【2022年9月2日(金)2面】
1面から続く
■経済財政運営と改革の基本方針2022 今年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)では、ロシアによるウクライナ侵攻など、日本の安全保障環境は一層厳しさを増していることから、外交・安全保障双方の大幅な強化が求められていることに言及。また、NATO(北大西洋条約機構)諸国は国防予算を対GDP(国内総生産)比5%以上とする基準を満たすことで合意しているなどの情勢認識を踏まえ、国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を5年以内に抜本的に強化するとしている。
統幕・陸海空自の主要項目
8月31日に公表された令和5年度の防衛省概算要求では、統幕、陸海空3自もそれぞれ発表した。その資料から、主な重点項目をまとめた(一部、防衛省発表分と同じ)。
統幕
1、統合指揮統制能力の強化
2、宇宙分野における多国間机上演習などへの参加
3、日米共同サイバー協議への参加=自衛隊のサイバー攻撃等対処および日米共同サイバー攻撃などの対処について協議
4、自衛隊統合演習(実動演習)、日米共同統合演習(指揮所演習)の実施
5、日米共同統合防空・ミサイル防衛訓練の実施
6、南西諸島などで統合水陸両用作戦に係る指揮幕僚活動および水陸両用統合任務部隊の一連の作戦行動について演練し、統合水陸両用作戦能力および日米共同対処能力の維持・向上を図る
7、自衛隊統合防災演習の実施
陸自
1、領域横断作戦能力の強化
2、将来指揮統制システムの研究、AIを活用した意思決定迅速化に関する研究など
3、サイバー部隊の体制強化、サイバー教育基盤の拡充(通信学校の改編)
4、電子戦部隊の新編など
5、島嶼(とうしょ)防衛用高速滑空弾の研究・量産
6、南西地域などへの機動展開訓練
7、スタンド・オフ防衛能力の強化
8、12式地対艦誘導弾(12SSM)能力向上型の開発・量産
9、極超音速誘導弾の研究
10、持続性・強靱性の強化
11、自由で開かれたインド太平洋の維持・強化
12、高度な専門性を必要とする人材の育成(サイバーなど)
13、女性隊員の生活・勤務環境の改善(トイレの改修)
14、AIを活用した意思決定迅速化に関する研究
海自
1、米海軍第10艦隊とのサイバー演習などへの参加を通じ、サイバー戦における相互運用性の深化・進化を図る
2、艦艇の電子戦訓練支援能力を向上するため、UP3Dの搭載機器の換装および機体改修を実施
3、「いずも」型護衛艦の改修
4、「むらさめ」型など対潜システム改修
5、無人機雷排除システムの整備
6、巡航ミサイルなどへの対応能力強化
7、スタンド・オフ・ミサイルなどの大型弾薬などの安全な保管のため火薬庫を確保
8、女性自衛官の潜水艦配置制限解除に伴い、女性自衛官が乗艦するために必要な潜水艦の居住区などの改修工事を行う
9、ストレスの多い各種任務で各隊員の心の健康を保持し、隊務の円滑な遂行を図る
10、ニ国間・多国間の協力関係を強化し、訓練・演習などの各種活動を適時・適切に実施するとともに、国際平和協力活動などをより積極的に実施する
11、共同訓練・演習
12、ソマリア沖・アデン湾に護衛艦と固定翼哨戒機を派遣し、海賊行為から民間船舶を防護するための活動
13、中東地域における情報収集のための活動
空自
1、スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力の向上
2、警戒管制能力の強化
3、弾道ミサイル、巡航ミサイル、極超音速滑空兵器などへの対応能力強化
4、宇宙領域における能力強化
5、新たに運用開始される装備品を維持管理するため部隊を新編するとともに、指揮統制機能の強化のため、宇宙作戦群の要員を拡充する
6、電子戦能力の強化
7、戦闘機の能力向上
8、電波情報収集機(RC2)の搭載装置の取得
9、ミクロネシア連邦などにおける人道支援・災害救援共同訓練
10、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処
11、女性職員の採用・登用のさらなる拡大など、女性職員の活躍をさらに推進するとともに、働き方改革および生活・勤務環境の改善に関する施策を推進・強化
12、テレワークの円滑な実施などに資する行政文害の電子媒体化の実施
13、災害派遣などの緊急登庁時、基地などで隊員の子供を一時的に預かる緊急登庁支援に必要な備品などを整備
