衛星コンステレーション構築
宇宙領域把握体制の整備

歴史的名称変更

「航空自衛隊」→「航空宇宙自衛隊」

 【2023年1月11日(水)1面】 昨年12月16日に閣議決定された「安保3文書」では、航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊」に名称変更することが盛り込まれた。陸海空自の名称が変わるのは、昭和29年の自衛隊創隊以来初めてのことだった。改称の時期は明らかにされていないが、まさに歴史的な方針となった。

 背景には、今や「宇宙戦争」とまでいわれる、宇宙空間を利用した各国の軍事的政策がある。それだけ、防衛の重要な要素として強化することが急務であることを物語っているといえよう。

 「令和4年版防衛白書」によると、宇宙空間は国境の概念がない。人工衛星を活用し、地球上のあらゆる地域の観測や通信、測位などが可能となるため、主要国は軍事施設などを偵察する画像収集衛星、弾道ミサイルなどの発射を感知する早期警戒衛星、通信を仲介する通信衛星や、武器システムの精度向上などに利用する測位衛星をはじめ、各種衛星の能力向上や打ち上げに努めている。

宇宙領域の能力を強化するため、米国や関係機関との連携を進めている(空自ホームページから)

 また、米国は宇宙開発庁が中心となって、数百機の小型衛星を打ち上げ、ミサイルの探知・追尾、通信、偵察、測位、宇宙状況監視(SSA)を行う衛星メガ・コンステレーション計画を推進しているという。

 各国は、宇宙空間で自国の軍事的優位性を確保するための能力を急速に開発しているのだ。

 さらに、過去には「スペースデブリ」と呼ばれる宇宙ごみが人工衛星にぶつかるケースもある。空自では、レーダーで監視する「宇宙作戦隊」を令和2年5月に発足させている。

量・質両面で強化

 防衛省によると、浜田靖一防衛大臣は、昨年12月9日の閣議後会見で宇宙分野についてこう述べていた。

 「(宇宙分野は)安全保障の基盤として死活的に重要な役割を果たす。各国が人工衛星など、宇宙システムを軍事作戦の基盤として利用する一方、一部の国は自国の優位性を確保する観点から、他国の宇宙利用を妨げる能力の向上に努めている。わが国の優位性を確保するため、宇宙作戦能力の抜本的な強化に取り組む」

 首相官邸ホームページによると、岸田文雄首相も昨年12月16日の安保3文書改定の会見で、宇宙分野を含む新たな領域への対応について、「軍事と非軍事、平時と有事の境目が曖昧(あいまい)になり、ハイブリッド戦が展開され、グレーゾーン事態が恒常的に生起している」と述べ、国の能力を量・質両面で強化していくことを明言した。

米国などとの連携

 その安保3文書の一つの「国家防衛戦略」には、「『宇宙作戦能力』を強化し、宇宙利用の優位性を確保し得る体制を整備する」と明記された。

 また、もう一つの文書「防衛力整備計画」では、民間衛星の利用などをはじめとする各種の取り組みで、目標の探知・追尾能力の獲得を目的とした衛星コンステレーションを構築したり、「宇宙領域把握(SDA)」体制の整備を着実に推進することなどを明記した。

 さらに、相手方の指揮統制・情報通信などを妨げる能力をさらに強化することも。そのためには、米国などとの連携が欠かせず、一方で、組織体制や人的基盤の強化のため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などとの連携強化にも取り組むとしている。

急ピッチの体制整備

 空自は令和3年度に「宇宙作戦群」を新編。4年度末にはSSAシステム運用を担う「第1宇宙作戦隊」、衛星妨害状況把握装置の運用を担う「第2宇宙作戦隊」を新編するなど、「宇宙作戦の体制整備を着実に推進している」と浜田大臣は強調する。

 3文書に記載された取り組みは、大幅に強化するためのものだ。

5年度予算案 5年間の総事業費に約1兆円を計上

 当面の事業計画にも反映された。昨年12月23日に閣議決定された5年度予算案では、5年間の総事業費(契約ベース)として約1兆円を計上。まず、5年度の事業費を契約ベースで約2000億円、歳出ベースで1000億円を盛り込んだ。

 この中では、宇宙領域把握の強化として、SDA衛星(図参照=イメージ、防衛省発表資料から)の製造を行うとともに、さらなる複数機運用について検討するため595億円を計上している。

「名は体を表す」

 空自トップの井筒空幕長は今回の改称について、昨年12月20日の定例会見で、「『名は体を表す』という観点から、改称が適切と判断されたものと考えている」と述べた。

 その上で、「宇宙作戦は航空作戦と並ぶ重要な任務」などと説明。小型の人工衛星による監視体制の強化を図るなどの方針を改めて強調した。

各国の宇宙分野の活動
 米国や中国、ロシアなどは、以前から宇宙分野での軍事的な活動に力を入れている。4年版防衛白書に記載された主な内容を紹介する。

 【米国】2020年6月に発出した「国防宇宙戦略」では、「今や宇宙は、明確な戦闘領域である」との認識を示し、宇宙の安定性確保のための能力の獲得も進めている。
 「国防宇宙戦略」ではまた、中国やロシアを最も深刻で差し迫った脅威と評価。宇宙領域における優位性の確保、国家的な運用や統合・連合作戦を宇宙能力で支援すること、宇宙領域の安定性確保―の3点を目標としている。

 【中国】人工衛星による情報収集、通信、測位など軍事目的での宇宙利用を積極的に実施。衛星測位システム「北斗」は航空機や艦船の航法、ミサイルなどの誘導用、21年に複数回打ち上げられた「遥感」システムは電子偵察用として、軍事利用の可能性が指摘されている。
 「長征」シリーズなどの運搬ロケットについては、中国国有企業が開発・生産を行っているが、同企業は弾道ミサイルの開発、生産なども行っているとされ、運搬ロケットの開発は弾道ミサイルの開発にも応用可能とみられる。
 将来的には、米国の宇宙における優位を脅かすおそれがあるとの指摘がある。

 【韓国】朝鮮半島上空の宇宙監視能力を確保するため、初の宇宙部隊である「空軍宇宙作戦隊」などで宇宙関連の能力を強化するため、監視偵察・早期警報衛星などを確保していく計画だとしている。

 【ロシア】シリアにおける軍事作戦に宇宙能力を活用。21年11月には、5機目となる早期警戒衛星「ツンドラ」の軌道投入に成功しており、ミサイル防衛能力の強化が進展している。

 【インド】自国周辺の測位が可能な測位衛星として地域航法衛星システム衛星を運用しているほか、17年2月には、低予算で104機の衛星を1基のロケットで打ち上げることに成功するなど、高い技術力を有している。