【2022年9月2日(金)1面】

「事項要求」は100件規模

 防衛省は8月31日、令和5年度予算の概算要求で過去最大となる5兆5947億円を計上した。加えて、わが国をめぐる安全保障環境の厳しさを背景に、防衛力を5年以内に抜本的に強化するための具体策を、金額を示さない「事項要求」として100件規模で盛り込んだ。このため、概算要求では個別の事業に係る金額の計上はせず、年末に改定される「安保3文書」のうち、新たな「中期防衛力整備計画」の初年度にあたるため、今後の予算編成の過程で検討し、必要な措置を講じる方針を示した(2面に「主な事業」)

 ■事項要求 次年度予算を要求する段階で個別の政策の内容が決まっていない場合、金額を示さず、項目だけ記載する手法。国の基本戦略の改定や重要な国際交渉などを控えている際に適用される。感染者数が想定しにくい新型コロナウイルス対策などの予算要求でも用いられた。防衛費増額をめぐっては、「経済財政運営の基本指針(骨太の方針)」で、「国内総生産(GDP)比2%以上」に言及した上で、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と明記。年末に控える国家安全保障戦略などの改定の内容を予算額に反映させるため、概算要求基準では「予算編成過程で検討」としていた。

令和5年度 概算要求の方針

 ○令和5年度概算要求は、「(1)概算要求基準で定められた要求・要望」(算出される額の範囲内で概算要求)とは別途、「(2)予算編成過程における検討事項」(事項のみの要求)を要求
 (1):これまでの延長線上にあるものとして行う防衛力整備事業を要求
 (2):「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」ために必要な取り組みを要求
 ○これを最大限活用し、(1)と(2)を一体のものとして、必要な事業をしっかりと積み上げ、防衛力を5年以内に抜本的に強化する

7つの柱を計上

 今回の概算要求は、防衛力の強化に向けた取り組みが最大のポイント。これまでの防衛大臣や自民党幹部らの発言や方針だけでなく、今年5月の日米首脳共同声明で岸田文雄首相が「防衛費の相当な増額を確保する」と決意を表明。バイデン大統領が強く支持した経緯もあった。国の防衛の在り方を根本的に考える上で、かつてなく大きな意味を持つ節目の予算でもある。

 その上で、事項要求分は年末にかけて進める「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」などの改定作業とともに確定させる方針だ。防衛省によると、事項要求は昨年が3件程度で、100件規模となるのは極めて異例だ。

 概算要求では、今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」に基づき、必要な取り組みとして、「スタンド・オフ防衛能力」「総合ミサイル防空能力」などを7つの主要な柱として計上した=別表参照。他国からの日本への侵攻そのものを抑制し、万一抑止が破られた場合にも対処を可能にすることが狙いだ。

 7つの具体的な能力の強化内容は次の通り。

◎長射程ミサイル配備の開発

【スタンド・オフ防衛能力】

 敵のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」の保有で、どこまで踏み込むのかが焦点だ。

 概算要求では、敵の脅威圏外からできる限り遠方で阻止する能力を高め、抑止力を強化することが重要として、スタンド・オフ・ミサイルの早期装備化、運用能力の向上を図る。長距離巡航ミサイル(陸自の「12式地対艦誘導弾」の改良型)の射程距離を、現在の百数十キロから1000キロ程度に延ばす開発を進めるとみられる。

 また、極超音速(音速の5倍以上)の速度域で飛行し、迎撃を困難にする「極超音速誘導弾」の開発研究、島嶼とうしょ防衛に使う「高速滑空弾」の早期配備型の量産開始などを要求した。

【総合ミサイル防空能力】

 概算要求では、各種ミサイルや航空機などの多様化・複雑化する経空脅威に適切に対処するため、探知・追尾能力を向上させ、ネットワーク化による効率的対処の実現、迎撃能力の強化を図ることが必要としている。

 具体的には、既存のイージス艦より高度な弾道ミサイル迎撃能力を有し、極超音速滑空兵器などに対応するイージス・システム搭載艦の整備に必要な構成部品などの取得を初めて明記した。

◎攻撃に使う無人機を整備

【無人アセット防衛能力】

 早期取得を進める方針で、警戒、監視、情報収集、攻撃、輸送などに対応できる無人機を新たに整備するほか、戦闘用無人機の研究も行う方針だ。

【領域横断作戦能力】 

陸海空の領域に加え、宇宙・サイバー・電磁波などの組み合わせにより、能力の向上が必要。このため、宇宙領域では、装備品を維持管理するため部隊を新編。サイバー領域では、運用するシステムのリスク管理の実施や情報システムの防護強化を図るため、要員の育成や技術開発などの取り組みの抜本的強化を実施する。

 電磁波領域では、ネットワーク電子戦システム(NEWS)、デコイ弾、高出力マイクロ波照射など電子戦能力の強化を図るとしている。

【指揮統制・情報関連機能】

 AIを活用した意思決定迅速化に関する研究を進め、ロシアによるウクライナへの侵攻でも見られたような、認知領域を含む情報戦などに対応できるよう情報機能を抜本的に強化するとした。

【機動展開能力】 

 部隊を迅速に機動展開するための基盤整備や、輸送船舶、輸送機、輸送ヘリコプターなど各種輸送アセットの取得など輸送力の強化を要求した。

【持続性・強靭性】

 自衛隊の運用を円滑にするため、弾薬・燃料の確保、可動数の向上、施設の強靭化、運用基盤の強化を図るとしている。

      ◇

 一方、概算要求の段階での歳出予算の内訳では、人件費が2兆2290億円、物件費が3兆3658億円。物件費のうち歳出化経費が2兆2547億円、一般物件費が1兆1110億円となっている。

 また、陸海空自別では、陸自が6207億円、海自が1兆3527億円、空自が1兆3879億円を計上した。

基本的な考え方 防衛省

 ○わが国が直面する現実に向き合い、将来にわたりわが国を守り抜くため、以下のような考え方に基づき防衛力を5年以内に抜本的に強化

 (1)わが国への侵攻そのものを抑止するため、スタンド・オフ防衛能力や総合ミサイル防空能力を強化

 (2)万一の抑止が破られた場合には、非対称な優勢を確保して相手を阻止・排除しうる無人アセット防衛能力や陸海空領域を含む領域横断作戦能力を強化。その際、迅速な意思決定のための指揮統制・情報関連機能を強化

 (3)迅速かつ粘り強く活動するため、機動展開能力や持続性・強靭性に必要な施策を重視

 ○また、防衛力そのものである防衛生産・技術基盤に加え、防衛力を支える人的基盤などの要素も重視

 ○さらに、同盟国である米国や、自由で開かれたインド太平洋という考え方を共有するパートナー国などとの協力・連携を深化・発展させ、わが国の防衛力と相まって、抑止力をさらに強化

 ○この防衛力によって、力を背景とした一方的な現状変更を抑止

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