令和5年度 概算要求主な事業(太字は主な事業)
【1】スタンド・オフ防衛能力
・12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型・艦発型・空発型)の開発・量産=12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型・艦発型・空発型)について開発を継続/地発型は、早期部隊配備のため量産を開始
・島嶼防衛用高速滑空弾の研究・量産=高速滑空し、地上目標に命中する高速滑空弾の研究を継続/早期装備型について量産を開始
・極超音速誘導弾の研究=極超音速(音速の5倍以上)の速度域で飛行することにより、迎撃を困難にする極超音速誘導弾について、研究を推進
・島嶼防衛用新対艦誘導弾の研究=長射程化、低RCS(レーダー反射断面積)化、高機動化を踏まえつつ、モジュール化による多機能性を有した誘導弾を試作
・JSMの取得=F35Aに搭載するスタンド・オフ・ミサイルを取得
・JASSMの取得=F15能力向上機に搭載するスタンド・オフ・ミサイルを取得
【2】総合ミサイル防空能力
・警戒管制能力の強化=FPS5およびFPS7、JADGEの能力向上
・イージス・システム搭載艦=既存イージス艦より高度な弾道ミサイル迎撃能力を有するとともに、極超音速滑空兵器(HGV)などに対応する拡張性を有したイージス・システム搭載艦の整備に必要な構成品などを取得
・弾道ミサイル、巡航ミサイル、極超音速滑空兵器などへの対応能力強化=SM6ミサイル、PAC3MSE、基地防空用地対空誘導弾、03式中距離地対空誘導弾など
・HGV対処の研究
【3】無人アセット防衛能力
・警戒、監視、倩報収集、攻撃、輸送などに供し得る無人機の整備
・無人機雷排除システムの整備=「もがみ」型護衛艦(FFM)に対機雷戦機能を付与するため、機雷の敷設された危険な海域に進入することなく、機雷を処理することを可能とする無人機雷排除システムのうち、水上無人機(USV)を取得
【4】領域横断作戦能力
◎宇宙領域における能力強化
・宇宙領域を活用した情報収集能力などの強化=宇宙領域を活用した情報収集能力などの強化に係る研究実証(HGV探知・追尾、赤外線センサなど)
・宇宙領域把握(SDA)の強化=宇宙領域把握に必要な衛星の製造・試験など
・低軌道通信衛星コンステレーションのサービス利用=民間コンステレーションの通信サービスの利用について、陸海空各部隊における実証を行う
・PATS対応の実証=米国を中心とする加盟国間で通信帯域を共有する枠組みであるPATSへ参加するため、通信機材の整備・実証を行う
・宇宙作戦群の改編=新たに運用開始される装備品を維持管理するため部隊を新編するとともに、指揮統制機能の強化のため、宇宙作戦群の要員を拡充する
◎サイバー領域における能力強化
・リスク管理枠組み(RMF)の導入=一過性の「リスク排除」から継続的な「リスク管理」へ考え方を転換し、情報システムの運用開始後も常時継続的にリスクを分析・評価して適切に管理する「リスク管理枠組み(RMF)」を導入
・サイバー防護分析装置の整備=防衛省に対するサイバー攻撃に関する手法の収集・分析などを行うサイバー攻撃対処のための装置の監視・評価機能などを強化
・システムネットワーク管理機能(SNMS)の整備=陸自の全システムの防護、監視、制御などを一元的に行うシステムを整備
・自衛隊におけるサイバー教育基盤の拡充=全自衛隊共通のサイバー教育基盤として陸自通信学校の体制を拡充し、サイバー教育のための施設、機材などを整備
・諸外国とのサイバー分野における連携強化=諸外国との協議や訓練などを通じて、サイバー分野における連携を強化
・サイバー競技会の開催=陸自通信学校が、サイバーに関する能力向上のために各自衛隊のサイバー関連部隊や諸外国が参加するサイバー競技会を主催
・サイバーセキュリティ統括アドバイザーの採用=高度サイバー人材を非常勤の国家公務員として雇用し、サイバー分野の能力を強化
◎サイバー防衛体制の抜本的強化
・サイバー政策の企画立案機能の強化=サイバー政策の企画立案体制などを強化するため、「サイバー企画課(仮称)」および情報保証・事案対処を担当する「大臣官房参事官」を新設
・サイバー要員化の推進=システムの調達や維持運営などサイバー関連分野の業務に従事する隊員に対する教育を実施し、サイバー要員化を推進
