【2023年3月31日(金)1面】 防衛大学校(神奈川県横須賀市)で3月26日、卒業式が行われ、自衛隊最高指揮官である岸田文雄首相は、「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有などを盛り込んだ国家安全保障戦略など「安保3文書」の改定を受け、「今後5年間で防衛力を緊急的に強化し、わが国の抑止力・対処力を一層向上させていく」と強調。その上で、「自衛官となる皆さんが早速、取り掛かる大仕事だ」と卒業生の活躍に期待を寄せた。
首相は、ロシアが侵攻するウクライナにも触れ、「国際秩序の根幹を揺るがす暴挙だ。私自身、先日、ウクライナのキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領との間で首脳会談を行い、祖国と自由を守るために立ち上がっているウクライナ国民の勇気と忍耐への敬意を伝えた」と述べた。
さらに、先進7カ国(G7)の議長国として「法の支配に基づく国際秩序を守り抜くという決意を示したい」と語った。
「今日のウクライナは明日の東アジア」
日本を取り巻く安全保障環境については、「核・ミサイル能力の強化、急激な軍備増強や力による一方的な現状変更の試みが一層顕著になっている」との認識を示した。こうした中で、中国を念頭に「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語り、防衛力の強化を訴えた。
昨年12月に改定された安保3文書では、「国民の命を守り抜けるのか、極めて現実的なシミュレーションを行った。このシミュレーションも踏まえて、必要となる防衛力の内容を積み上げた」と説明。具体的な事例として反撃能力の保有や南西地域の防衛体制の強化に加えて、宇宙・サイバー・電磁波などの新領域への対応などを挙げた。
また、同盟国や有志国との国際連携は「不可欠だ」と述べた上で、今年1月に開かれた日米首脳会談で日米同盟の抑止力・対処力を強化する決意を新たにしたほか、豪州と昨年10月に安全保障協力に関する新たな共同宣言を首脳レベルで発出したことなどにも触れた。
このほか、日英伊の次期戦闘機共同開発プロジェクト、日韓・日米韓の戦略強化、ASEAN(東南アジア諸国連合)の戦略的寄港や共同訓練などにも言及した。
最後に卒業生に対して、「自衛官としての新たな一歩を踏み出す。軍事専門的知見や技術を磨くだけでなく、高い倫理観と使命感を持って任務にあたることが求められる」と幹部自衛官としての心構えについて述べた。
続けて、「世界が歴史の分岐点を迎える中、自衛官となる皆さんが背負うものは、極めて大きい。民主主義国家における実力組織のスタンダードとも言える『プロフェッショナリズム』に徹し、国防という崇高な職務に邁進(まいしん)して、国民の負託に応えてくれることを期待する」とエールを送った。
任官は400人
今年度の本科卒業生は、外国人留学生を除き446人(うち女性45人)。任官者数は400人(41人)で、陸上自衛官が198人(19人)、海上自衛官が105人(13人)、航空自衛官が97人(9人)。任官辞退者は昨年よりも26人減の46人だった。防大は今年度から平成24年度以来10年ぶりに任官辞退者の卒業式出席を認め、46人全員が出席した。