一般市民が自家用車で演習場に直乗り入れ

 【2022年2月10日(木)2面】 新型コロナウイルス感染拡大の影響で自衛隊の訓練展示の中止が相次ぐ中、福知山駐(京都府福知山市、司令・小野田1陸佐)がこのほど、一般市民が自家用車に乗りながら戦闘訓練を見学できる「ドライブ・イン・コンバット」を実施した。

 ドライブ・イン・シアター方式を採用した陸自初の試み。自家用車の車列の前を戦車や装甲車などに乗った部隊が駆け抜ける、さながら「サファリパーク」の雰囲気だ。

 一方で、「密」の状態を減らした。安全に見学できるよう、会場の真ん中に車両を誘導した上で、ある程度の強制が必要になるため、参加者には「避難住民」役として、自発的に従ってもらうとともに、見学車も「有事の際の民間人の避難車両」に設定するなど、災害時をも意識したさまざまな対策を講じ、実現させた。

 1月下旬、その詳細な報告が同駐から届けられた。企画の立案段階から、浮上する課題を一つひとつ解決しながら前へ進み、そして、当日は自衛隊への理解のため、駐屯地が一丸となって奮闘した姿を克明に紹介してくれた。

 コロナ禍だからこその新しい訓練展示。今後、全国につながる可能性が感じられる企画ともいえる。当時を振り返りながら、特集として紹介する。

 【ドライブ・イン・コンバット】 福知山駐ホームページによると、「演習場直乗り入れ型サファリパーク的訓練展示」。昨年11月12日から14日までの3日間、福知山駐の長田野演習場で行われた。

 福知山駐によると、見学車両は3日間で計150台、見学者は計450人。戦車や装甲車、武装した隊員たちの訓練の様子をドライブスルー方式で間近で見ながら、カーラジオから流れる実況を聴き、車のそばを隊員たちが駆け抜ける臨場感を楽しんだという。

 訓練には、3戦車大隊の74式戦車や96式装輪装甲車、3偵察隊の偵察警戒車、3特科隊のFH70、3特殊武器防護隊の除染車などのほか、15即応機動連隊の16式機動戦闘車(MCV)が参加した。

最適解を導き出せ

【福知山駐7普連の投稿から】 
 新型コロナウイルス感染拡大の中でも、訓練の成果を地域、国民に公開するため、「密」にならずに任務を達成できる方法を模索した。

 それが、自家用車の中から映画鑑賞する「ドライブ・イン・シアター」。感染予防対策が可能で、見学者が安心して訓練を見学することができる。訓練場直乗り入れ型訓練展示「ドライブ・イン・コンバット」の方針が決まった。

 場所は、「戦闘地域のど真ん中に、車を縦隊で停車させる」こと。見学車両数は、日頃応援してもらっているSNSのフォロワーの協力を得た。

 公開日は、(1)隊員と家族(2)地域周辺住民(3)SNSで募集した一般見学日-の3日間。一般応募の倍率は6倍で、東は神奈川県、西は福岡県から参加した。

 参加者は、訓練の様子や見学の感想をSNSでアップしたり、動画を編集して紹介。写真や動画などで伝わった。

参加者、車両は「避難民・避難車両」に設定

 気を配ったのは、見学者の安全な誘導。訓練展示の戦闘地域の「ど真ん中に見学車両を誘導して駐車し、安全に見学してもらう方法」として、「『避難住民役』になってもらう」ことだった。

 見学者に確実に統制に従ってもらうには「強制力」が必要。関西にあるテーマパークにヒントを得て、その世界に入り込んでもらい、避難住民になりきってもらうことで、自らの意思で「自発的」に統制に従ってもらった。

 会場が広くなるため、案内や説明の放送は、地元FM放送局の協力を得て、車のFMラジオを通じて伝えた。

本気の訓練

 安全が確保されることなどから、より本物の訓練を展示する必要性があった。

 見学者の受け付けとして、検問所を設置。身元確認として「入場券」を確認し、健康チェックと車両の不審物の点検を行った。避難住民の誘導・警護の任務の隊員たちが見学者に対し、現在の状況を説明し、車列の編成を依頼した。

検温、受付

 車列の編成が終わると、見学位置まで避難誘導。軽装甲機動車の警護の下、小規模な戦闘が行われている戦闘地域の中を進んだ。本物の一般人の検問や誘導は初めてで、隊員たちは皆、真剣に任務に取り組んだ。その効果で、「危険が迫り、避難が必要という世界観」が作られ、見学者も隊員の指示に快く従った。

