製造業や物流業界では、少子化による人口減少や過酷な労働環境などの影響から、人材確保の課題が深刻化している。シニア人材や外国人労働者の雇用、アウトソーシングの活用などの対策を講じているが、中でも急速に進んでいるのがAIや無人機を活用したオートメーション化だ。

「人間の頭脳で考えていては局面を有利に展開することは難しい」

 ──無人機の自動化や群制御の最大のメリットは何でしょうか。

 幸田 端的に言えば、「人間の考えでは及ばないところまで対応できる」という点です。数百台や1000台といった数を一斉に動かし、その上で最適な動かし方を人間が考えるのは不可能ですから。

 そもそも、「最適」というものに正解はありません。局面によっては、いま最適であっても、次の瞬間には同じ行動が最悪になるケースもある。最適と最悪は同義であり、それを差配するのは「状況」。

 かつての戦争では、同じ地図を見て、何が最適かを人間が考えて指示を出していたと思われますが、コンピューターを駆使する今の時代に人間の頭脳で考えていては、局面を有利に展開することは難しいのではないでしょうか。

Corporate Strategy Division Game maker 山田氏

 山田 計画を立案するプロフェッショナルの方がいても、その人にしか計算ができなくなってしまう状況はリスクになりえるので、コンピューターが代わりに計算してくれるというのも自動化のメリットです。

 幸田 大事なのはシミュレーションをやり尽くすということです。xOptは計画立案するサービスですが、弊社ではTransit Optimal Platform(トランジット オプティマル プラットフォーム=TOP)という製品によってバーチャルで環境計算ができます。

 理想としては、相手のアクションという入力が出た時に、仮想空間が多重展開され、想定されるケースを瞬時にシミュレーションする。そして、起こり得る事象に対して効果が出たアクションを選定していくようなことまでやれたらいいと思っています。

 今は多重展開したシミュレーションは「カン・コツ」によって行われていると思うのですが、自動化になった際は「カン・コツ」は通用しません。

 展示会では水中ドローンのデモを展示しましたが、関係各所に話を聞くと、海の世界における自動化はかなり厳しい状況と考えています。

TOPはAGVの最適なルートや台数などをシミュレーションして検証できる

AIが船長になる時代も

 ──海での無人機の自動化はなぜ厳しいのでしょうか。

 幸田 まず、今の船もテクノロジー的には進化していると思いますが、まだ性能を向上させることができるはずです。そして、最後に残る問題が「船長の判断」です。

 どんなにシステムを高度化しても、船長がそれを信用しなければどうにもならない。エモーショナル(感情)の部分が立ちはだかってしまうと考えられます。自動化を取り入れた時に「感情」をどのように解決するのかが課題です。

 なぜ船長の判断が最終的に重宝されるのかというと、船長の「カン・コツ」が非常に効くからです。

 では、その「カン・コツ」の占める割合で何が大きいかというと、膨大な観測値という部分です。例えばカメラやレーダーなども、観測しなければいけない膨大な情報の一部ですが、船長は判断に足る次元数におよばなければ信用しない、と考えることができます。

 自分の支配している海なら自分しか知らない情報をデータとして保持することが、船長が信用に至る次元数を獲得できると私は思っています。

 ハードを増やすのではなく、手中に収めることのできるデータ数をとにかく増やすというのが、船長に代わる道のりの一歩なのではと思っています。今後、いかに船長というものをシステム化するかが課題としてあると思います。

 ──今後は船長そのものをAIに置き換えるような時代がくるのでしょうか。

 幸田 そういう時代も来るかもしれません。しかし、AIというのは優れた入力があって初めて力を発揮するシステム。

 AIの力を引き出すために必要とされる入力をちゃんと作れるかというのが、先ほどの「観測値」の問題同様に重要です。

TOPとxOptを活用した、船舶と複数水中無人機の巡回経路計画作成のデモ

「問題が起きていなくとも現場に疑いを持つ経営者が増えてきた」

 ──xOptを導入した企業の導入事例などをお聞かせください。

 幸田 無人搬送機を導入していた自動車メーカー様では、「今の計画が最適といえるのだろうか」「もっと無人搬送機の台数を増やして自動化したい」などの課題を解決し、生産効率を上げたいというのが目的でした。

 生産効率を上げるために寄与するインジケーターとしては、例えばタクトタイムと呼ばれる「物を運ぶためにかかる時間」の短縮化などです。xOptを導入していただいて、結果的には生産効率を上げることができました。

 山田 大きい工場では、敷地内にも交差点や交通ルールなど道路の概念があります。工場の建屋と建屋の間を通って物を運搬するタスクがあるケース、複数の移動体における最適化にも取り組んでいます。

「思考は力」という社是の下、お客様の課題を解決するために尽力すると語る山田氏

 すでに無人機の自動化を導入して問題なく稼働していても、先を見据えて考える経営者は、現状が最適化できているかどうか、常に現場に疑いを持つという。

 幸田 現状がうまく機能していれば満足している方も多いでしょう。ただ、今の時代は目の前の現場の状況に疑いを持つ人が多くなってきました。

 その理由としては、まず雇用がうまくいっていないという問題です。常に人材がいることを前提に考えていた経営陣や管理職が、ようやく人手不足というものをじわっと肌で感じてきたのです。

 いわゆる「3K(きつい、汚い、危険)」の仕事というのは、製造業に限らずどの業界にもあるのですが、その業務に割り振られた人がすぐに辞めてしまう。労働力としての人間の扱いづらさに加え、コロナ禍で働き方が強制的に変わってしまったのです。

 そういった背景から「これではだめだ」と現場を見直し始めた。そこへDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)という言葉が世の中に踊り始めてきました。

 「何をどのように使えばいいのかがそもそも分からない」という企業もあれば、「このように活用するべきだ」と考える人材を確保している企業もあります。

 xOptの導入を検討される企業が増えてきたのもそういった背景があるのだと感じています。

儲けのためではなく「弱体化しないため」の自動化

 ──製造業などの工場では、雇用の問題に加え、DXやAIといった次世代の技術を取り入れ、生産性の向上を目指しているということでしょうか。

 幸田 無人機の自動化を導入することで生産性を上げるなどさらに良くしていく動きは各企業でもちろん推進していますが、現実は「今よりも弱くならないため」に苦肉の策として自動化検討をしている企業も多く存在しています。

 工場や製造業というのは「生産力」がその会社の強さを示すインジケーターとなります。例えば、工場の拠点数や製造ラインの数などが生産力ですね。安定した供給ができるからこそ、クライアントもその工場に依頼したくなるという構図です。

 しかし、人が辞めたり雇用を確保できないとなると、生産力に影響をおよぼします。軋(きし)みが生じてきた生産力は、さらに上げるのではなく、いかに下げない(負けない)ようにするかが重要。そのための自動化なのです。

TOPとxOptを活用したデモの例。デジタルツインにより、現実世界の情報から収集したデータを使い、
仮想空間上に同じ環境を再現

 ──製造業でそれほど人手不足が深刻になってきているのは、「3K」や少子化などの人口の減少以外には何が原因なのでしょうか。

 幸田 一番の要因としてはミスリードが挙げられると思います。製造業に興味を持ってもらえるような教育ができていたかどうかではないでしょうか。

 昨今のコロナ禍で、出社しないリモートワークで、好きな業務を好きなペースでできる仕事がしたいという人がとても増えてきました。

 ただでさえ人材の数が減ってきているのに、そこへ3Kのようなマイナスイメージが乗るから、今は雇用のマッチングが総崩れしているのです。