◎電磁波領域における能力強化
・電磁波技術の活用・強化=(ネットワーク電子戦システム=NEWS=、デコイ弾、高出力マイクロ波照射など)
・戦闘機(F35A/B)の取得(各6機)
・戦闘機(F15)の能力向上(20機)=電子戦能力の向上、搭載弾薬数の増加などの能力向上改修
・電波情報収集機(RC2)の搭載装置の取得=受信電波周波数範囲の拡大や遠距離目標収集能力の強化など能力向上した電波情報収集機の搭載装置を取得
【陸海空領域における能力】
・次期装輪装甲車(人員輸送型)の取得(29両)=現有の96式装輪装甲車の後継として、次期装輪装甲車(人員輸送型)を取得
・19式装輪自走155ミリりゅう弾砲の取得(10両)=現有の155ミリりゅう弾砲(FH70)の後継として、迅速かつ機動的な運用が可能な19式装輪自走155ミリりゅう弾砲を取得
・16式機動戦闘車の取得(18両)=航空機などでの輸送、路上機動性に優れた16式機動戦闘車を取得
・10式戦車の取得(6両)=各種事態において機動師・旅団の火力、機動力および防護力を総合的に発揮する10式戦車を取得
・将来指揮統制システムの研究=分散した部隊間に一元的な指揮統制を実現するための研究
・回転翼哨戒機(SH60L=仮称=の取得(6機)=ステルス性が向上した諸外国潜水艦に対する対潜戦の優位性を確保するため、搭載システムなどの能力および飛行性能を向上させた回転翼哨戒機(SH60L=仮称)を取得
・護衛艦の建造(2隻)=対機雷戦機能を含む多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立した護衛艦(FFM)(「もがみ」型護衛艦11番艦および12番艦=3900トン)を建造
・哨戒艦の建造(4隻)=わが国周辺海域における平素からの警戒監視所要に効果的に対応し得るよう哨戒艦(1900トン)を建造
・UP3Dの能力向上(2機)=艦艇の電子戦訓練支援能力を向上するため、UP3Dの搭載機器の換装および機体改修を実施
・「いずも」型護衛艦の改修=着艦誘導装置の取得などを実施
・戦闘機(F2)の能力向上(4機)=対艦攻撃能力、ネットワーク機能などの能力向上改修
【5】指揮統制・情報関連機能
・AIを活用した公開情報の自動収集・分析機能の整備
・AIを活用した意思決定迅速化に関する研究
【6】機動展開能力
・陸海空輸送力の強化=島嶼部を含むわが国への攻撃に対して、必要な部隊を迅速に機動・展開できる輸送力を強化するため、小型級船舶(2隻)、輸送機(C2・1機)、多用途へリコプター(UH2・8機)を取得
・輸送・補給基盤の整備=輸送力および補給体制の強化のため、南西地域における輸送・補給基盤を整備/迅速かつ継続的な補給品の供給のための設備の近代化
【7】持続性・強靱性
・弾薬の製造態勢などの確保=12式地対艦誘導弾能力向上型など
・装備品の維持整備=固定翼練習機/連絡機(TC/LC90)の維持整備=令和5年度よりPBLにて維持整備を開始
◇
□共通基盤(主に新規事業)
◎ドローン・スウォーム攻撃等対処能力
・群目標対処の研究=多数のUAVによるスウォーム攻撃への迎撃効率を最適化するため、群目標対処に関する研究を実施
◎無人アセット
・管制型試験UUV(無人水中航走体)から被管制用UUVを管制する技術などの研究を実施し、水中領域における作戦機能を強化
・戦闘用無人機などの研究
◎防衛生産基盤の強化
・防衛生産・技術基盤の維持・強化=国内の防衛生産・技術基盤を維持・強化するため、事業者のコストや利益を適正に評価する新たな仕組みの導入を検討するとともに、サイバーセキュリティ強化、事業承継円滑化、防衛装備移転推進、防衛特有の従来技術の維持向上に係る取り組みを検討
◎防衛産業の販路の拡大など
・FMS調達の合理化などに向けた取り組み=FMS調達の合理化および米国政府などとの交渉力強化のため、米国内の政府手続きに精通した部外人材の活用などを検討
□防衛力を支える要素
・海自艦艇乗組員の確保策=艦艇乗組員の安定的確保に資する諸施策(艦内無線LAN環境の整備、再任用自衛官の活用拡大)
・予備自衛官等管理支援システム(仮称)の整備に関する調査研究=令和3年度から陸自で本格運用中の応招確認システム(メールなどを介して、安否や応招の可否を確認できるシステム)について、現在の連絡・確認機能に加え、3自衛隊合同で調整・手続きなどをネットワーク上で行うシステムへと機能を拡充するために必要な調査研究を実施