕長は着任の訓示で、日本を取り巻く厳しい安全保障環境を述べた上で、昨年12月に改定された「安保3文書」に触れ、「われわれは、その迅速な実現に向け、国家、国民から大いなる期待と、さらなる責務を負ったと認識している。陸自はわが国の防衛のため、あらゆる機会に即応する」と訴えた。

 また、「米陸軍、海兵隊との日米共同対処体制を強化するほか、同盟国、同志国などとの連携強化を通じ、望ましい安全保障環境の創出に寄与していく」と国際連携を重視し、日本の防衛に注力していく考えを示した。

 陸自を統率するための心構えとして、「歴代陸幕長が要望してきた強靱(きょうじん)な陸自の創造」を挙げた。その上で「諸先輩方々の伝統を継承し、緊張感を持って、陸上防衛力の急速な整備と戦力化に全力を傾注する」と意気込んだ。

 陸上自衛官に向けて森下氏は、「『克己』、己に勝つことを要望する。緊要な場面では、その覚悟が必要だ。事態に即応するためにも、心身の準備をしておかなければならない。己自身の弱さが最大の敵となることを常に認識すべきだ」と強調。また、「向上心を持って 各人の戦闘、戦技能力を磨いてもらいたい。さらには温かい心で、次の時代を担う後輩を育ててほしい」と呼び掛けた。

航空幕僚長内倉浩昭空将
スピード感で具現化

 内倉新空幕長は着任の訓示で、新領域として対策を強化する宇宙問題に言及。「航空自衛隊は航空・宇宙に関する防衛力の抜本的な強化を戦略や計画にのっとり、スピード感をもって具現化していく」と強調した。

 その上で、航空自衛官に対し、(1)「Capability(能力)」(2)「Connectivity(つなぐ)」(3)「Challenge」(挑戦)ーーの「3つのC」を要望した。

 (1)については、「与えられた役割を果たすために必要な隊員個々、部隊の能力をそれぞれもう一段レベルアップすることを強く求める」と訴えた。(2)については、陸海空の自衛隊のほか、米軍や同志国などの関係について、「心と心をつなぐことが領域横断作戦のような高いレベルでの連携を行う礎(いしずえ)となる」と説明。

 また、(3)については、「『航空宇宙自衛隊』という新たな時代の目標を見据え、従来の考え方や慣習にとらわれない、変える勇気を持ってチャレンジしてもらいたい」と呼び掛けた。

 最後に「いかなる逆境に直面しても、ひるまずに冷静沈着に対処できる強さと、自然災害などが発生した場合、困難な状況にある人々の痛みを理解して寄り添い、必要な支援を必要な時に提供できる優しさを併せ持った航空自衛隊を皆さんとともに作り上げていきたい」と抱負を語った。

<編集部より> 

 本日の1面は自衛隊最高幹部3氏の着任、2氏の離任の大特集です。陸海空3自衛隊のトップの各幕僚長と3自衛隊を統括する最上位の統合幕僚長の4人のうち、3月30日付で3人が一気に交代する近年では珍しい大異動に焦点を当てました。

 この日は式や儀仗(じょう)、見送りなどもあり、東京・市ケ谷の防衛省は決意、そして笑顔と涙にあふれた一日となりました。とくに、陸上幕僚長から新たに統合幕僚長となった吉田圭秀陸将はかつてないほどの安全保障環境を踏まえ、3自衛隊による「統合運用体制」を抜本的に強化することを訓示しました。いざというときに協力し、大きな「組織」となって立ち向かう-。東日本大震災でもみられた「統合運用」の在り方を改めて徹底する強い決意を取材を通して感じました。日本を牽引する最高幹部たちの覚悟の数々をまとめてみました。

 一方で、「別れ」の場面も。40年余にわたり牽引してきた前任者たちは職員らに見送られました。その万感の思いも併せて紹介しています。

見送られる前任者 前統合幕僚長 山崎幸二陸将

見送られる前任者 前航空幕僚長 井筒俊司空将

統幕長は制服組のトップ、陸海空の3自衛隊の統合運用を担う

 統合幕僚長は約23万人の自衛官を束ねる最上位者。陸海空の共同活動が増加し、一体的に部隊を運用することが求められたことから、平成18年に創設された。防衛大臣の補佐役として、有事の際にはフォースユーザー(事態対処責任者)として、フォースプロバイダー(練度管理責任者)の陸海空の各幕僚長から提供された各部隊を運用する。

 だが、東日本大震災の時は統幕長は防衛大臣を補佐する仕事に忙殺され、柔軟に部隊を運用することができなかった。

 そこで昨年末の「安保3文書」では、部隊を指揮する機能を常設の「統合司令部」に与え、統幕長は防衛大臣の補佐に専念する形とした。

 統幕長は、これまで山崎氏を含む陸自3人、海自2人、空自1人の持ち回りで就任してきた。東大卒の山崎氏以外は全て防大出身。陸自出身が2代続くのは初めて。

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→防衛日報4月7日付PDF