検問入門

LAVの先導

避難住民を防護する隊員

 戦闘訓練は、「ブルー・ウルフ」と「レッド・フォース」の対抗方式。訓練用交戦装置バトラーを使用した実際的な戦闘訓練を実施した。じ前の訓練の際には、「レッド・フォース」が勝利した日もあった。住民を避難させる任務を有する「ブルー・ウルフ」は、本番当日は絶対に負けるわけにはいかないと、中隊長以下本気で練成した。

ラジオも伝えた

 いよいよ本番。見学車両の左右で、隊員たちの命令、号令が飛び交い、本気のバトラー戦闘が繰り広げられた。

偵察

火力戦闘部隊

通信

 負傷判定の隊員を衛生隊員が第一線救護し、砲弾が落下すると伏せた。見学車両の間を狙撃組が通り抜け、360度全方向から空砲や火工品が鳴り響き、FMラジオから戦闘の様子が聴こえてくる。見学者は車の中から左右を見たり、振り返ったりと、シナリオなく進む戦況を見守った。

衛生隊員

衛生隊員

森林内の戦闘

 最後は、「ブルー・ウルフ」側が、16式機動戦闘車と軽装甲機動車による機動小隊を投入し、「レッド・フォース」を戦闘地域から排除した。

MCVの突入

装甲車部隊の投入

 避難誘導(見学者の退場)が再開され、隊員たちは戦車や装甲車の上から笑顔で見送り、見学者は、自分たちを「警護・救出」した隊員たちに全力で手を振り返していた。

120ミリ迫撃砲女性分隊見送り

状況終了、見送り

 一つの任務をともに乗り切り、隊員と見学者の間に一体感が生まれたようだった。

【自衛隊】忙しい人のための「ドライブインコンバット」【7普連公式】

www.youtube.com

駐屯地「任務達成、自信に」

 世界的なパンデミックの中、「任務は絶対。できる方法を考えよう」を方針に、「感染症安全対策訓練」などを行い、対コロナ戦法を探求してきた。その練度の積み上げもあり、今回の訓練展示が実現できた。

 訓練部隊は7普連の2個中隊を基幹とし、3戦車大隊、3特科隊、3特殊武器防護隊、3後方支援連隊、3飛行隊、15即応機動連隊の16式機動戦闘車で編成。いい協同訓練機会を得た。訓練ごとに、AARを実施し、連携行動が日々円滑となり、練度を向上させることができた。

 予期せぬ相乗効果も得られた。見学者の安全を確保しつつ、部隊は本物の住民の避難誘導訓練ができ、見学者は自衛隊の任務の世界観に入り込むことができ、SNSを通じて広報効果を得ることができた。困難を逆手に取って、新感覚訓練展示「ドライブ・イン・コンバット」という最適解を導き出し、任務を達成できた経験は、駐屯地にとって自信となった。

集合写真

やってみれば、できる

 防衛日報社では、今回の報告を受け、駐屯地関係者に取材した。陸自初の試みについて改めて担当者に聞くと、「今まで発想がなかった」とし、「やってみれば、できるということを実感した」という。
 「臨場感がある」「すごい」「斬新だった」…。参加者の反応もよかった。自家用車を使って誘導したり、カーラジオを利用、参加者を「避難住民役」として指示できるようにしたことも、新しい発想からだった。

 今回の成果を振り返り、緊急時などのための「『国民保護訓練』にもつなげられるのでは」と強調した。

 【福知山駐】 旧陸軍歩兵20聯隊の歴史と伝統を受け継ぐ。今年で開設69周年。京都府宇治川以北の10市4町の防衛警備を担当する7普連と、これを支える後方業務、整備、通信、会計、警務などの専門的機能を有する部隊が所在し、計約1000人が勤務している。「福知山コラッジョコンサート」は、駐屯地に協力してもらっている協力関係者や地域住民、隊員家族に向けた募集広報として毎年、多くの来場者でにぎわう(ホームページから)。また、駐屯地によると、昭和31年、国内初のレンジャー訓練を実施したことで、「レンジャー発祥の地」ともいわれている。


◆関連リンク
陸上自衛隊 福知山駐屯地
https://www.mod.go.jp/gsdf/mae/3d/fukuti_7i/fukuti.htm