安保3文書改定、防衛費の「相当な増額」
防衛力抜本的強化「元年」に

 【2023年1月6日(金)1面】 「安保3文書」を改定し、令和5年度予算案は過去最大、そして防衛費の「相当な増額」…。昨年末、日本の防衛政策は大きな決断をした。明けて令和5年は、歴史的大転換を具現化する新たなステージとなる年。「防衛力抜本的強化『元年』」とし、覚悟の道を進む防衛省・自衛隊には、海洋進出を強める中国を念頭に、日本国民の暮らしと生活を護(まも)るため、南西地域の防衛、「台湾有事」への対応など喫緊の課題が立ちはだかる。一方で、自衛隊初の名称変更となった「航空宇宙自衛隊」は、「宇宙戦争」の様相を呈する新領域の進化に立ち向かうことになる。新年企画「防衛戦略 新たなステージへ」では、これらの現状や対策、関係者らの決意などを3回にまとめて紹介する。

正念場を迎える中国対策

 南西諸島は、九州南端から台湾に連なる約1200キロの離島群。米中が対立する軍事ライン「第1列島線」と重なり、海洋進出を強める中国は軍艦などをたびたび航行させるなど、威嚇を強めている。

 威圧的な活動を繰り返す中国。日本の領土・領海を守る強い体制を構築することは急務だ。そのためにも、中国の動きへの警戒、監視は欠かせない。

「遼寧」の存在

クズネツォフ級空母「遼寧」から艦載機が発艦した(統幕提供)

 昨年12月17日午後8時ごろ。沖大東島の西南西約260キロの海域で5隻の中国海軍艦艇が航行していた。

 その中にいたのが、クズネツォフ級空母「遼寧」だ。海自が艦載戦闘機やヘリコプターによる発着艦を確認した。統幕によると、これらの動きは同20日まで、北大東島周辺を含めて4日間続き、艦載戦闘機によるものが約60回、艦載ヘリが約70回、計130回行われた。

 発着艦は12月21、22の両日にも、北大東島と沖ノ鳥島周辺海域で「遼寧」を含めた3隻で続けられたほか、さらに31日まで続けられ、17日から数えると、確認した発着艦の実績は計約320回にもおよんだ。

ヘリを運用中の「遼寧」(統幕提供)

「遼寧」に搭載される戦闘機J15(統幕提供)

 令和4年版防衛白書によると、「遼寧」は中国初の空母として2012年(平成24)9月に就役後、南シナ海へ。16年(同28)12月には太平洋へ初めて進出したとされる。世界最大とも指摘される中国海軍海上戦力。艦隊防空能力や対艦攻撃能力の高い水上戦闘艦艇の量産を進める中国にとっては大きな「武器」ともいえ、四方を海に囲まれた島国・日本にとって、とくに南西地域の島嶼(しょ)部は脅威となりうる存在だ。

 このときは、政府が12月16日に防衛力の抜本的強化などを掲げた国家安全保障戦略など「安保3文書」を改定したことへの反発の意図を示す可能性が指摘された。

 また、浜田靖一防衛大臣は12月23日の閣議後会見で、「遼寧」について「(部隊と)空母との運用能力や遠方の海空域における作戦遂行能力の向上を企図している」との見方を示し、その上で「南西地域の防衛体制の強化は喫緊の課題だ」と改めて強調した。

「尖閣」侵入を繰り返す

 一方で、尖閣諸島周辺の領海侵入や接続水域内の航行は相変わらずだ。

 第11海上保安本部(那覇市)の発表によると、中国海警局に所属する船4隻が12月22日から、相次いで領海内に一時侵入した。この海域で航行していた日本漁船に近づこうとする動きを見せ、その後、25日にかけて72時間45分にわたって滞在。2012年(平成24)に同諸島が国有化されて以降、最長となる連続滞在時間となった。

 4年版防衛白書では、海警の体制強化を指摘している。2018年(平成30)7月、武警隷下に「武警海警総隊」として移管され、中央軍事委員会による一元的な指導、指揮を受ける武警の下で運用されるなど、軍が海警を支援している。

 首相官邸ホームページによると、12月26日に記者会見した松野博一官房長官は今回の事案について、「誠に遺憾。受け入れられるものではない」と非難した。

中国船舶、令和4年の領海侵入は28件

 松野長官によると、令和4年の中国海警局に所属する船舶による尖閣諸島周辺海域での領海侵入は28件で、同海域の接続水域内で、海保の巡視船が海警局の船舶の航行を確認した日数は計331日に上るという(12月26日時点)。

 また、11月にも中国海警局の船が確認され、船には大型の76ミリ砲が搭載されていたという。海上保安庁の石井昌平長官は12月21日の記者会見で、「依然として予断を許さない厳しい情勢だ」と語っている。

 読売新聞によると、12月16日から沖縄県南方の西太平洋で活動している「遼寧」を中心とする空母打撃群が、日本の南西諸島へのミサイル発射を想定した遠距離打撃訓練を実施していたという。

 演習期間は同16~26日とされ、打撃群には「遼寧」のほか、対地攻撃も可能な最新鋭大型ミサイル駆逐艦「055型」も複数、参加していた。「安保3文書」の閣議決定に合わせたものとみられているという。