「空の産業革命」と呼ばれるドローンの現状
 
 昨年12月16日に閣議決定された「安保3文書」では、今後5年間の防衛費の総額を前回の計画の1.5倍以上となる43兆円に増額する方針が示された。同23日に閣議決定された今年度の予算案では、防衛関係費は過去最大となる6兆8219億円(SACO=米軍再編=関係経費などを含む)を計上。

「役立つ程度のものではなく革命的なものを作りたい」

  私がやりたいのは「世の中に役立つ」程度のものではなく、大きな問題を解決したり、今までできなかったことができるような革命的なものを作りたいのです。

 マルチロータ型ドローンを用いた事業でまず注目されたのは「物流」でした。しかし、私はマルチロータ型ドローンを物流に活用することで大きな問題を解決したり、世界が変わるわけではないと思っています。というのも、落下などリスクが多すぎてまだまだビジネスには向いていないのです。

 それよりは命に関わる緊急時に用いたり、ユニバーサルサービス(国民の生活に不可欠で誰にでも等しく提供されるサービス)として活用することの方が重要です。

 世の中になくてはならないもの、世の中を変えることができるものを作る、私の開発するマルチロータ型ドローンはその可能性があると思っています。

 現在、災害時における河川の調査のため、自治体での導入のプランも進んでいます。今後はマルチロータ型ドローンを用いた「防災パック」として展開したいですね。災害発生時はとにかく迅速な状況把握が重要ですので、すぐにドローンを飛ばして情報を集めてくることが先決です。

 海難事故が発生した際にも初動が重要ですので、何機ものドローンが一斉に動くような管制プラットフォームを整備し、サーチライトや暗視カメラ、ズームカメラなどを含めた防災パックとして、自治体に装備してもらえるよう展開していきたいです。

同社のラボでの様子

操縦者に危険がおよばない安全な場所から監視・調査・攻撃が可能

 ──航空法改正による緩和によってドローン活用のシーンが広がったそうですが、どのような規制緩和があったのでしょうか。

  日本は電波に対する規制が厳しく、実は携帯電話は空では使えなかったというのはご存じでしょうか。飛行機内で使えないというのではなく、空に浮いている状態では使えなかったのです。

 例えば、高層ビルの屋上で携帯電話を使うのはOKでも、足が地についていない状態で使用するのはだめでした。LTE回線(携帯電話用の通信規格)が空では開放されていなかったのです。

 規制緩和に伴い、空での通信にもLTE回線が開放されたのです。例えばスマホや携帯電話は、日本はもちろん、世界中でも使えますよね。つまり、LTE回線をドローンに搭載することにより、どこでも電波を受信して操作することが可能になりました。

 それから、仮に100㎞の距離を飛行できるドローンがあったとしても、操縦者の「目視内」でしか飛行できないという決まりがあったのです。でも、その問題も規制緩和により、必要な認証や許可承認を取得することでOKになりました。

 これらの規制緩和により、操縦者に危険がおよばない離れた安全な場所から、搭載したカメラの映像によってドローンを飛ばすことができるようになりました。

 指令室から遠隔操作によって監視・調査・攻撃をするという、SF映画のような技術が可能になったのです。しかし、これをアメリカではすでに10年も前からやっていますよ。

ドローンなどの無人アセットにより安全な場所から監視・調査・攻撃が可能に(写真はイメージ)

 ──防衛省でも「隙のない警戒監視態勢の構築などのため『無人アセット防衛能力』を重点的に強化する」との方針を打ち出していますが、ドローンを国防や防衛装備品として考えた場合、今後どのような展開・活用方法が考えられますか。

  国防や防衛装備品として考えた場合、遠隔操作によって数機で動くスウォーム技術は必須と考えます。コーストガードのために常に巡行してパトロールできるドローンが必要だと思いますし、そのためには15分程度の飛行時間では意味がありません。140分飛行できる弊社のマルチロータ型ドローンなら可能なのです。

 スウォーム技術に関しては、制御するコンピューターの開発は専門分野外ですが、それに合わせた機体を開発して提供することは可能だと思います。

 それから、ドローンは遠隔制御している以上、通信電波を妨害するジャミングやGPSハッキングなどの攻撃には弱いですね。遠隔制御を取られたら、逆に敵の武器になる危険もあるのです。国防での活用を考えれば、ドローンへの電磁波やサイバー攻撃への対処も課題です。

 われわれはマルチロータ型ドローンの機体を開発する会社なので、ジャミングなどの攻撃に対処できるような機能を専門分野の企業に共同開発してほしいですね。

趣味が高じて歯科医からドローン開発者へ

──マルチロータ型ドローン開発の経緯を教えてください。

  大阪大学を卒業後、そのまま大学病院の研究室に残って研究をしていたのですが、もともと機械いじりが好きで、当時から遠隔診療など新しいシステムを構築してきました。その後、歯科医院を開業してからも、診療所のコンピューターは自分で組んでいたりしていました。

 ISDNやADSLなどのインターネット回線やデジタルのレントゲンなどは、おそらく大阪市内で私が最初に導入したと思います。それくらいIT系や機械の分野が好きでしたね。当時からIoT(モノのインターネット)というものにかなり先進的な考え方を持っていたと思います。

 マルチロータ型ドローンの開発は、もともと趣味のラジコンで遊んでいたのがきっかけです。飛行機やヘリコプターなどにカメラを搭載して、空からの映像を楽しんでおりました。15年ほど前のことで、まだGoPro(米国のウェアラブル用カメラメーカーのこと)も登場していなかったころです。

ドローンに搭載したカメラで上空から撮影した画像/港大橋臨港緑地公園(大阪府大阪市)

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪府大阪市)

箕面大滝(大阪府箕面市)

ミクリガ池(富山県中新川郡立山町)

  搭載するカメラの性能もどんどん良くなり、すごい映像が撮れるようになりました。飛行機やグライダーなどさまざまなものに搭載したのですが、ラジコンヘリがベストだと思いました。理由としては、離陸の際の滑走路が不要であることと、ペイロード(最大積載量)が大きいという点です。

 ただ当時、そもそも市販のラジコンヘリというのは売ってないため、全て自分で作るしかなかったんですよ。それに、ラジコンヘリは操縦がすごく難しい。特にホバリング(空中での停止飛行)中は、操縦中にちょっと話しかけられただけで立体感覚が狂ってヘリが落下してしまうんです。

 そこで、ほかの機体を探して世界中を調べたところ、ドイツにマルチロータヘリコプターというものがあることが分かりました。これが今でいうドローンの先駆的存在ですね。