先行したロシア艦を中国艦が追跡
【2022年7月8日(金)2面】 防衛省は7月4日、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺の日本領海の外側にある接続水域に、中国海軍とロシア海軍のフリゲート艦各1隻が相次いで入ったことを明らかにした。ロシア艦が先に入り、その後、中国艦が追いかけるように接続水域を進んだという。政府は領有権を主張している中国側が、同諸島へ近づいたロシア艦への監視活動を行った可能性があるとの見方を示した。ただ、中露の軍艦や飛行機は以前から、日本周辺の海空域でさまざまな動きを共同で展開していることもあり、同省は両国の連携の有無を含め、意図を分析している。
接続水域は、外国軍艦が航行しても国際法上の問題はない。いずれも領海侵入はなかった。
尖閣諸島の領有権を主張する中国 「監視」が目的か
首相官邸ホームページなどによると、松野博一官房長官は7月5日の会見で、中露の海軍艦艇が日本の接続水域を同じ時間帯に航行したことについて、中国艦が尖閣諸島の領有権を主張する独自の立場から、同諸島に近づいたロシア艦への監視活動を行った可能性があるとの見方を示した。
その上で、松野長官は、「ロシア艦が(台風4号による)悪天候を避けるためにこの海域を航行していたため、中国艦がロシア艦の航行に対応したのでは」と述べた。
政府は中国に対し、外交ルートで「重大な懸念」を表明した。
また、7月4日に会見した木原誠二官房副長官は、「尖閣諸島は歴史的にも国際法上もわが国固有の領土。領土・領海・領空を断固として守り抜く考えの下、毅然かつ冷静に対処する」と述べた。
木原副長官によると、中国海軍の艦艇が尖閣諸島の接続水域に入ったのは、平成28年6月、同30年1月、6月に続き4回目。
防衛省によると、7月4日午前7時44分ごろ、中国海軍のジャンウェイⅡ級フリゲート1隻が、魚釣島(沖縄県)南西の日本の接続水域に入るのを海自が確認し、護衛艦が対応。中国艦は同50分ごろに接続水域外へ出たという。
一方、7月5日に会見した岸信夫防衛大臣によると、6月15日以降、北海道沖、伊豆諸島沖、南西諸島沖、対馬海峡などで日本列島を周回するように航行している複数のロシア艦艇のうち1隻のステレグシチーⅡ級のフリゲートが、中国艦より早い4日午前7時5分ごろに魚釣島の接続水域に入り、約1時間航行。同8時16分ごろに接続水域を出たという。
この艦艇は、7月2日、別の2隻とともに与那国島と西表島(いずれも沖縄県)の間を北上し、その後、台風4号による悪天候を避けるため、尖閣諸島周辺を航行していたとみられる。
接続水域
領海の基線からその外側24カイリ(約44キロ)の線までの海域(領海を除く)で、沿岸国が、自国の領土または領海内における通関、財政、出入国管理(密輸入や密入国など)、または衛生(伝染病など)に関する法令の違反の防止および処罰を行うことが認められた水域。
これに対し、領海は、領海の基線からその外側12カイリ(約22キロ)の線までの海域で、沿岸国の主権は、領海におよぶ。ただし、すべての国の船舶は、領海において無害通航権を有する(海上保安庁「管轄海域情報~日本の領海」から)。
「緊張を一方的に高める行為。深刻に懸念すべき状況だ」
岸信夫防衛大臣は7月5日、防衛省内で会見し、尖閣諸島周辺の日本の接続水域内で中国とロシアの艦艇が航行したことについて、「中国がこれまで海警船による領海侵入を行ってきた中で、このような航行を行ったことは、同海域における緊張を一方的に高める行為。深刻に懸念すべき状況だ」と述べた。
その上で、岸大臣は「近年、中国の海空戦力によるわが国の周辺の海空域における軍事行動は、ますます拡大・活発化している。防衛省・自衛隊としては、艦艇、航空機による平素からの警戒監視とともに、こうした個別の案件についても、万全の警戒監視を行っていく」と強調した。
情報収集艦は日本列島を一周
統合幕僚監部は7月5日、中国海軍のドンディアオ級情報収集艦1隻が同日午前4時ごろ、沖縄本島と宮古島(沖縄県)の間の海域を北西方向に通過し、東シナ海に向かったと発表した。
この艦艇は、6月12日に対馬(長崎県)の南西海域で確認され、日本海へ向けて航行した後、同16日に津軽海峡を抜け、同26日に伊豆諸島(東京都)周辺の海域で確認され、御蔵島と八丈島との間の海域を西進したものと同一。3週間ほどかけ、日本列島をほぼ一周するような動きをしていたことになる。
海自の護衛艦「せとぎり」などが警戒監視にあたった。